吸収、体内分布、排泄
化学療法薬がすぐれた治療効果を発揮するためには、投与された薬が病巣部位に濃厚に供給されるように、投与法、投与量、投与間隔を工夫する必要があります。
感染が皮膚または粘膜に限局しているときはその表面に塗布し、副鼻腔を含む気道の感染症に対しては、吸入を行い、また膿瘍など薬が浸透しにくい病巣の場合は直接局所に注入します。
全身的(systemic)に投与するルートとしては、内服または注射(主として筋肉内および静脈内)があります。これらのルートから投与された薬は、吸収されて血液中にはいり、臓器・組織に分布します。
臓器・組織内濃度は均一ではなく、一種の排泄器官とみなされる肝・腎では高く、筋肉内ではやや低く、また血液-脳関門が存在するため脳脊髄液内では非常に低い。
炎症組織内の濃度は、投与後しばらくは局所の周辺部よりも低いが、時間の経過とともにほぼ同じ濃度になり、一定時間後にはそれよりも高くなる。
脳脊髄に炎症がある場合には、血液から脳脊髄へ比較的よく浸透する。
多くの化学療法薬は、濃縮されて尿中に排泄されますが、ペニシリン系および多くのマクロライド系の抗生物質は、胆汁中にかなり多量に排泄される。
またストレプトマイシン、カナマイシンなどはほとんど腸粘膜を透過しないので、内服で与えられた場合は糞中に排泄されるが、一方これらを注射で投与した時は、ほとんど腸管内へ排泄されない。
病原体の存在する病巣内の化学療法薬の濃度を、できるだけ長時間、高く保つことが望ましいが、血中濃度はその有力な指標となる。
細小阻止濃度(minimal inhibitory concentration(MIC))は、in vitroで病原菌の発育を阻止する最低濃度、すなわち静菌作用の下限界で、菌の感受性を示すものであるが、この濃度はin vivoではふつう静菌作用に十分でなく、また殺菌作用にはまったく不十分です。
たとえば、ペニシリンGの感受性菌に対するMICは0.03国際単位PC-G/mlですが、in vivoで静菌作用が保証されるためには、少なくとも0.1~0.2国際単位PC-G/mlの血中濃度が必要です。
殺菌性抗生物質が殺菌効果を発揮するためには、ふつうMICの10倍以上の血中濃度を必要とします。サルファ剤の有効血中濃度は5~15mg/血液100mlといわれています。
なお、抗生物質の血液中の分布は均一でなく、赤血球への吸着および血清蛋白、主にアルブミンとの結合によってその効果が影響をうける。
血清蛋白への結合によって、抗菌活性は不活化されますが、この結果は一般に可逆的であって、遊離型と結合型との間に一定の平衡関係を生ずる。
しかし、この結合のおこる機構にはいまだ不明な点が多く、臨床上の意義についても解明されるべき点が多く残されています。薬の吸収および有効濃度の持続性を良くするために種々の剤型あるいは誘導体が考案されています。
排泄が非常に速いペニシリンでは、吸収を遅くするために、油性、混濁水性、複合水性などの剤型があり、また、プロカインPC-G、ピリミジンPC-G、ベンザチンPC-Gなどの誘導体があります。
またジメチルクロールテトラサイクリン、メタサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリンなどのテトラサイクリン誘導体は、テトラサイクリン塩酸塩に比べて高い血中濃度が得られ、しかも持続時間が長くなっている。

