膝関節articulatio genusは大腿脛関節articulatio femorotibialisと大腿膝蓋関節articulatio femoropatellarisとからなります。
前者は不完全蝶番関節、後者は大腿骨滑車と膝蓋骨とのなす関節で、蝶番関節です。
大腿脛関節の脱臼
犬以外の動物では、この脱臼は稀れです。
膝蓋骨脱臼(dislocation of the patella, luxatio patellae)
膝蓋骨は大腿骨遠位端前面の大腿骨滑車trochlea femoris(2個の縦稜と滑車溝)と関節をなしています。両者の間に関節包があり、さらに内側および外側大腿膝蓋靭帯lig. femoropatellare mediale et lateraleと、膝蓋靭帯lig. patellaeによって固定されます。
膝蓋靭帯は膝蓋骨と脛骨粗面を結び、馬・牛では外側、中間、内側の3靭帯に分かれています。また膝蓋骨には大腿四頭筋、大腿二頭筋(一部)が停止している。
膝蓋骨は、さまざまの原因によって外方、内方脱臼および上方固定(垂直脱臼)をおこします。牛、馬、犬にしばしばみられます。
発生と原因
牛に発生し、馬、犬ではまれに見られます。内側の膝蓋靭帯の伸張、断裂あるいは慢性膝関節炎の結果、膝蓋骨が外側方に脱臼するもので、栄養不良の動物に発生することが多い(病的脱臼ともいえる)。
また馬では、先天性に発するともいわれます。
恒久性permanentと習慣性habitual or intermittentの脱臼とがあります。
症状
膝関節と飛節を屈し、蹄尖で接地します。
すなわち、患肢は短くみえます。膝関節の運動範囲は著しく制限されて、運歩は強拘短縮し、蹄尖先着します。転位した膝蓋骨を触知することができます。
習慣性の例は、直飛の肢勢の牛馬に多く、膝関節を屈すると、膝蓋骨は下方に移動し、外滑車稜をこえて外側に転位し、瞬間的に固定されます。
したがって、患肢は伸張しにくく歩幅は短縮し、強拘な歩様を数歩呈した後、膝蓋骨は正常位にもどり歩様は回復します。
治療法
恒久性外側方脱臼では、患肢を伸張させるとともに、膝蓋骨を手で押して、上前方に移動させます。10~14日間、患肢の屈撓を防ぎ、緩和な皮膚刺激剤を塗布します。
習慣性のものに対しては休養させ、栄養改善につとめます。
発生と原因
大動物ではまれです。幼犬に先天性に発生することが少なくない。ボストンテリア、ペキニーズ、狆、ポメラニアンでは、しばしば遭遇します。
大腿骨遠位端の彎曲、脛骨櫛の内方転移、膝蓋滑車の形成不全などが原因となります。
症状
膝蓋骨は内方に脱臼し、患肢を半ば屈撓し、大腿四頭筋に牽引されて、膝関節が内転します。また肢を伸展させると中途で固定されます。
歩幅は短縮し、走る時には間歇的に患肢を着地します。
後軀は動揺し、負重不能に陥ることもあります。転位した膝蓋骨は触診が容易で、癒着しているものもあり、またまったく自由に移動する例もあります。
治療法
新鮮な症例は、全身麻酔下に整復すれば、予後は良好です。陳旧例では、手術によって、膝蓋骨の固定をはかることがあります。また、局所の電気刺激療法が奏効する例もあります(犬)。
発生と原因
栄養状態の不良な若い牛および馬におこることが多い。
恒久性のものは、後方に蹴り、泥濘で滑り、あるいは臥位からおき上がった時に肢を後方に伸ばすことなどによって発生します。
牛では、しばしば習慣性に発生します。
症状
膝関節および飛節が屈撓不可能となって、患肢は伸展したまま固定され、蹄の前壁を接地させます。強く緊張した膝蓋靭帯および滑車に触れる。
歩かせると患肢を後方に強く伸ばしたまま、蹄をひきずって前進し、あるいは患肢を外弧を画いて振るように前進させます。
本症は一度回復すれば、局所の炎症や跛行を後遺することなく治癒しますが、長期間症状が持続すると、関節炎、関節周囲炎を併発することがあります。
習慣性脱臼では、常歩では異常を認めませんが、速歩に移ると、数歩にして突然肢患を強く伸展させ、そのまま蹄を引きずってはしり、また突然膝蓋骨の固定がとれて、正常な速歩にもどるような例が少なくありません。
常歩でも発生することがあり、両側が交互に脱臼をおこすものもあります。
ごく軽症では、単に肢が地面を離れる時に、一瞬ためらいをみせる程度の例もあります。触診によって、膝蓋骨の転位、内側膝蓋靭帯の緊張を知る。
発生機序
膝関節が屈撓する際に、滑車面上を滑動すべき膝蓋骨が、滑車の近位に固定され、関節が屈撓し得ないために生ずるもので、これは内側膝蓋靭帯が相対的に短く、内側の滑車稜上に転位し、そこに稽留すること(一種の腱脱臼)によるものと考えられ、これを膝蓋骨垂直脱臼としました。
治療法
膝蓋骨を固定から解放するためには、いったん患肢をさらにいっそう伸展させるため、動物を急に前進させることも一法です。しかし、通常は球節の直上に結びつけたロープを強く前方に牽引し、同時に術者は膝蓋骨を圧迫して押しもどす。
これが成功しない時は動物を倒臥させ、全身麻酔下に再び試みます。
以上の処置のほかに、牛では内側膝蓋靭帯の皮下切断術を行います。習慣性脱臼に用いて効を奏します。