腸の損傷
腸の損傷を大別すると、腹壁損傷による損傷、腸管内容・異物による損傷、肛門およびその周辺よりの損傷、腟よりの損傷、手術による損傷、が主なものです。
腹壁外から腸に加えられる損傷
腹壁の挫傷、挫創、刺創などにより腸破裂、腸穿孔、腸挫傷をおこし、癒着、膿瘍、腹膜炎あるいは腸瘻などを発生する。
腸管内容・異物による損傷
異物を嚥下する機会の多いのは牛と犬です。
(ⅰ)牛:嚥下された異物は、ほとんど第二胃に集まるため、異物が腸管まで達するのは稀れです。しかし、小腸に達した異物は時には腸に損傷を与え、炎症をおこし、さらには二次性の腸閉塞を発生させることがあります。
(ⅱ)犬:嚥下された異物が、胃から幽門を通過して腸管に達することはしばしばみられる。異物としては、石、木片、針、不消化な骨片などさまざまなものがありますが、幽門を通過するのは、一定の大きさ以下のものにかぎる。
異物の形によってさまざまな変状が現れますが、特に鋭利な角をもったものほど損傷が強い。二次的閉塞をおこし、あるいは異物の進行に伴い、粘膜損傷、腸壁穿刺が発生し、出血、腸炎、腸周囲炎、腹膜炎、癒着、腸壁穿孔、腸瘻が継発し、腸狭窄の原因となる。
穿刺、閉塞がおこらない時は、肛門から排出される。
これらの経過に伴い、食欲減退廃絶、嘔吐、腹痛、血便などが現れる。損傷部が口側より遠ざかるにつれ嘔吐は不明瞭となるが、血便は明らかになる。
ただし閉塞、穿孔の時には、それぞれの症状を示す。
直腸での損傷では出血はさらに明瞭となり、直腸検査の際、血液が指に付着する。さかんに努責して血液を排出するか糞に血液が混じる。
直腸炎が継発すれば努責、呻吟、排糞困難などの症状が加わる。時には腸重積、直腸脱、脱肛が発生する。腸結石、宿糞、骨片なども同様の変化をおこすことがあります。
(ⅲ)治療法:腸閉塞の場合はその治療を行う。穿刺した場合は、開腹手術により異物を除去し、腸壁を縫合し、周囲の変状の処置および腹膜炎予防処置を行う。すでに穿孔した場合は、不治となることが多い。
単に異物が通過した場合は、変状不明のため対症療法によるが、直腸では、直腸内の糞を除去して殺菌剤溶液の浣腸をし、化学療法を行う。
肛門およびその周辺よりの損傷
馬・牛に発生することがもっとも多い。主として直腸を損傷する。粘膜のみに損傷が生ずる場合と、腹腔または直腸周囲の結合織まで穿孔している場合とがある。また肛門周囲の損傷が直腸におよぶ時があります。
(ⅰ)原因:直腸検査時における手腕、浣腸器の先端、あやまって注入された熱湯、体温計、轅木、交配時の陰茎、その他故意に肛門に挿入された異物などが主なものです。
また、直腸脱の際の横臥により、直接損傷をうける。
(ⅱ)症状:粘膜のみが損傷をうけた場合には、まず出血が認められる。牛の直腸検査で粘膜が裂け、その部がポケット状となり宿糞がつまっていることもある。
直腸周囲組織まで損傷がおよぶと、フレグモーネ、膿瘍または瘻孔形成がおこり、また直腸周囲に糞便が浸潤する。腹腔内で直腸が穿孔すると、感染性腹膜炎が発生し、馬ではしばしば24時間以内に、牛では数日のうちに死亡する。
直腸の損傷はすべて直腸炎proctitisを継発するが、その程度は軽重まちまちです。特に熱湯の灌注は著しい熱傷をおこす。カタル性、クルップ性、ジフテリー性、化膿性、実質性、フレグモーネ性、出血性に分けられる。
主な症状は排糞時の疼痛および努責、便秘、糞塊の粘液性・偽膜性・膿性または血様被苔の付着、直腸検査による粘膜の腫脹・疼痛・熱感です。
フレグモーネ性直腸炎(直腸周囲炎periproctitis、旁直腸膿瘍pararectal abscess)の際の腫脹は特に顕著で、時には明瞭な波動を呈する。
直腸炎の継発症としては、直腸脱、腹膜炎、直腸狭窄および直腸瘻があげられます。直腸炎はまた宿糞、直腸脱、骨盤骨折、特殊の伝染病(インフルエンザ、炭疽、ジステンパー、腺疫の転移巣など)、寄生虫(虻幼虫、蟯虫)および刺激薬によっても発生するので、それらとの類症鑑別が必要です。
(ⅲ)治療法:直腸の損傷が腹腔に穿孔した場合は不治です。粘膜のみの損傷に止まる場合には、慎重に直腸内の糞を除去して、殺菌薬、収斂薬の溶液を注入し、化学療法を行う。
損傷部の安静が必要であり、同じ刺激を繰り返さないようにする。直腸周囲膿瘍は穿刺または切開によって排膿する。直腸炎に対しては、直腸内に鎮痛性粘滑油剤を注入して努責を防ぐ。
腸瘻は孔の閉鎖と原因の除去につとめる。
いずれにしても継発症の予防につとめる必要がある。

