家畜では下痢の発生頻度が高いので止瀉薬は動物用医薬品のうちでも重要な位置を占めています。子牛の下痢症での血液所見を健康の場合と比較した場合、下痢は全身の体液平衡に重大な影響を与える疾病であることが理解できる。
下痢は微生物感染によって起こることが多いので、多くの抗菌性薬物やワクチンが予防・治療に用いられる。
止瀉薬の作用機序の研究方法
止瀉薬の作用機序の研究に最も汎用される方法は腸管の分泌促進とか吸収不全を人為的に発生させて、その反応に対する止瀉薬の効果を調べる方法です。
例えば回腸をPGE₂とかコレラトキシンで潅流すれば水分分泌が著明に亢進する。この種の方法は一般に誘導分泌と呼ばれていますが、約20種類の方法が知られています。
経口補液(oral fluid therapy)
下痢は体内から水分とNa⁺を大量に喪失させる疾病であるから、失われた水分と塩分を補給することが治療の第一原則です。
下痢症における異常は一般に下部小腸か大腸に起る。
補液にブドウ糖とグリシンを添加して経口投与すれば十二指腸と空腸の糖・アミノ酸・Na⁺共役吸収系を通じて吸収される。この吸収系では大量の補液を吸収させる事が出来る。
下痢によって失われる主なイオンはNa⁺、HCO₃⁻、K⁺です。
平均的な喪失から補液の必要濃度を算出し、ブドウ糖とグリシンを加えた処方は下記となります。
●Na⁺:120mEq/l
●HCO₃⁻:80mEq/l以上
●K⁺:20~30mEq/l
●グルコース:1%以上
●グリシン:1%以上
●浸透圧:300~330mOsm
一般には体重の5~10%相当量を分割して投与する。
重度の脱水でショック状態になった患畜には点滴輸液でないと無理です。
モルヒネとロペラミド(loperamide)
モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬は全ての型の下痢に対して強い抑制作用を示す。
モルヒネには下部小腸と大腸の電解質・水分分泌系を抑制し、また電解質・水分吸収系を促進する作用がある。また腸管通過時間を延長させる。ロペラミドは腸管特異性のオピオイド作動薬です。
この薬物を経口投与すると約70%が吸収されるが、吸収された薬物の90%以上が胆汁中に出て腸肝循環系に入るために腸管だけに作用する。
ベルベリン(berberine)
黄連、黄柏に含まれるアルカロイドで、多くの型の下痢に有効です。
エンテロトキシンなどによる回腸や大腸における塩分水分の誘導分泌に対して強い抑制作用を示す。
サラゾスルファピリジン(salazosulfapyrizine, sulfasalazine)
犬猫の難治性大腸炎の治療に単独またはプレドニゾロンと併用で用いる。
慢性形質球・リンパ球性大腸炎の症例には有効性が高い。
病原菌を特定できない軽度の下痢を単純性下痢と呼んでいるが、家畜に多発する疾病です。
メンブトン(menbutone)
膵液と胆汁の分泌を著明に亢進させる薬物。
消化不良性下痢に有効性が高い。
牛と豚に注射か経口で用いる。
生菌製剤(probiotics)
乳酸菌や腸球菌などの生菌製剤が下痢の予防・治療に用いられる。
ベンゼチミド(benzetimide)
豚の非特異性下痢の治療に用いられる抗コリン作動薬
下痢の対症療法的薬物として吸着薬の薬用炭、収斂薬のタンニン酸、ビスマス塩、粘膜保護薬のケイ酸アルミニウム塩(カオリン)などがある。
これらの薬物は一般に配合剤成分として用いられるが、家畜の下痢症に用いられる治療用配合剤に配合されることがある。

