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迷走神経性消化不良(vagus indigestion)

迷走神経性消化不良(vagus indigestion) 胃の疾患

 
 

迷走神経性消化不良

 
 
この疾患は、第二胃と第三胃の間、または第四胃の出口の機能障害が原因でおこる食塊の通過障害が特徴で、前者は機能的前方胃狭窄ante-rior functional gastric stenosis、また後者は機能的後方胃狭窄posterior functional ga-stric stenosisとよばれる。
 
 
本症はHoflund(1940)によって明らかにされたもので、主として創傷性第二胃腹膜炎の波及にもとづく腹部迷走神経の1枝ないし、数枝の不全麻痺または全麻痺の結果、胃の運動不全および機能停止が現れる。
 
 
創傷性第二胃腹膜炎のほかには、第二胃、肝臓、第四胃、食道、またはそれらの周囲に生ずる膿瘍、放線菌病、白血病、結核、腫瘍、脂肪壊死なども原因になることがあると考えられています。
 
 
臨床所見の特徴は、機能性に生じた狭窄部より頭側の胃、すなわち第一胃および第二胃または第四胃に、次第に食塊の過剰な蓄積がおこって拡張する慢性進行性の消化障害、および軽度ないし、中等度の再発性鼓脹です。
 
 
慢性第一胃拡張症、前胃便秘、あるいはまた第四胃食滞、第四胃便秘、第四胃梗塞などと呼ばれてきた症候群です。Hoflundは機能的前方胃狭窄を2型に分けている。
 
 
(ⅰ)第一胃と第二胃のアトニーを伴うもの:腹部迷走神経の背側幹と腹側幹がともに冒された時に発生するもので、第一胃と第二胃がアトニーに陥り、第一胃内容物の正常な層状構造の上部にガスが溜って、急性鼓脹症が現れ、また状況によっては、嘔吐と著しい唾液分泌がおこる。
 
 
この型の発生はまれです。
 
 
(ⅱ)第一胃と第二胃の運動が保持、または強化されているもの:第三胃と第四胃へ分布する迷走神経枝の全部および時には第二胃へ分布する神経枝もあわせて冒された時に発病すると考えられるもので、もっともしばしば観察されるタイプです。
 
 
第一胃と第二胃は内容物がおびただしくつまって、著しく拡張しており、かつ運動が亢進している。
 
 
内容物はよくかきまぜられた薄い粥状ないし液状で、泡沫が多く、暗緑色を呈している。
 
 
これに対して第三胃は小さく、軟かく、第四胃とともにほとんど内容物がない。大多数が、いつの間にか発病して、数週間を経過し、食欲不振と削痩が進行する。
 
 
軽度ないし、中等度の鼓脹がくりかえされ、反芻は不十分か、または欠如し、腹囲が漸進的に増大し(左側全体と右側の下部)、脊柱が軽く左方に彎曲する。
 
 
排糞量は減少し、糞は暗緑褐色ないし、黒ずんでおり、粘液性かまたは固い。聴診では、前胃の液状内容にもとづく雑音が聞こえる。
 
 
患畜の挙動は不活発で気力がなく、皮膚は弾力を失って乾燥し、体温は正常かやや低く、呼吸数は正常、増、減まちまちですが、脈拍はしばしば著しい徐脈を呈する。
 
 
直腸検査を行うと、第一胃背嚢の強度の拡張と緊張および腹嚢の右方への拡張、第一胃の液状、または粥状の内容物が触知される。すなわち、第一胃の拡張および過剰な内容の集積、胃の運動亢進、再発性の鼓脹、排糞量の減少および徐拍が特徴的な徴候です。
 
 
また診断にあたっては、異物(石、結石、胎盤その他)、腫瘍などに基因する機械的な通過障害、微生物相の不活化にもとづく、第一胃の慢性の拡張、幽門狭窄、第四胃左方または右方変位、盲腸の拡張と捻転、汎発性腹膜炎、胎膜水腫との類症鑑別が必要です。
 
 
狭窄が完全かつ持続性の場合にはふつう数日~数週の経過ののち、飢餓による衰弱と中毒のために死亡する。狭窄が部分的な場合には、適当な治療によって、あるいは自然に、病状が徐々に改善され、またなかにはなおるものもあります。
 
 
治療の対象となるのは高価な牛で、いまだ衰弱が著しくなく、胃の拡張が中等度で、第二・三胃口の緊張がなお保たれており、また第三胃の充満の程度が正常で内容が硬い場合で、特に前胃の内容が正常な構成と層状構造に近い症例に限られ、内容がすでに泡沫性で強くかきまぜられているもの、あるいは腐敗しているものは治療の対象にならない。
 
 
治療法としては原因の除去(異物の除去、腹膜の膿瘍の切開など)と、一時的に第一胃に瘻管を設置して、健康牛の胃液2~3lをくりかえし注入することが試みられる。
 
 
そのあと2~4週の間に症状の改善(食欲、前胃の運動および排糞の正常化)が現れなければ屠場に送る。
 
 
機能的後方胃狭窄は第四胃に分布する迷走神経の分枝の傷害によるもので、幽門が狭窄して通過障害がおこる。これには(イ)持続型と(ロ)再発型の2型があると考えられているが、再発型は非常に稀れです。
 
 
持続型の場合には、第四胃に(第三胃にも)粗大な食塊が充満して、著明な拡張がおこる。

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