先天性横隔膜ヘルニア(congenital hernia of the diaphragm)
胎生期における発生上の横隔膜の欠損にもとづき、腹腔内の臓器の一部が胸腔や心内膜に逸脱した状態で、内ヘルニアのひとつに数えられる。
先天性横隔膜ヘルニアは、犬および猫にときどき見られ、ヘルニア輪の位置としては腹側横隔膜欠損によるものが比較的多く、このほか大静脈孔の拡張によるものや、横隔膜胸骨部、横隔膜腱中心部のものおよび、横隔膜心膜裂孔の例などが報告されています。
ヘルニアの内容は、ヘルニア輪の大きさと部位によって異なるが、大網膜、小腸、肝臓、胆嚢、脾臓、腸間膜などがあり、ヘルニア嚢をもたないものがある。
とくに横隔膜の大きな欠損例では、腹部臓器の大部分が胸腔へ脱出し、また横隔膜心膜裂孔の場合は大網膜や肝臓の一部が心膜内に脱出する例(心膜性横隔膜ヘルニア)もみられる。
一般にヘルニア輪が小さく、大網膜などの一部が胸腔に脱出している場合は、発育や日常生活にほとんど異常を認めないことが多い。しかし、ヘルニア輪が大きいときは、ヘルニア内容の脱出の程度が強く嵌頓を招きやすい。
このような症例では、発育が悪く、数週齢以降に食後の嘔吐や下痢などが観察されるようになり、その後、脱出した肝臓や小腸などが嵌頓を招くと、急に元気食欲が不振となり、腹部膨満、呼吸困難、起立不能など重篤な症状をおこして数日ないし10日位の間に死亡する。
犬、猫の臨床例では、生後数か月頃までに、このような転帰をとることが多い。
本症の症状は以上のような特徴がありますが、その疑いがある場合は、ただちに造影剤によるX線検査を行ってヘルニアの状態を把握し、すみやかに開胸または開腹手術により脱出内臓の整復とヘルニア輪の縫合閉鎖処置を実施する必要があります。
なお、心膜性横隔膜ヘルニアの場合は、まず開胸後、心膜をを切開してヘルニア内容を確認したのち、開腹して、脱出内臓を牽引しながら整復し、次いでヘルニア輪(横隔膜心膜裂孔)を縫合閉鎖する。
いずれの場合も、手術に成功した場合の予後は概して良好ですが、一般に成長期の犬、猫では先天性、外傷性にかかわらず術後の予後が悪いことがあります。
横隔膜破裂(rupture of the diaphragm)
原因:本症は、犬および猫において、腹部の輪轢や強打を受けた場合におこる。横隔膜のうちで、とくに大静脈孔、食道裂孔、肋骨付着部が弱いために破裂しやすい。
牛では創傷性第二胃腹膜炎のあとで、横隔膜の瘢痕組織が破綻を生ずることがあり、また馬において、内臓の横隔膜癒着部が疾走中に破裂して急死した例があります。
なお、横隔膜の破裂部から内臓の一部が逸脱して生じたヘルニアを外傷性横隔膜ヘルニアtra-umatic hernia of diaphragmといい、先天性横隔膜ヘルニアとは区別されています。
症状:本症はヘルニア輪の大きさと内臓脱出の程度によって症状を異にする。小腸の小規模な脱出では、ほとんど外観的に症状を現さないため見逃すことがある。
犬や猫が自動車にはねられて大きな横隔膜破裂をおこし、肝臓や小腸の一部が脱出した例では、共通的に背をわずかに曲げ動作が緩慢となり、呼吸促拍、咳嗽、胸部の圧痛、胸部の拡大と腹部の縮小、嘔吐、嚥下困難などが現れる。
そのまま放置されるときは、呼吸困難により、無酸素を招き、ついにショック状態に陥って死亡することが少なくない。また、重度のヘルニア(左側腔に胃脱出)では急速な窒息により死亡するものが多い。
本症の診断は胸部の聴診とX線検査がもっとも確実です。
治療法:軽症のものは、全身麻酔で、またショック状態にあるものはショックの対症処置をほどこし、ただちに陽圧酸素人工呼吸下で脱出臓器の整復手術を行う。
整復手術法には、腹式と胸式の2法があります。腹式整復法は横臥位で剣状軟骨から正中線上を後方に向かい、大きく切開したのち、胸腔へ脱出した内臓を整復し、次いで横隔膜の破裂部を密に縫合して閉鎖する。
胸式整復法は、ヘルニア側の胸壁第Ⅷ~Ⅹ肋間を開胸したのち、脱出内臓を整復して、横隔膜の創口を縫合閉鎖する。ヘルニアの状態によっては胸腹両側から手術を必要とする場合があります。
なお、この手術については、特に化膿防止および術後の安静ならびに食餌療法が肝要です。
