関節を構成する骨の相対する面が、相互の正常な位置関係をまったく失った状態を完全脱臼といい、関節面の一部がなお接触を保っている時は、不(完)全脱臼)といいます。
また前者を単に脱臼といい、後者を亜脱臼subluxationともいいます。
脱臼の型を表現する場合には、通常、遠位骨(近位骨)の移動方向または位置をもって示します。たとえば、肘関節の脱臼において橈骨外方脱臼、股関節脱臼において(大腿骨頭)背前方または背後方脱臼などと記載します。
外力の作用によって生ずるものを外傷性脱臼traumatic dislocation、関節の病的変化によるものを病的脱臼pathologic dislocation、先天的な関節の異常に原因するものを先天的脱臼congenital dislocationといいます。
また自己の筋力によって自由に脱臼するものを随意脱臼arbitrary dislocation、軽微な動機によって脱臼を反復するものを習慣性脱臼(または間欠性脱臼)habitual dislocation(or intermittent dislocation)という。
さらに皮膚の損傷を伴わない場合を単純脱臼simple dislocation、皮膚損傷があり、関節が外界と交通している時は複雑脱臼compound dislocation、骨折を伴うものを骨折脱臼(または脱臼骨折)fracture dislocationと呼びます。
2個の骨が真の関節を構成することなく相互に接着している場合に、両者が分離した時は、これを離開diastasisといいます(たとえば半関節の脱臼)。
なお、受傷直後のものを新鮮脱臼、経過の長いものを陳旧脱臼とよびます。
外傷性脱臼
脱臼は、関節が生理的範囲をこえて運動を強制された場合に発現します。
外傷性脱臼の大部分は、外力の間接作用によっておこります。作用する外力は捻挫におけるより大きい。
間接的に作用した力によって、異常運動に対する関節の制動装置(骨突起、関節窩縁、関節包、靭帯など)が支点となって槓杆作用がはたらき、関節頭が正常位からはずれ、多くは関節包に生じた裂隙から関節頭が包外に脱出転位します。
稀れに発生します。
外力が直接間接に作用し、その関節に脱臼が生じます。
筋肉の収縮により、生理的範囲をこえて関節が運動した場合にも、脱臼がおこることがあります。なお、いったん脱臼したものに、さらに力が加われば、二次的に、位置が変わる(続発性脱臼consecutive dislocation)。
症状と診断
新鮮脱臼では、次の症状が現れます。
関節軸の変化、関節腔の空虚などがおこり、関節の輪廓は変形し、しばしば関節頭や関節窩を触知できます。
内出血著明、継発性炎症により関節部が腫大すれば関節の輪廓は不明瞭となります。
患肢は各脱臼に定型的な肢勢に固定されます。これを異常固定といいます。この肢勢から動かそうとすると運動が制限されて、弾力的抵抗を呈します。
バネ様固定または撥条様固定springy fixationといいます。骨折脱臼の時には、これが認められないことがあります。なお、一般に完全脱臼の場合は、患肢は健肢に対して短くみえ、不(完)全脱臼では長くみえます。
疼痛:自発痛のほか、圧痛、運動痛を現すことがあります。
機能障害:疼痛、変形、異常固定などにより関節運動は制限され、機能障害が現れます。
診断上の注意
注意深い視診および触診、他動運動、対側肢との比較によって診断は一般に容易です。
ただし、腫脹が著しい場合、あるいは厚い筋層でおおわれた関節では、診断困難なことがあります。
いずれにしても、X線検査によって骨端の異常位、骨折合併の有無を正確に知る必要があります。血管、神経が二次的に損傷(圧迫、挫滅)をうけ、出血、血行障害、神経痛、神経麻痺、組織の壊死をおこしやすい。
末梢部の脈拍・知覚の有無、運動の状況を検査することを忘れてはいけません。
関節に近い部位あるいは関節内の骨折を伴う場合があるので、注意が必要です。また脱臼時には、程度の差はありますが関節包・靭帯の損傷、関節内出血があると考えられるので、その診断も行うべきです。
またすでに関節が病的状態であるところに、脱臼が発生することもあります(病的脱臼の素因をもつ)ので、その点にも注意しなければなりません。
なお脊椎の脱臼では、脊髄損傷により、神経障害、内臓機能障害もおこしやすいので、それらの診断も怠ってはなりません。
予後および経過
動物の種類、関節の種類、経過時間、関連組織の損傷の程度、外傷・骨折・関節内障の有無によって、予後が左右されます。
大動物では、しばしば骨端を整復することが不可能ですが、小動物では大部分の例において整復可能です。一般に合併損傷のない脱臼が、不当に遅延することなく整復されれば予後は良好です。
しかし腱・関節包・筋・骨折片などが骨間に介在するもの、あるいは骨体部の骨折が合併して整復時に槓杆力を骨頭におよぼし得ないものでは、整復が妨げられ、機能の完全回復はのぞめません。
またすでに病的な関節、あるいは脱臼の結果病的状態となった脱臼は整復後に再発しやすい。
脱臼がそのまま放置される時は、疼痛、腫脹は次第に消褪し、関節の可動性は幾分回復しますが、著明な機能障害がのこります。
また関節包およびその周囲の軟部組織、関節軟骨は結合織化するので、その後、たとえ整復しえても完全には復旧しません。
なお脱臼のまま放置した場合、そのまま両骨が接して新関節をつくることもあります。
治療法
脱臼治療の要点は、整復reduction(reposition)、固定fixation(immobilization)および後療法postoperative careです。
もちろん、外傷の治療、腫脹・炎症に対する治療も並行して行います。
脱臼の整復とは、脱臼した骨端を関節包の裂傷部を通じて、再び原位置に還納することをいいます。一般に不(完)全脱臼の方が容易です。できるだけ早期に行った方がよい。
各関節の解剖的特徴、脱臼の成立機転、脱臼骨頭の位置および脱臼の程度などによって、整復法は同一ではありません。
あらかじめ整復の操作を検討して、その方法を決定してから行います。むやみに過度に牽引すればかえって無用の損傷を招きやすい。
整復の際には、全身または脊髄麻酔などにより疼痛と筋肉の緊張を減じ、脱臼肢を牽引して、骨頭の二次的転位をのぞき、次いで脱臼をおこした機序を逆にたどって骨頭部を還納します。
この際、直接骨頭を圧迫できれば効果的です。確実に整復された時には一種の滑音を触知あるいは聴取し、本来の関節運動が可能となります。
正しく還納されない時には、また容易に脱臼位にもどる。
整復後は1~2週間安静に保ち、その間必要に応じて固定包帯fixation bandageまたは副子splintをほどこし、関節包などが修復し、関節周囲に結合織が形成されて関節が十分固定されるのを待ちます。
関節窩がかけたり、関節固定組織のいたみの著しい時は固定は困難となります。
固定安静の期間が過ぎれば、温浴、マッサージ、能動的または受動的運動などの後療法を行います。
後療法は状態に応じ、漸進的に行い、脱臼をおこしたのと同一の運動はさけるべきです。
陳旧な脱臼の非観血的整復は成功しないことが多い。
また関節包裂傷部に脱臼骨頭が嵌頓したり、軟部組織や骨片により、整復路が閉鎖された時、あるいは骨幹、骨端の骨折がある時は、非観血的整復は不可能な場合が多い。
このような時には、観血的に整復を行います。
ときには関節形成術、関節頭切除術なども行われます。
