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馬蹄の疾患(Diseases of the Hoof of the Horse) ~ 馬蹄の解剖と生理

馬蹄の解剖と生理 蹄および爪の疾患

 
 
馬蹄は馬の四肢の末端にあって、運動器の一部をなす重要な器官です。
 
 
駐立時には、つねに体重を負担し、さらに運動する際には、地面からの反圧を受けながら離地-反回、着地などの各歩期における肢の運動を円滑に推進する役目をはたしています。
 
 
したがって、蹄が罹患するときは、ただちに運動の異常を招き、馬の能力を著しく減退させるものです。また蹄の外表は強靭な角質で被われているため、他の外科的疾患と異なって、内部の病変を観察することは困難な場合が多いから、診断、治療には特別の配慮が必要です。
 
 

馬蹄の解剖と生理

 
 

蹄の発生

 

蹄鞘hoof capsule, capsula ungulaeを構成する角質部は皮膚の構造に似て、蹄壁の角質は蹄冠部と蹄壁の真皮から、蹄底、蹄叉の角質は蹄底真皮、蹄叉真皮よりそれぞれ発生して、蹄鞘を形成しています。
 
蹄の発生の状態を見ると、4週齢の胎児(体長約3cm)では、まだ蹄の形態をなしていません。蹄壁相当部は幼若上皮細胞、蹄骨相当部は軟骨細胞が集合しているにすぎない。
 
結合組織相当部は胎生結合織で占められ、上記の軟骨細胞群の周囲に密に存在し、腱、血管、神経などの発生は見られません。
 
3ヶ月齢の胎児(体長10~14cm)では、外観上はおおむね蹄の形態を示し、蹄角質の形成および腱、血管、骨組織なども認められ、特に蹄角質は厚い蹄餅(胎垢eponychium)で覆われています。
 
7ヶ月齢の胎児(体長50~60cm)になると、蹄角質部には角細管、真皮葉、表皮葉の発生が認められて、角質表面の角化は進行し、蹄骨の骨化も先端よりはじまり、知覚部には血管、神経の発生が明らかに認められます。
 
蹄冠部における皮膚では、その胚芽層から蹄壁、蹄底、蹄叉の胚芽層への移行がみられ、蹄角質の発生が皮膚と同様に外胚葉性の組織に由来していることが認められます。
 
出生後の蹄は、起立歩行するに及んで、蹄餅が自然に剥離し、負重および地上圧に伴って蹄機が営まれながらさらに発育していくのです。
 
組織学的に見て蹄が完全に成熟するのは生後4~5年で、その後は、蹄疾患がない限り、その形態を保ちながらいわゆる蹄角質の更新がなされます。

 
 

蹄の解剖

 

蹄は骨部、弾力部、知覚部および角質部からなり、角質部は他の3部を収める蹄鞘を形成します。
 
骨部は中節骨(冠骨)short pastern bone, 末節骨(蹄骨)coffin boneおよび遠位種子骨(舠骨)distal seamoid bone(navicular bone)からなります。
 
蹄骨は多孔性、軽石状の骨で、前、後および下面の3面を有し、多数の血管孔が貫通し、伸筋突起processus extensoriusは総指伸筋M.extensor digitalis communisの付着部をなします。
 
後面は半月状櫛(屈筋面facies flexoria)をなし、深指屈筋M. flexor digitalis prof.の腱の末端が付着しています。
 
蹄骨の二つの掌突起(蹄骨枝)processus palmarisには、蹄軟骨cartilago ungulaeが付着しています。蹄骨の形状は蹄形に一致し、前肢の蹄骨は円形、後肢の蹄骨は卵円形をなすので前、後蹄の区分は明瞭です。
 
なお、蹄骨には骨膜を欠いています。
 
舠骨は冠骨と蹄骨のなす関節面の後方に位置し、深指(趾)屈筋の腱がその後面を滑通して、舠嚢(粘液嚢)は両者の間に存在します。
 
冠骨は立方体をなし、上端の両側に浅指(趾)屈筋M.flexor digitalis superficialisの腱が付着します。
 
弾力部は馬蹄にあっては、蹄軟骨と跖枕(蹠枕)digital cushionからなり、運動力学上、重要な組織であって、地面よりの反圧に対する緩衝装置として作用します。
 
