PR

第四胃の疾患(diseases of the abomasum) ~ 第四胃左方変位

第四胃の疾患(diseases of the abomasum) ~ 第四胃左方変位 胃の疾患

 
 
第四胃の疾患には、食滞、拡張、左方変位、右方変位、捻転、潰瘍、胃炎などがあり、また消化不良やアトニーの状態となることもあるが、これらの相互関係、発病機序については、なお不明な点が多い。
 
 
これらの疾患は、(1)前胃疾患、(2)第三胃より流入する内容の量と質、(3)幽門(輪)より十二指腸への内容排出機能、(4)腸内容の後送状況、(5)第四胃の運動と消化、あるいは内容の停滞、(6)第四胃粘膜の炎症、などと関連して発生する。
 
 
さらに自律神経の支配異常、腹膜炎などの腹腔内疾患、妊娠、伝染病あるいは、全身的異常の影響をもうけ、その病態生理はかなり複雑であって、まだ十分には判っていない。
 
 

第四胃左方変位(left displacement of the abomasum(LDA))

 
 
乳牛に多発する。(ⅰ)原因:分娩と本症とは密接な関係があると考えられる。ただ経過がきわめて慢性なので、発病の詳細の時期を決定することはできない。
 
 
妊娠中には拡張した子宮に押されて、第一胃が腹底から持ち上がり、第一胃の右側前方にあった第四胃が、第一胃の前・下方を潜りぬけて左方へと圧力の減じた方向へすすむと考えられる。
 
 
分娩が終わると、第一胃は沈下して復位しますが、その時に第四胃が捕捉される。これは特に第四胃がアトニーにおちいっている時、さらにガスが貯留している時におこりやすい。
 
 
貯留ガスの浮力のため、第四胃は左側膁部へ、圧力の弱いその部へと浮上拡張してゆく。すなわち、本症の前提をなすものは、胃アトニーであり、胃アトニーの主因は栄養および代謝障害にあると考えられています。
 
 
分娩時以外でも発生がみられ、また発情時に他の牛の上に跳びあがる動作がその原因となることがあります。
 
 
変位して、第一胃の下に捕捉された第四胃は正常な運動が妨げられるが、転位した部分の内腔の閉塞は不完全です。また、この時第二胃溝(食道溝)も若干捻じれて、その機能が妨げられ、食塊の移動が妨害される。
 
 
以上のように、第四胃アトニー、拡張および変位が相互に関連して本症が発生すると考えられている。
 
 
(ⅱ)症状:経過は亜急性~慢性で、次第に飢餓による衰弱へ移行する。
 
 
亜急性型では、突然食欲が減退し、まれには重度の腹痛および第一胃鼓脹症が随伴することがある。第四胃は膨張して、左側胸壁の後下位にあり、変位が進むとさらに肋骨弓の内側を背方に拡がって、ほとんど腰傍窩fossa paralumbalisの頂点の高さにまで達することがある。
 
 
その場合は、左側肋骨弓が外側方に張り出し、腰傍窩の前方が膨らみ、打診すると良く反響する鼓音を発する。このような亜急性例では、体温が上昇し、脈拍数は100に達するが、慢性の場合には体温、脈拍数は正常です。
 
 
その後は慢性の経過をとり、食欲は一時回復するが間歇的で、飼料を選り好みし、乾草を好む。普通は糞の量が少なく、粘稠、泥状で悪臭があり、時には激しい下痢を呈する時期があります。
 
 
泌乳量は減り、牛は痩せ、腹部は著しく小さくなる。第一胃の運動は認められるけれども回数が減り、減弱して、第一胃音がしばしば聞こえなくなる。
 
 
左側の下肋部に第四胃音(第一胃音と同調しない)が聞こえ、また時に細い金属性の音を聞くことがある。左季肋骨上を叩きながら、その周囲を聴診すると、特徴のあるピッチの高い金属性反響音が聞こえる。
 
 
打診および聴診の位置を変えて調べることによって、第四胃(第四胃ガス)の拡張範囲をほぼ知ることができる。
 
 
直腸検査を行うと、数週間経過した例では、第一胃は小さく、その左方に膨張した第四胃をふれることがまれにある。時には慢性の第一胃鼓脹があります。
 
 
この疾患は致命的ではありませんが、牛は著しくやせて、経済性が低下する。創傷性第二胃腹膜炎、あるいは第四胃の潰瘍などが合併しなければ、血液像には変化がない。
 
 
多くは軽度~中等度のケトン尿が存在しますが、血糖値には異常がない。左側肋骨弓の後方で穿刺を行うと、第四胃液が得られる。この液はpHが1~4であり、また運動性のあるプロトゾアがいないことで、第一胃液と区別される。
 
 
(ⅲ)診断:鑑別診断を要するのは、一次性ケトージスおよび他の疾患に継発する二次性ケトージスで、これらとは非常に紛らわしい。
 
 
左側肋骨弓の後方で慎重に聴診を行い、第四胃音の有無を聞くことが大切です。しかし、正当な治療法に反応しないケトージスの場合には、つねに本症を疑わなければならない。
 
 
肋骨部の叩打聴診(ピングテスト)は診断的に有効ですが、他に密閉されたガスが流動体上に存在する時にも同様の反応がある。たとえば小腸閉塞、第一胃内容が一様に流動状の時、あるいは盲腸捻転の場合で、それぞれ類症鑑別が必要です。
 
 
創傷性第二胃腹膜炎では、第一胃の運動停止、中等度の発熱、腹部の打診痛があります。迷走神経性消化不良では、一般に腹部の膨満、または第四胃の拡張があり、また分娩前に発生することが多いので、鑑別が困難です。
 
 
横隔膜ヘルニアでは、慢性の第一胃鼓脹と腹部の膨満がおこる。鑑別診断のために腹腔鏡を用いることがありますが、確実な診断は試験的開腹術によります。
 
 
X線透視によって貯留ガスを証明することができます。
 
 
(ⅳ)治療法:牛を横臥させ、反転させる保存的治療法にも、しばしば治療効果があり、また腹部のマッサージも行われるが、しかし再発することが多いため、手術療法が広く行われている。
 
 
すなわち、開腹術を行って変位した第四胃を整復し、さらに再発防止のため、種々の処置をほどこす。主な術式は次のようです。
 
 
イ)左右の両膁部を切開し、第四胃内の貯留ガスを排除して、第四胃を正常の位置に整復した後、大網を右側の腹壁内面に縫着する。
 
 
ロ)右側膁部のみを切開して、以下イ)の方法を行う。
 
 
ハ)牛を仰臥位に保定し、剣状軟骨の尾側で旁正中切開によって開腹し、その部に大網の第四胃付着部を縫着固定する。

タイトルとURLをコピーしました