悪性腫瘍の化学療法
悪性腫瘍(癌)の治療法には、手術療法、放射線療法および化学療法がありますが、これらは症例によって、単独にあるいは合併して応用されています。また免疫療法の研究も進められています。
癌の治療には今なお困難が多く、癌の大多数は完治させるまでに至っていませんが、しかし基礎・臨床の両面からの研究の成果は着実に高まりつつあります。
癌の化学療法に使用される化学物質(制癌剤)の研究は、悪性リンパ腫に対するナイトロジェンマスタードの応用にはじまり、実験的段階を経て、現在では人の癌に対しても臨床的に種々の制癌剤が用いられるようになりました。
特に急性白血病、悪性リンパ腫については、寛解remissionの期間の延長、長期生存例の増加が顕著であり、また絨毛膜癌、Burkitt リンパ腫およびWilms腫瘍(胎生性腎混合腫瘍)は化学療法によって長期生存例が得られているけれども、固型癌に対する効果は一般にきわめて不十分であって、前途に多くの問題をかかえている。
制癌剤はその由来、化学構造、作用機序などが多岐にわたっている。臨床的に効果が認められる制癌剤の大多数は、直接または間接に、核酸、タンパク質の生合成を阻止する作用をもっている。
現在、臨床的に使用されている制癌剤には次のようなものがあります。
ナイトロジェンマスタード、ナイトロミン、サイクロフォスファマイド(CPA, エンドキサン EX)、チオ TEPA、メルファラン。
アミノプテリン、アメソプテリン(メソトレキセイトMTX)。
プリン代謝拮抗剤:6-メルカプトプリン(6-MP)。
ピリミジン代謝拮抗剤:5-フロロユラシル(5-FU)、フトラフル(FT-207)、サイトシンアラビノシド(Ara-C)。
アザセリン、マイトマイシンC(MMC)、アクチノマイシンD(ACTD)、クロモマイシンA₃(CHRM)、ダウノマイシン(DM)、アドリアマイシン(ADM)、ブレオマイシン(BLM)。
ビンクリスチン(VCR)、ビンブラスチン(VBL)
プレドニゾロン、エストロジェン、アンドロジェン。
L-アスパラギナーゼ。
これらの薬物のうち、白血病に対しては6-MP、EX、Ara-C、DM、悪性リンパ腫に対してはVCR、BLM、固型癌に対しては5-FUとFT-207(腺癌に対し)、BLM(扁平上皮癌に対し)、MMCの効果が認められている。
これまでに開発された制癌剤の癌細胞をを殺す力は決して弱いものではありませんが、同時に正常細胞を障害する副作用、特に造血機能の抑制が著しいため、大量に投与することができず、少数でも残存する薬剤耐性の癌細胞は、宿主の免疫力の低下も加わって、再び増殖して腫瘍が再発するため、完治することはきわめて稀です。
癌化学療法の研究の現状は、新しい制癌剤の開発とともに、癌細胞に対する作用点の異なる既知の薬物の併用に力が注がれて、臨床的に多剤併用療法が強力に推進されています。
またそれらの効果を増強する種々の方法についても研究されています。
多剤併用療法には、白血病に対するDM+Ara-C+6-MP+プレドニゾロン(DCMP)法、悪性リンパ腫に対するVCR+EX+6-MP+プレドニゾロン(VEMP)法、固型癌に対するMMC+5-FU+Ara-C(MFC)法、MMC+EX+チオ TEPA+CHRM(METT)法、MMC+EX+CHRM+VCR+5-FU+Ara-C(METVEC)法などがあります。
産業動物の腫瘍は、経済的理由から治療の対象とならないことが多い。
犬と猫には、扁平上皮癌、肥満細胞腫、乳癌、骨肉腫がしばしばみられますが、これらの治療は外科手術または放射線療法に委ねられることが多く、化学療法は、寛解的効果しかないので畜主が喜ばない、不愉快な副作用が発現する、治療費が高いなどの理由であまり行われず、進歩が著しく遅れている。
犬の肛門周囲腺の腺腫または癌にジエチルスチルベストロール、乳癌にテストステロン、肥満細胞腫にプレドニゾロンあるいはベタメタゾン、リンパ肉腫にはサイクロフォスファマイド、膀胱癌にチオ TEPAなどの応用例が報告されていますが、それらの成績では腫瘍の縮小はみられるが、明らかな延命効果は認められていません。
多剤併用療法の研究も今後の課題です。