左右2個の蹄軟骨は軟骨板で蹄骨枝に付着し、不規則な卵円形を呈して、蹄冠下に位置していますが、後半部は一部蹄冠上に出て、蹄球bulbの基礎をなします。
 
跖枕は弾力線維と結合織を主とした脂肪様組織からなり弾力性に富み、楔形で蹄叉の形に似ており、知覚部の肉叉と結合しています。
 
知覚部はまた蹄真皮corium of hoofとも呼ばれて、皮膚の真皮に相当し、血管、神経に富み、知覚鋭敏で、肉縁perioplic corium、肉冠coronary corium、肉壁laminar corium、肉底solar coriumおよび肉叉corium of the frogからなり、蹄各部の角質を発生し、蹄鞘と蹄骨を結合しています。
 
肉縁は皮膚の下端と肉冠の間にあって、絨毛を有し、蹄壁の外層である蹄漆層(エナメル質)periopleを生ずる。
 
肉冠は小指幅の輪状帯をなし、肉縁とほぼ平行して、上部は肉縁、下部は肉壁に接してはしり、表面に絨毛を有し、蹄壁および蹄支barの中層(保護層)を生ずる。
 
肉壁は主として蹄骨の壁側面を被い、外面に真皮葉dermal(corial)laminaeを有して、蹄鞘内面の表皮葉epidermal laminaeと嵌合します。
 
個々の真皮葉には、さらに副真皮葉があって、表皮葉より出た副表皮葉と非常に緊密に結合しています。
 
肉蹄は蹄骨の下面を被い、表面に絨毛を有して蹄底の角質を生じます。
 
角質部は知覚部の各部より発生し、蹄鞘を形成して、その内部に存在する諸組織を保護し、四肢の末端にあって、馬の運動器としての蹄の機能を発揮します。
 
その構造は外見的には蹄冠coronet or coronary band、蹄壁hoof wall、蹄底sole、白帯(白線)white line、蹄叉frogからなります。
 
蹄冠は四肢の皮膚の下端縁にあって、蹄壁および蹄球と結合しています。
 
蹄壁は蹄尖toe、蹄側quarters、蹄踵heelの3部からなり、一般に蹄尖壁は蹄踵壁の2倍の厚さがあります。蹄壁は外、中、内の3層からなります。
 
外層は肉縁から生ずる薄い角質膜で蹄漆層と称し、中層を被って、蹄の乾燥を防ぎます。中層は保護層とも称し、肉冠に由来し、角細管horn tubuleと各間質からなる厚い角質層です。
 
内層は肉壁から生ずる表皮葉からなり、葉状層とも称し、真皮葉と強く嵌合します。
 
蹄底は蹄壁中層の下縁によって包まれ、白帯(白線)によって中層と結合する角質部で、後半中央部に三角形の蹄叉が入り込みます。
 
蹄底は前方の蹄底体および両後側の蹄底枝からなります。蹄負面bearing surfaceは蹄壁中層の下端(蹄壁負面)、白帯および蹄底外縁を合わせた接地面をいい、また蹄負面の外縁を特に蹄負縁といいます。
 
装蹄および削蹄上重要な部分です。
 
白帯は蹄底の外縁と蹄壁負面との間にある黄白色の線で、蹄鉄の釘付けの際の目標となります。白帯は真皮葉下端の絨毛から発生する軟角質からなり、蹄壁と蹄底を固く結合し、蹄下面に加わる各種の外力に弾力性をもって対処する機能を有します。
 
蹄叉は楔形の柔軟な弾力性に富んだ角質で、その前端は蹄叉尖といわれ、後半は蹄叉中溝central sulcus, cleft of frogによって内外の蹄叉脚に分れ、蹄底との境界は蹄叉旁(側)溝collateral sulcusによって区分されています。
 
この部位は蹄叉腐爛に罹りやすい。

 
 

蹄の生理

 
 
蹄の主な生理機能は、蹄の栄養、知覚、蹄鞘の結着、生成、成長およびその更新であって、これに関連して馬の体重負担と運動における運歩の規制に関与しています。
 
 

蹄の血行および知覚

 

