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家畜に対する中毒作用の差異 ~ 毒の形状・用量・毒物の新旧・植物毒成分の変化・動物体より毒物の排泄

キョウチクトウ 家畜中毒

 
 
同じ毒物でもその作用が常に同一でなく種々の事情によって差違があります。
 
 
その理由としては毒そのものの変化と家畜の感受性が挙げられます。すなわち前者にあつては毒の種類、形状、用量、新旧、用い方などで、後者は家畜の種類、年齢、性、強弱、素因などです。
 
 

毒の形状

 
 
毒物は形状によって作用に大差があります。
 
 
たとえば燐自身は極めて激毒ですがその変形物である赤燐は無毒です。しかして通常燐(黄燐)を空気を絶った器内で200~250℃に熱して製しますが、これは分子の配置の変化によるものと考えられ、同様な関係は多数の同質異性体に現れます。
 
 
たとえばαナフトールはβナフトールよりも毒性が大であり、多数のオルト化合体はこれに相当するメタあるいはパラ化合体と異なった作用があります。
 
 
また同一の毒物でもその形状が可溶性であるときと不溶性であるときにより、あるいは塊状、粗粉、細粉または溶液などの差異によって作用の強弱に著しい差異を来す。
 
 
例えば、砒石は塊状の場合毒性が少なく粉末とすれば強くなり液状では著しく毒性を生じます。また溶液でもその種類と濃度によって差異があり、例えば塩酸は稀薄なときは胃液のごとく無害ですが、濃厚なものは腐蝕性が強くあるいは石灰酸のアルカリ溶液および油溶液は水溶液より毒性が少ない。
 
 

用量

 
 
毒物は同時に薬物ですがこれには一に用量の差から来る。すなわち用量によって毒の作用は著しくあるいは中等にあるいは微弱乃至無害です。
 
 
したがってその量と作用によって致死量、中毒量、薬用量などにわけることは薬理学の教えるところで治療薬の応用に当って重要な事項ですが、毒物に対しては家畜の種類によって感作が異なるため未だ明らかでない点が多い。
 
 

毒物の新旧

 
 
多くの毒物は日数の経過によって分解しその毒性を変じ或いは消失します。
 
 
たとえば配糖体およびアルカロイドに属するジギタリス、麦角、モルヒネ、アコニチン、ベラドンナ、ピロカルピンや、青酸化合物として苦扁桃水中の青酸は蟻酸アンモニアとなり、青酸加里は炭酸加里となり、クロロホルムがガスを生じ、燐は無形燐に変じ、石灰酸水の蒸発、甘汞の一部は昇汞となり、苛性加里および苛性ソーダが夫々炭酸加里および炭酸ソーダを作るような例です。
 
 

植物毒成分の変化

 
 
植物に含有する毒成分量は成長、自然感作、施肥、栽培などによって大いに異なります。
 
 

成長

 

植物の毒分含量は、生育によって異なり木本植物のごとく組織細胞の活動力旺盛な部位に最も多いもの、ジギタリスのごとく開花季に多いもの、ドクゼリ、バイケイソウのように種子あるいは根茎の毒成分が発芽と共に幼茎部に移行するもの、カシハ類のごとく新芽の或る期間に多く成長に従い減毒するもの、これに反しケシ、タバコ、イチイ、キンポウゲ属のごとく幼若時には僅微ですが成熟期に有毒なものなど一様なものではない。
 
 
キンレンカCytisus laburunum葉における催嘔物質は次のように変化し乾葉エキスを用い肉食動物の嘔吐を生ずる最小量を以て判定した結果、基節の進行と共に漸減し春と秋では10倍の差を生じます。
 
 
毒成分チチシン含有も同様に季節的に漸減します。またヒヨスHyoscyamus niger中のヒヨスチアミンは冬期に全く含有せずマクハウリの瓜蒂に含有する催嘔物質エラテリンはある時季のみに存在します。
 
 
これに反しセイヨウハシリドコロのアルカロイドでは、季節に関係なく殆ど一定しています。

 
 

産地

 

