薬物による感染症の治療では、薬物が感染経路や感染部位に有効な濃度に分布し、その状態が治癒するまで維持されることが必要です。
抗菌性薬の全てが酸か塩基であり、その体内動態はpKaや分配係数などによって支配される。
感染部位への薬物移行:上皮性組織
細菌は体外から侵入すると先ず上皮性細胞の表面に付着・増殖して病変を起こす場合が多い。従って薬物は①感染部位に局所適用されるか、②全身性に投与・吸収されてから、上皮性バリアを通過して上皮細胞表面に分布することが有効性の条件になります。
細菌に侵されやすい部位は回腸以下の粘膜上皮です。アミノ配糖体のような非吸収性の薬物は経口投与でだけ有効です。組織移行性の高い薬物を経口投与すると全量が上部小腸で吸収されますが、腸管壁を通じて管内にも分布するから経口投与でも注射でも同じ効果を示す。
胆汁移行性の高い薬物でも吸収性の高い薬物は上部小腸で再吸収される。吸収性が中程度で胆汁移行性の高い薬物は消化管の全体にわたって濃度が高く保たれるので有効性が高い。
この部位の感染症は大動物に多い。一般には吸収性薬物の局所適用がよい。
気管支のバリアはルーズで、バリア通過性が特に悪いアミノ配糖体でも気管支分泌液中の濃度が血漿中濃度の1/3程度になる。従って多くの薬物で高い気道内分布性が期待できる。
細菌に侵されやすい部位は膀胱や腎盂です。尿路は特異な部位で、腎盂以下の粘膜バリアは極めて強固で、小型イオンでさえ殆ど通過させない。
従って尿路の腔内に薬物が入るためには腎で血漿中から濾過とか能動分泌によって入る経路しかない。つまり蛋白結合率が低くて濾過率が高い薬物とか、近位尿細管で能動分泌される薬物では近位尿細管内の濃度が高くなるので、さらに再吸収率が低ければ感染部位の濃度が高くなる。
健康な表皮は細菌感染に抵抗性であり、創傷部位とか毛包・皮脂腺から感染が始まる。外皮には毒性の強い薬物でも局所適用が可能であり、四級アンモニウムやヨードホールなどの低刺激性消毒薬が用いられる。
しかし一般には感染部位の全域に薬物を分布させるには全身性投与が優れており、局所適用では表面的にしか作用しない。つまり局所適用では組織浸透性がないと有効性が低いし、浸透性が高い薬物は病巣に入るより毛細管から吸収される方が速いからです。
体腔内感染
神経系の細菌感染症の殆どは髄膜内面の炎症であるから、脳脊髄液に移行しない薬物は有効性を発揮できない。原因菌の多くはペニシリンに高感受性ですが、髄膜炎ではペニシリンの脳脊髄液中濃度が血漿中の10%程度になるのでペニシリンの高用量投与法が第一に選択される。
感染性炎症が進行すると多数の好中球(ミクロファージ)が現れて細菌と闘う。好中球の細胞内に入って抗菌力を発揮できるような薬物は好中球の菌殺滅作用を助ける。またサルモネラとかブドウ球菌などは宿主の細胞内で増殖する。
全ての抗菌性薬は細菌の分裂時だけに働くので、この種の菌に対しては細胞内抗菌性を持つ薬物だけが有効です。細胞内抗菌性を持つ薬物としてキノロン、クロラムフェニコール、マクロライド、リンコサミド、リファンピシンなどが挙げられます。
犬のブルセラ症のような一部の慢性感染症では菌がマクロファージやミクロファージ内に入って共生関係になる。分裂が極めて遅いので静菌作用の抗菌性薬物だけでは有効でない。
従って細胞内に移行して殺菌作用を現す薬物としてリファンピシンが治療に用いられている。
体内における抗菌活性
感染菌に対する抗菌性薬物の活性はin vitroで測定されますが、体内における活性は必ずしもin vitro活性とは平行しない。
実験治療学の領域ではマウス・ラット・ウサギやそれらの白血球減少動物に細菌を局所や全身に感染させて抗菌性薬の有効性を調べた研究が多い。
PAE(post-antibiotic effect, 抗菌活性後の低濃度有効性)
生体に投与した抗菌性薬の組織濃度が時間と共に低下し、MIC以下の濃度になっても暫くの間は菌が増殖し始めない事があり、PAEと呼ばれています。
アミノ配糖体は殆ど全ての菌種にPAEを示すが、β-ラクタムなどその他の抗菌性薬では一部の菌種に対してだけにPAEを示す。
PAEが観察される場合には連続投与の投与間隔をそれだけ延長することができる。
このPAEとin vitroで観察されるsubMICとの関係は明確でない。
治療中に発生する耐性菌
同一の抗菌性薬で治療を続けて慢性化した場合には、体内の感染菌の耐性率が高くなる。この種の耐性菌は耐性発現のためにエネルギーを消費しており、病原性は低いし、体外に出ると耐性を失う。
この種の耐性発現に対しては薬物を替えることによって容易に対応できる。感染菌のL型菌形成も抗菌性薬が無効になる原因ですが、L型菌に有効な薬物はない。
蛋白結合
薬物は血清蛋白に結合すると濾過されないので、蛋白結合率はその薬物の動態係数に大きな影響を与える。抗菌性薬物の抗菌活性をin vitroで調べると蛋白結合型は無効で、遊離型だけが有効です。
しかし、in vivoでの抗菌活性は血漿中濃度に比例し、結合型が無効であることを示す証拠は得られないとの報告が多い。
投与計画
化学療法では感染部位の薬物濃度が原因菌に対するMIC以上になっていることが必要です。
抗菌性薬の作用部位は主として間質液内です。間質液内での抗菌活性は薬物の血漿中濃度がMIC以上であれば有効です。キノロンなど細胞内に分布して抗菌活性を示す薬物でも、血漿中濃度を作用部位濃度と考えても大きな誤りにはならない(脳脊髄などは例外)
全身性投与の化学療法薬では静菌的に作用することが多いので、血漿中濃度をMIC以上に維持すれば、その間に生体の防御反応による細菌の除去が期待できる。従って薬剤の種類、投与法、対象動物の種類に応じて、血中濃度がなるべく長い期間にわたってMIC以上になるような投与計画を立てることが必要です。
殺菌作用が期待できる薬物ではMBC以上に維持する計画を立てる。
原因菌の同定とMICの推定
感染症の合理的な治療法では病巣から原因菌を分離することが必要です。臨床症状から原因菌を推定できることもありますが、一般には同定が必要です。
薬物の選択には感受性ディスクの試験結果を利用する。この結果からMICを推定し、さらに感染部位を考慮して使用すべき薬物を選択する。
投与量と投与間隔
選択薬物の対象動物における分布容(Vd)と半減期(t½)を文献から求める。この関係から投与量と初濃度との関係を求めることが出来る。
抗菌性薬物では一般にMICの100倍程度の最高濃度を用いることが出来るので、この濃度を初濃度にできる投与量を選べば半減期の6倍を投与間隔として設定できる。
半減期が4時間を越すような薬物(サルファ剤、テトラサイクリン)でも1日1回の投与になるような計画を立てる。毒性発現濃度が低く、MICが高いような場合(例えば緑膿菌に対するゲンタマイシン・カルベニシリン同時投与による治療)には個体ごとに動態係数を求めて投与計画を立てる必要がある。