蹄の栄養をつかさどる血管としては、蹄鞘内に分布する総指(趾)動脈(前肢では、正中動脈の分枝、後肢では前脛骨動脈の分枝)が、知覚部に到達し、さらに骨部にまで分布して、角質発生に必要な栄養を供給し、毛細管を経て静脈系に移行して、骨部および弾力部の表面で静脈叢を構造し、内・外指(趾)静脈、総指(趾)静脈を経て循環します。
 
蹄に分布する神経は指(趾)動脈に併行します。前肢では正中神経より発して、前腕部下半で内外掌神経に分岐し、球節部で背側および掌側指神経に二分して、蹄鞘内にはいり、主として知覚部に分布します。
 
後肢では脛骨神経がアキレス腱の内前方で内側および外側足底神経に分れ、球節部でそれぞれ背枝と足底枝に二分して、蹄鞘内にはいり、知覚部に分布します。
 
前、後肢のいずれも知覚部にはきわめて多数の神経終末が存在して、外来の刺激に対してきわめて鋭敏に反応し、蹄の生理機能を維持しています。

 
 

蹄角質の成長および更新

 

成馬の蹄の角質は、蹄壁、蹄底、蹄叉の各発芽層にある角質細胞の増殖によって、たえず上部から下方へ発育しますが、蹄壁は漸次下方に伸長するのに対して、蹄底および蹄叉では古くなった角質は、脆い枯角(dry horn, dry layer or horn)となって剥離します。
 
蹄壁部は1ヶ月におおむね8mm伸長するので、部位によって差異はありますが、その更新期間は前壁で10~12ヶ月、側壁6~8ヶ月、蹄腫壁で3~5ヶ月であり、また蹄底および蹄叉では2~3ヶ月とされています。
 
一般に前蹄は後蹄に比して発育が良好ですが、個体差があり、また馬の品種によっても多少の差はあります。特に幼駒は老齢馬に比して成長が良好であり、また騙馬、雌馬、雄馬の順に成長度は低くなるといわれています。
 
その他、蹄角質の成長は飼料、運動、装蹄にも関係があり、跣蹄bare footでは、磨滅を考慮すれば装鉄したものより成長はすみやかです。
 
この成長の差が、蹄の各部で異なるときは、あるいは過長蹄となり、さらに蹄形に変化を生じて変形蹄の原因ともなります。

 
 

蹄輪hoof ring(Hufring)

 

健康蹄の蹄壁外面において、蹄壁の発育に伴い、蹄冠部皮膚と蹄壁の境界線にほぼ平行して現れる線をいいます。
 
蹄壁胚芽層(肉冠)の新陳代謝の程度を示すもので、全身状態の変調、たとえば分娩や換毛時、飼育管理の変更(放牧→舎飼)、栄養障害、熱性伝染病の経過中に蹄壁の発育更新が変化して異常な蹄輪が現れる。
 
また蹄病たとえば蹄叉腐爛、蹄葉炎・蕪蹄・蹄骨々折・蹄冠躡傷・肉冠炎・角壁腫・狭窄蹄・挙踵などではその経過中に異常蹄輪(不正蹄輪)を生ずるものです。

 
 

蹄機(anti-concussion mechanism(Huf Mechanismus))

 

蹄機とは、馬の運歩に際して、体重の負担(負重)や地床からの反圧を緩和するため、蹄の弾力装置(蹄軟骨、跖枕、蹄叉)によって営まれる機械的作用です。
 
これによって馬の運動時に肢に加わる地床からの衝撃が緩和され、同時に関節、骨、靭帯などの作用と相まって、軽快安全な運歩を可能にするとともに、蹄鞘内各組織の保護に役立ち、また蹄内の血液循環を促進して、蹄角質の成長をうながします。
 
その際、蹄に認められる変化は、蹄に荷重が加わると蹄軟骨、跖枕および蹄叉が側方に圧出されて蹄踵部が左右に開き、蹄球は沈下して、蹄壁の高さが減ずるとともに、蹄底はその広さを増して、穹窿の度を減ずる。
 
