第四胃潰瘍(abomasal ulcer)
第四胃潰瘍の大多数は、傷害を受けた粘膜の自己消化による消化性潰瘍であり、一方、経過中に炎症性~壊疽性の病変(異物による損傷、結核性、真菌性)または腫瘍性の疾病が関連して発生した場合は非消化性潰瘍といわれる。
表在性の小さい欠損はびらんerosionです。
第四胃潰瘍の発生頻度は生後の最初の3ヶ月間が最も高く、その後月齢が進むにつれて明らかに低下し、一方びらんの発生が多くなる。
これらの発病率には飼料、管理に起因すると考えられる地域差があります。また穿孔性の第四胃潰瘍は初産の雌牛に起ることが最も多く、分娩後4週間の間に発生する(第1週が最高)。
肥育牛では長途の輸送による疲労のあとでしばしば発症する。子牛では潰瘍とびらんが幽門部に集中するのに対して、成牛の潰瘍は胃底部と幽門部にほぼ一様に分布し、一方びらんは胃底部に限局する。
穿孔性の潰瘍はほとんどすべて胃底部の大彎の近くに発生します。
本症の原因はまだ完全には解明されていない。子牛の場合には液状の飼料から固形飼料への切り替えによるとされていますが(創傷性-機械的原因説)、他に第四胃の胃酸過多、局所の血液循環障害、神経性要因などの考えがあります。
雌の成牛の場合には分娩、高度の泌乳、濃厚飼料の多給への切り替えなどのストレスの影響が注目されています。
潰瘍の症例は初期に明瞭な症状を現さないため見逃されることが多く、他の死因による剖検の際にかなり大きな潰瘍の瘢痕が発見されることも珍しくない。
しかし詳しく観察すると、時には食欲がむらになる、中等度の鼓脹の再発、腹痛、軽度の不安、時に嘔吐、さらに削痩、乳量の減少、糞の性状の変化などが認められることがあり、また他の場合には単に一過性または間欠的に糞が黒くなるに過ぎないことがある。
胃壁の血管の破綻の程度あるいは穿孔の有無によって病勢および経過が異なる。比較的太い血管が潰瘍に侵蝕されて破壊されると第四胃と小腸の内腔に向かって大出血が生じ、また潰瘍が穿孔して多量の食塊が腹腔内に流出すると急速に汎発性腹膜炎が発生してショックに陥り、いずれも24時間以内に死亡する(甚急性)。
比較的細い血管が傷ついて出血が続く場合には進行性の貧血、下血による黒い糞の排泄など、また比較的少量の食塊が腹腔内に漏出した場合には疝痛、気腹症などを主徴として病状が悪化し、2~4日の経過で死亡する(急性)。
少しずつごくゆっくり胃内容が腹腔内に漏出する場合にはそれらは腹膜炎性に被包され、また潰瘍が網嚢、大網付着部、第二胃・第三胃の内腔、脾、肝、または腹壁を貫いて体表に穿孔した場合にも、全身症状には特徴的なものが乏しく、慢性消化不良の症状のまま削痩し、次第に脱水に陥る(亜急性~慢性)。
本症は第四胃の梗塞・砂沈殿症・白血病、腸閉塞、創傷性第二胃腹膜炎、低カルシウム血症性産褥麻痺などとの類症鑑別が必要です。
時期を失することなく診断がついた場合または第四胃潰瘍が疑われる場合には、易消化飼料の給与、輸血の反復、制酸薬と収斂薬の投与などの保存的治療法を施す。
また潰瘍形成が臨床的に明らかな場合には潰瘍部の切除手術によって治癒することが少なくない。
第四胃砂沈殿症(sand sedimentation(geosedimentum)of the abomasum)
牛が土をなめ、あるいは土のついた根菜類を食べていると、砂が第四胃底にたまることがあります。少量の場合は、特に異常を示しませんが、大量になれば胃粘膜を刺激し、第四胃炎となり、また食滞を発症する。
食欲不振、下痢を発する。食滞に類似した症状が現れる。X線検査によって確実な診断が得られる。
治療法は食滞に準じて行う。ただし大量の場合は第四胃切開が必要です。