股関節articulatio coxaeは、寛骨臼acetabulunmと大腿骨頭とのなす関節で、臼状関節です。三軸性関節ですが、前後の運動が主体をなします。
股関節脱臼は牛、犬に多く、馬には稀に発生します。
股関節の脱臼の原因
普通は外傷性脱臼で、蹴られる、打撲、転倒、滑走、急旋回による肢の強度の外転または内転、手術時の保定失宜 、あるいは分娩、発情時の乗駕などの際におこります。
また種雄牛では、種付時の滑走、転倒、異常な動作が原因となることがあります。したがって、種付中の後肢の原因不明の跛行に対しては、まずこの脱臼を疑った方がよい。
牛に多発する理由の一つとして、寛骨臼の解剖学的構造の特色、すなわち寛骨臼が浅く、寛骨臼窩が深く広く切れ込み、一方、大腿骨頭の彎曲半径が馬に比してかなり小さく、また副靭帯、ときには円靭帯をも欠いていることが挙げられます。
犬、馬では、輪轢など外力による関節の無理な運動によっておこります。
股関節の脱臼の症状
牛では患肢を外旋させて立ち、大転子の転位のため、股関節部が変形隆起し、他動運動によって、しばしば捻髪音を聞く。
歩様は強拘で肢をひきずり、肢の提出が著しく制限されます。長時間放置されたものでは起立、歩行が困難になります。
すなわち、寛骨臼が結合織の増殖によって充填され、また関節端周囲に関節包様の結合組織膜が生じて、整復不能になることがあります。
大腿骨頭が前上方、下方に脱臼することが多く、時には閉鎖孔内に転位します。発情時に乗駕されて両側の脱臼をおこし、いわゆる股開きの状態を呈することがあります。
この部は厚い筋肉におおわれているので、診断しにくく、特に不全脱臼の場合は、寛跛行として処理されることがあります。
牛、馬では整復が困難で習慣性脱臼となりやすい。
犬の前上方脱臼では、患肢を半ば屈曲し、かつ内転させます。後方脱臼では患肢を伸ばし、かつ内転させている。
下方脱臼では、患肢をやや屈曲した肢勢で固定させています。
長期放置されたものでは、偽関節が形成され、関節を顕著に屈伸させて、一見正常と見えるものがあり、常歩では患肢を使いますが、速歩では挙揚したままのものがあり、またなかには、つねに患肢を挙揚したままのこともあります。
犬を背位に保定し、膝関節をよく伸ばして左右の長さを比較すると、明瞭に差違を認めることができます。稀れに両側性となり、犬坐姿勢をとり、後軀を引きずって前進します。
X線検査により、詳細を確認することができます。
股関節の脱臼の治療法
牛では全身麻酔下に横臥させて、患肢をやや外転させ、脊柱に対して約120°の方向に強く牽引しつつ、大転子に指をあてて強く押して整復を試みると、成功することがあります。
整復が成功しない時は、放置して偽(性)関節の形成をまつ。
しかし、牛、馬の完全脱臼は整復困難なものが多く、またいったん整復しても再発しやすく、ついに慢性変形性(奇形性)炎となり、永久跛行となることがあります。
また馬では、長期におよべば対側肢は負重性蹄葉炎となり、蹄骨が沈下することがあります。
犬では脱臼発生後なるべくすみやかに(48時間以内)、全身麻酔をほどこし横臥させて、前上方および後上方脱臼では、患肢をやや外転させて、脊柱に対して100~110°の角度で強く牽引すると、大腿骨頭は寛骨臼縁をこえて旧位に復し、その際、滑音を聞く。
しかしこれが成功しない時は、寛骨臼切痕を経由する整復を試みます。
下方脱臼の時は単に患肢を外転させ、寛骨臼切痕を経て整復します。整復後3~5日は膝関節を屈曲位に固定して再発を防ぎます。
以上が成功しない時は、観血的手術により整復します。
すなわち、骨頭切断術、ピンニングによる固定、トグルピンによる固定、あるいは靭帯縫合などが試みられています。