この蹄形の変化は、離地すなわち脱重によって、ただちに旧にもどる。
 
蹄機が正常に営まれると、蹄鉄の接蹄面foot surface(特に前蹄の鉄尾部の上面)には、溝状磨滅scouring lineが生じます。
 
これに対して、蹄病や肢蹄に異常のあるとき、あるいは装蹄法が不良な場合には、蹄機が阻害されて溝状磨滅が明瞭でないことがあります。
 
また蹄機が正常に営まれないと肢蹄に各種の障害をもたらすことがあります。

 
 

蹄角の物理的性質

 
 

蹄角の熱に対する不良導性

 

蹄角は一般に熱の不良導性を有し、装蹄する際に熱した蹄鉄を削蹄した蹄負面に密着させ(焼付け)ても焼付時間が比較的短時間であれば、火傷は生じません。
 
また反対に極寒地で氷雪地帯を長時間行動しても凍傷が生じない。

 
 

蹄の温度

 

健康な蹄は、手掌による蹄壁の触診の際に、つねに低温感を与えるものです。しかしながら蹄葉炎、化膿性蹄真皮炎、蹄骨骨折などでは顕著に上昇し、激労後の蹄充血および重複切神術施行肢(末梢血管拡張)の蹄では、温度が上昇するので、蹄温の検査は蹄病診断の重要な項目の1つです。
 
馬蹄の外面の温度を、電子検温器で測定した成績(気温22℃、3頭の平均)は次のとおりです。
 

蹄球:32.2℃
蹄球間溝:31.9℃
蹄支壁:31.2℃
蹄冠部:30.9℃
蹄叉中溝:29.9℃
蹄叉旁溝:29.1℃
蹄壁上部:28.7℃
蹄踵壁上部:28.7℃
蹄壁中部:27.6℃
蹄踵壁中部:27.1℃
蹄底:27.0℃
蹄叉体:26.4℃
蹄踵壁下部:26.0℃
蹄壁下部25.6℃

 
の順で、蹄温は解剖学上、蹄機発現に関与する部位ほど高いようです。
 
一般に、蹄温は気温の日差および四季の変化に比例して、上下する傾向があります。四季を通じて蹄温のもっとも高い時期は夏で25~32℃。
 
春および秋は20~28℃でこれに次ぎ、冬はもっとも低く5~10℃で、いずれも手掌温よりつねに低い。四肢の蹄温はいずれも近似し、体温と蹄温との間には、特に一定の関連はありません。
 
一般に蹄鞘の厚味の薄い蹄では蹄温は高く、また幼駒のそれは、壮馬のそれに比べてやや高い傾向があります。
 
また蹄温は運動によって一時上昇したのち、24時間後に、おおむね運動前の値に近く回復します。

 
 

蹄角の硬度

 
 
馬蹄の硬さを表すには、押し込み・ひっかき・牽引・捻転・摩耗などの物理的感作に対する抵抗性を知る必要がありますが、今までに明らかにされたものは下記のような押し込み硬度計による測定値のみです。
 
 
死後4時間の蹄の押し込み硬度(Shore’s durometerによる)
 
 
硬度計の型A(ゴム用)

蹄壁:100

蹄底:97

白帯(白線):79

蹄叉:65

蹄球:60

蹄漆:55


硬度計の型B(エボナイト用)

蹄壁:84

蹄底:57

白帯(白線):23

蹄叉:0

蹄球:0

蹄漆:0
 
 
すなわち、蹄壁の表層がもっとも硬く、上部より下方に向かって硬度を増し、負面に近づくにしたがい減じています。
 
 
その硬さはベークライド板に匹敵します。
 
 
次いで蹄底、蹄支壁の順ですが、蹄叉・蹄球・蹄漆は消しゴムの硬さに近く、きわめて柔軟です。これらの成績は、削蹄時における硬さの感じとほぼ一致しています。
 
 

蹄角の化学的性質

 

酸に対しては、角質は黄色化し、脆弱になって崩壊しますが、弱酸には影響を受けないとされています。
 
また水酸化カリウムや水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質に接触すると、角質を構成する細胞が分解されます。
 
糞尿中のアンモニアによっても同様の影響を受けて、蹄角質が冒される危険があるので、糞尿のしみた寝藁などに接触することは避けるべきです。
 
さまざまの成分のうち、特に水分の含有量は蹄の新陳代謝および角化現象に関連があるものと思われます。

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