反芻獣の胃は第一胃(瘤胃)rumen、第二胃(蜂巣胃)reticulum、第三胃(葉状胃)omasumおよび第四胃(皺胃)abomasumの4つの嚢に分かれており、そのうちの第一~三胃を前胃proventriculusといいます。
第一胃は腹腔の左半分と右下半分を占め、その容積は、複胃のほとんど80%に達し、背・腹嚢、第一胃前房atrium ruminis、第一胃前庭vestibulum ruminisに分かれる。
第二胃は小さく、第一胃と横隔膜の間にあり、弛緩した時は、その尖端は剣状軟骨に達する。
粘膜は蜂巣状の小区画に分かれている。
第三胃は第一胃と肝臓に挟まれ、第二胃の右後方、第四胃の背位にあって、牛ではほぼ第Ⅸ~Ⅻ胸椎間に位置する。第三胃葉laminae omasiと第三胃管canalis omasiに分かれる。
第四胃は第一・二胃の右側、第三胃の下方にある。第三・四胃口ostium omasoabomasicumによって、第三胃管につらなる。第四胃は噴門部、胃底(胃体)および幽門部に分かれ、それぞれに腺を有する腺胃です。
幽門部は大彎につづいて上行し、幽門括約筋の発達した幽門を経て、十二指腸につらなる。
採食・嚥下された飼料は、食道から第一胃前房を経て、第一胃および一部は第二胃にはいる。また第一・二胃口ostium ruminoreticulareと第二・三胃口ostium reticuloomasicumの縁にある第二溝sulcus reticuli(食道溝)が管を形成して、流動状の内容は第三胃管を通って、直接第四胃に流入する。
第二胃は、ほぼ30~60秒の周期で、多くは二段連続の収縮運動を行い、それに伴って、第二・三胃口が開閉すると、第一・二胃の内容は第三胃葉間に吸い込まれ、さらに第三胃の不定期な収縮によって、第四胃へ後送される。
第一胃は第二胃の上昇収縮運動と同調して、運動を開始し、第一胃内容の攪拌、混和、反転を行い、一方その中に常在する多数の原虫、細菌類などによって、醗酵が行われる。
また時折、反芻運動が現れる。
すなわち、第一胃・第二胃の強い圧迫、収縮によって、第一胃の内容が食道を逆流、上昇して口腔に達し、50回前後の咀嚼運動後に再び嚥下される。
この吐出regurgitationに合わせて、第二胃は上昇収縮運動を行う。
第四胃では胃体部と幽門部との境界部から、ほぼ10秒の間隔で蠕動運動が始発して、幽門に向かい、その運動によって第四胃の内容は十二指腸に送り出される。
単胃と異なって、正常時ではほとんど逆蠕動運動は出現しない。
第一胃運動による攪拌、反芻による唾液との混合、第一胃内の醗酵によって粉砕、消化された第一胃内容は、第四胃に達して、さらにその分泌する胃液により消化され攪拌されます。
検査法
反芻胃の四つに分かれた嚢は、それぞれ固有の機能を持つとともに、また総合的に胃としての作用を営む。したがって、検査法も個々の胃を対象とするとともに、総合的診断が必要です。
さらに第二・三胃口、第三胃管、第三・四胃口および幽門など食道から十二指腸にいたる間に、胃内容は狭隘な部分を通過するということを忘れてはいけません。
視診:単胃と同様、腹囲の膨満、あるいは縮小に着眼するが、左右、上下と変化の現れ方によって診断が異なる。たとえば左膁部の膨満は、第一胃の鼓脹あるいは食滞、陥凹は飢餓を疑い、右下腹部の膨満は第四胃食滞を疑う。
触診牛では腹壁が緊張しているので、犬、猫のように十分な触診はできない。しかし、左膁部の触診で、第一胃の状況は触知できる。また強く短急に圧迫することによって、第一胃または第四胃の内容の性状をほぼ知ることができる。
打診第一胃または第四胃の打診の際に、鼓音をきけばガスの貯留を、濁音は内容充満を疑わせる。第三胃は肝臓の濁音界とかさなるが、第三胃の拡大が著明な時は、濁音界の拡大が判るといわれている。
叩打聴診法体壁を打診しつつ聴診する際に聞こえる金属性反響音ping soundは、第四胃の佐方または右方変位の折りにガスの貯留を診断する上に有用です。
聴診左膁部の聴診によって、第一胃の運動音が聴取できる。また、第四胃佐方または右方変位において、貯留ガス泡の運動音をきく場合がある。
第二胃音、第三胃音、第四胃音も聴取できるといわれているが、第一胃音と重複するため確認困難な場合が多い。
直腸検査牛では、第一胃の後部が触知可能です。普通、第四胃は触知できないが、後方への拡張が著しい時は触れることもある。
X線検査大容量のX線診断装置によって、第一胃、第四胃底の状況、第二胃の収縮運動、第二胃内異物の存在が診断可能です。第四胃内のガス貯留も診断できる。
造影剤投与によって、第一胃および第二胃の造影は可能ですが、第四胃の造影には、造影剤をガブのみさせることが必要であり、また第三胃の造影はかなりむずかしい。
その他、反芻胃の疾患では、上記の診断法とともに血液検査、尿検査などを行って、総合的に診断する必要がある。たとえば嚥下異物による創傷性疾患では、白血球数、白血球百分比を測定し、第四胃変位については、尿中ケトン体の検査を行い、また、第一胃と第四胃の疾患の鑑別には、経口的に採取した第一胃液と腹壁からの穿刺によって得た第四胃液について微生物やpHの検査などが行われる。