同一植物でも産地によって差のある場合があり有名な毒植物ドクニンジンConium maculatumも北極近くに産するものはコニインConiinを欠きアサはインドに産するものは毒性が強いが其他の地方ではそれ程猛烈ではない。
 
 
また欧州産のケシには阿片アルカロイドが極めて少量ですが、小アジア、ペルシャ、エジプト産のものは多量です。

 
 

肥料および栽培

 

植物に対する施肥が特殊成分量に変化を与えることは食用、工業用植物に多く甜菜においては糖分含量が肥料によって著しく左右されます。
 
 
有毒植物でもトリカブト属において野生のものは甚だしく毒性が強いですが、これを肥沃土に栽培すれば若干世代の後速かに減毒します。
 
 
然しドクムギ、ハシリドコロケシ、タバコ等は肥料や栽培によっても毒分含量に大差のないものです。
 
 
土壌の成分が植物成分に変化をおよぼし家畜に疾病を起すことは特にカルシウムが知られていますが、アメリカではセレンの多い土地からはこれを含む植物が産せられ骨軟化症様疾患を来します。

 
 

植物の有毒部位

 

(ⅰ)植物全体に含有するもの
 
 
根、茎葉、花、果実等全部の有毒なものとしてはエンレイソウ、ウミネギ、ロベリア、スズラン等一般に草本に多い。
 
 
(ⅱ)地下部に限局するもの
 
 
地上部は無毒または僅微ですが、主として根部に蓄積するものはオケラ、シクラメン、ハンゲ、サジオモダカ、ニンジン、トチバニンジン、バイモ、ヒガンバナ、スイセン、キツネノカミソリ、ハマオモトなどで、これ等は家畜中毒の機会が少ない。
 
 
(ⅲ)地上部に限局するもの
 
 
地下部は毒分がないが痕跡を認める程度であるに拘わらず光線に曝露する部分が特に有毒なもので、ナス科植物中ソラニンを含有するもの例えばイヌホオヅキ、ヒヨドリショウゴ、馬鈴薯などです。
 
 
しかし馬鈴薯の根塊は日光に曝され葉緑素を形成すると有毒となります。
 
 
本項に属するものの中、特に一局部または一器官に限局するもの、または反対にこれらのみが無害な場合があります。
 
 
果実種子が特に有毒なもの
 
 
トウゴマ、ドクムギ、ムギナデシコ
 
 
樹皮が特に有毒なもの
 
 
ニセカシア
 
 
花が特に有毒なもの
 
 
ソバ
 
 
一定の器官に限局するもの
 
 
ケシ
 
 
花、果実の他有毒なるもの
 
 
イチイ、ウルシ
 
 
(ⅳ)同一部位で数種の異なる成分を含有するもの
 
 
例えばケシ果に25種のアルカロイドを有し、ジギタリス葉に数種の配糖体を見る。
 
 
(ⅴ)同一植物で部位によって作用の異なる成分を含有するもの
 
 
例えばエンレイソウのように地下茎には催嘔、葉には鎮痙作用、果実には心臓作用のある成分を含む。その他、クロウメモドキ属Rhamnus frangulaの皮は第1年に嘔吐作用を有し、第2年以後は瀉下作用をする。

 
 

動物体より毒物の排泄

 
 
これは中毒の経過に関係を有し毒物の排泄が速やかであると中毒の経過も早い。之に反しジギタリスのように徐々に排泄されると副作用が長く続き所謂蓄積作用を生じます。
 
 
その他重金属は一般に排泄が緩慢で鉛、水銀、銅は体内に入って組織の蛋白質と化合して久しく止まる性質があり、このため往々慢性に移行します。
 
 
毒物の排泄は血液より腎臓を経るものが多く、その他肝臓、唾腺、膵臓、乳腺、腸腺、汗腺、皮脂腺あるいは粘液腺を経るものがあります。
 
 
また毒物の吸収の遅速によって毒性に緩劇の差があり、イヌサフランのコルヒチンは吸収の遅いアルカロイドであるから毒性も比較的遅く発します。

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