人間生活とハエとの関係は密接なもので、世界のいたるところで人の生活圏内にハエが存在しています。このように、ハエは非常に身近にいる昆虫で、しかも、きたならしいものの代表になっています。事実、消化器系の伝染病や寄生虫病は、ハエによって伝搬されることが多いといわれています。
環境衛生の発達していなかった時代においては、大都会の中心市街地においてもハエの飛来に悩まされていました。まして、農村内においては、ハエのいない農家はむしろ不思議に思われていました。
最近では、都市の市街地ではハエがほとんど姿を消し、農村においても無家畜の耕種農業を行っている農家ではハエの飛翔数は過去に比べてきわめて少なくなりました。
しかしながら、畜産農家では家畜飼養に伴ってハエはますます多くなってきて、公害問題、社会問題を起こしているところさえもあります。これらハエの問題が畜産農家で大きくとり上げられてきた成因を分析すると次のようになります。
農業経営の変化
従来のわが国農業は稲作を中心とした多角経営で、家畜は畜力利用あるいは肥料生産の手段として、各農家に牛や馬が1頭とか豚が数頭飼育されていたにすぎませんでした。
しかも、家族労働で小規模な経営が続いていました。ところが昭和30年ころいわゆる経済界の高度成長期に入ると、多角経営から単一専門化の経営になってきました。
畜産も酪農、養豚、養鶏などの大規模な飼育形態をとり、生産性の向上をもたらしました。すなわち…
多角経営 → 単一専門化経営
小規模経営 → 大規模経営
という経営の変化に伴って、いわゆる家畜の多頭羽飼育が盛んになりました。その結果、多量の家畜排泄物の処理が問題化して、ハエの発生源は増加の一途をたどってきました。
地域社会の変化
高度成長下の企業は人員増、設備拡大をおしすすめ、大都会はもちろん、地方中小都市にも進出し、農村内にまで、工場、住宅、商店が建ちならぶようになりました。
従来は都市と農村は距離的にもかなり離れていましたが、農村内に非農家が多数入りこみ、農村はスプロール現象を呈してきました。
その結果、農家と非農家とのトラブルが起こり、ハエもその一つとして問題を大きくしてきました。すなわち、都市、農村の分離ということから接近ということになり、スプロール現象が各地で起こり、非農家よりの苦情が増加するようになりました。
文化生活の向上
ハエがわれわれの生活におよぼす害としては、古くから伝染病の病原菌や寄生虫の卵を伝播することといわれています。
今日でも未開発の地域とか発展途上国においてはこのようなvectorとしての害はありますが、文明の発達した諸国においてはvectorとしての害よりハエが飛翔していることがわずらわしく、いやらしく感じるようになってきました。
つまり、文化生活が向上すればnuisanceとしての害がハエの害として大きなウェートを占めます。従来は、家畜飼養とハエの発生とは当然の因果関係であると諦観していたことが、最近では畜産農家でもその他の住民でも、ハエのいない生活を欲求することが強くなってきました。
殺虫剤に対する抵抗性の発達
殺虫剤を連用すれば、対象昆虫に対して抵抗性を発達させるということは鉄則です。ハエを殺すため有機塩素剤(現在では使用禁止)、有機燐剤、カーバメイト剤、ピレスロイド剤などが多く使われています。
このうち現在では有機燐剤の使用がもっとも多いですが、抵抗性が発達してとくに有機燐剤では死なないハエが増してきました。
この抵抗性の問題は農家、畜産指導者にとって悩みの種です。
ハエの防除対策の不備
ハエの防除は殺虫剤によりハエの成虫を殺すことであるという思想が滲透しています。
しかしながら、このような方法のみによってだけでは畜産農家からハエを少なくすることはできません。ハエの習性、生態に合致した方途を講じ、地域住民が共同して総合防除をすることが重要です。
以上にように、nuisanceとしてのハエのいない生活を求めようとしているが、一方ではハエの発生源が増大し、また適切な防除対策がたてられないで困っているのが現状でしょう。

