大腿神経麻痺(femoral nerve paralysis or crural paralysis)
大腿神経の麻痺によって、大腿四頭筋の麻痺paralysis of the quadriceps musclesが発生します。この神経の麻痺は過激な運動、蹴揚、滑走の際における激伸、圧迫、打撲などの損傷により発し、またしばしば筋色素尿症myoglobinuria(または窒素尿症azoturia)に継発します。
また横臥保定中におこることもあり、原因不明なこともあります。
多くは一側性、稀れに両側性に発する。
大腿内面の知覚が麻痺し、馬は患肢で体重を支えることができない。駐立時には患肢のすべての関節を屈曲させており、患肢は対側肢よりも低く見える。
歩行時にも膝関節以下が崩屈してまったく負重できない。
経過が長びくと大腿四頭筋に著明な萎縮が生じ、筋の弾力的な触感が失われて索状になります。本症は膝蓋骨外側方脱臼および大腿四頭筋断裂と鑑別する必要があります。
外傷性の時は休養させ、マッサージをほどこし、軽快のきざしがあれば運動を課す。
筋色素尿症に継発した時は運動を課すことがもっとも大切です。
閉鎖神経麻痺(obturator paralysis)
大腿薄筋M.gracilis、内転筋M.adductor、恥骨筋M.pectineus、外閉鎖筋M.obturator externus、および牛・豚では内閉鎖筋M.obturator internusに分布し、肢の内転をつかさどる。
骨盤腔内において分娩時の大きな胎児による圧迫、または骨盤骨折の治癒の時に形成される仮骨の圧迫によって麻痺をきたすことが少なくありません。牛に多い。
両側性の麻痺では、患畜は肢を外転して、起立不能となりますが、一側性のときは患肢を正常位に保てば負重し、立つことができ、歩かせると肢を外転し、外弧を画き蹄をひきずって歩く。
吊起帯に保定し、肢を正常位におき、できれば運動を課す。
坐骨神経麻痺(sciatic paralysis)
坐骨神経は体のなかで最大の神経で、大腿部後面で脛骨・腓骨の二神経に分かれる。
坐骨神経麻痺は馬、牛、犬に生じ、椎骨脱臼、脊髄疾患によって起こり、ジステンパー、媾疫の経過中に、また膿瘍、腫瘍の圧迫、挫傷によって発します。
大腿四頭筋以外の後肢筋が機能を失うため、患肢は弛緩して垂下し、膝関節、飛節を伸ばし、球節、指関節は腹屈して蹄の前面を接地する。
歩かせると大腿四頭筋のはたらきで肢を上前方に急にぐいと引くが、蹄をひきずる。しかし、蹄を正常位に置くときは負重できる。
両側性の時は起立できない。吊起帯に吊り、また介助しながら運動させる。
腓骨神経麻痺(peroneal paralysis)
この神経は長趾伸筋、外側趾伸筋および前脛骨筋に分布します。大腿骨の腓側上踝をこえて走るため損傷をうけやすく、ことに牛では敷藁のない堅い床に起臥するものに多発します。主に深腓骨神経が冒されます。
休息時には飛節を伸ばし、球節と指関節を過度に腹屈させ、蹄の前壁で接地する。
下腿外面、飛節と管部の外および前面の知覚が麻痺する。歩かせると飛節を伸ばし、球節を腹屈させ、肢を急に後方に伸ばす。
ついで膝関節の伸筋の作用で肢を前方に持って行き、蹄および球節前面で着地する。
肢を前方に引っ張って飛節をまげ、球節以下を伸展させて地におく時には負重することができる。人為的に介助して歩行運動を課す。
脛骨神経麻痺(tibial paralysis)
脛骨神経は緋腹筋、ヒラメ筋、膝窩筋、浅および深趾屈筋に分布する。
筋肉に被われているため損傷をきたすことは少ない。もし傷害を受けた場合は、駐立時には正常位置に起立しているが、飛節を屈曲し、突球肢勢を呈する。
歩かせると飛節は過度に屈曲し、蹄を高く挙げ、着地の動作は不たしかです。運動を課するのがよい。
以上の神経麻痺は、いずれも一般に予後が不良です。
