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サシバエ類(Stomoxyine biting flies) ~ 形態・発育および習性・害・防除

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サシバエ類(Stomoxyine biting flies) 家畜害虫

 
 
夏から秋にかけて牛舎や豚舎を訪れると、数多くのサシバエが牛や豚の体表にとまって吸血している様子をみることがあります。
 
 
また、放牧地にいる牛の体の上には無数のノサシバエが、寄生して吸血しています。
 
 
牛はこれらのハエを追い払うため、頭や尾を盛んに動かし、落着いて草を食べることができない光景にしばしば遭遇することがあります。
 
 
サシバエStomoxys calcitransをstable flyといい、ノサシバエHaematobia irritansをhorn flyといって、両者の習性はやや違っています。
 
 
サシバエ類は、ハエの一種ですが、多くのハエは非刺咬性で人間や家畜の体から吸血することはありませんが、サシバエ類は刺咬性で吸血しなければ生きていかれません。
 
 
また、サシバエ類は蚊、アブ、ヌカカなどと違って雄も雌も吸血するので、家畜におよぼす害はいちじるしい。泌乳量や増体量の減少はおおく、家畜はその生産性の低下を来たします。
 
 
この害は、アブの害よりもはなはだしいといわれます。
 
 

おもな種類と分類上の位置

 
 

双翅目:Diptera
短角亜目:Brachycera
イエバエ科:Muscidae
サシバエ亜科:Stomoxyinae
Stomoxys属:Stomoxys
サシバエ:S.calcitrans
インドサシバエ:S.indica
チビサシバエ:S.uruma
Haematobosca属:Haematobosca
ミナミサシバエ:H.sanguinolenta
Haematobia属:Haematobia
ノサシバエ:H.irritans

 
 

サシバエ類の形態

 
 
サシバエ、インドサシバエ、ミナミサシバエの体長はイエバエとほぼ同じで、4~8mmの大きさですが、ノサシバエ、チビサシバエは前者よりやや小型で、3~5mmの体長をしています。
 
 
サシバエ類の成虫、卵、幼虫、蛹の形は、イエバエにきわめて類似していますが、成虫の口器はイエバエと違っています。
 
 
口器は口吻となり、非刺咬性のハエの口吻は伸縮自在で、餌を舐める構造になっていますが、サシバエ類の口吻は細長く針状になっていて、固定され収縮できません。
 
 
口吻は上唇、舌状体および下唇よりできています。また、下唇の先端には小さな唇弁をもっています。下唇は溝状になり上唇、舌状体を包んでこれらが一体となり、L字状に前方に突出しています。
 
 
しかしながら、口器にはイエバエと同じく大あご、および小あごはありません。
 
 
また、口吻の上方には小あごひげがあります。Stomoxys属の小あごひげは、口吻の長さよりはるかに短いが、その他の属の小あごひげは、口吻と同じ長さです。
 
 
これはサシバエ類の分類に役立っています。
 
 
幼虫の形態および大きさは、イエバエ幼虫と似ています。しかし、幼虫の後方気門の形はサシバエとイエバエとでは違っているので、両者の鑑別は後方気門で実施すると容易です。
 
 

サシバエ類の発育および習性

 
 
本邦には各種のサシバエがいますが、その発生数が多くて畜産界で問題となっているのは、おもにサシバエS.calcitransとノサシバエH.irritansです。
 
 

サシバエ(stable fly)

 

サシバエは全世界に分布し、本邦にもおおい。
 
牛、馬、豚、犬、その他の家畜の体に飛来して、吸血します。時には、人をも襲うことがあり、乳牛の乳を手で搾っている人が、おうおうにしてサシバエの攻撃をうけることがあります。
 
しかしながら、鶏からは吸血しない。

 
 

サシバエの吸血と休息

 

サシバエの吸血活動は、気温が15~30℃のころ活発で、14℃以下では吸血しません。また、34℃になると吸血活動は極端におとろえ、涼しい場所に移動するといわれています。
 
昭和40年7月下旬に、千葉県の牛舎でサシバエの調査をしました。その日は快晴で、牛舎を訪れたのは午前11時ころであり、気温は30℃をこしていました。
 
牛体ならびに牛舎内を調べたところ、サシバエはほとんど見当たらなかったので、どこに休息しているかを調査しました。
 
牛舎内外、付近の樹木、あるいは草の上などを調べましたが、サシバエの姿はみあたりませんでした。ところが、牛舎から50~60m離れたところに松林があり、松と松との間には禾本科の草が一面に繁茂していました。
 
この草の葉にサシバエが休息していて、捕虫網を振るといくらでもサシバエが採集されました。しかも、サシバエ以外は採集されなかったので、たちまち用意していった飼育用籠はサシバエで一杯になりました。
 
このサシバエはすべて飽血していて、涼しいところで休息していたものでしょう。サシバエの吸血は、アブ、ブユなどとは異なり、蚊のように口吻を宿主の皮膚内に刺込んで、直接血液を摂取します。
 
吸血は日中でもしますが、普通は朝、夕の2回吸血し、吸血後の日中および夜は樹木、草の葉の裏、あるいは建物の中などで休んでいます。
 
サシバエの吸血の目的は、蚊、ヌカカ、ブユ、アブなどの吸血性昆虫とは違っています。多くの吸血性双翅目は雌だけが吸血し、雄は非吸血性です。
 
雌は吸血した血液を栄養物として、卵巣の発達を促がし卵が形成されます。一方、サシバエは雄・雌とも吸血します。
 
これは産卵のためばかりでなく、体の維持のためにも、血液は絶対必要であるからです。
 
サシバエの1回の吸血量は雄で約4.8mg、雌では約6.2mgでした。さらに、サシバエの宿主嗜好性は厳密ではありませんが、家畜の血液を嗜好する順位をみると、牛>馬>鶏でした。

 
 

サシバエの発生源

 

サシバエはイエバエと同様、家畜の堆厩肥から発生します。
 
家畜の糞便は、サシバエの発生源として好適な材料です。これら糞便の種類は、牛、馬、豚、山羊などはもちろん、鶏糞もサシバエの発生源となります。
 
この発生源とは、雌が産卵し、ふ化した幼虫や蛹の生息場所を指しています。鶏糞堆肥から発生したサシバエが牛、馬、豚などを襲うということは養鶏家と酪農家、あるいは養豚家などとの間のトラブルの原因となります。
 
これは鶏糞から発生したサシバエが、牛あるいは豚を襲うからです。

 
 

サシバエの発育

 

サシバエは完全変態をして、卵、幼虫、蛹、成虫という段階を経て発育します。
 
また幼虫は、イエバエ幼虫と同じく、1、2、3齢があります。卵から成虫になるまで11~16日かかり、雌は羽化後約5日たつと交尾をして、8~15日目に産卵を始めます。
 
1匹の雄は数匹の雌と交尾しますが、一般に雌は1度しか交尾をしません。
 
成虫の寿命は10~27日で、この間毎日吸血して、3~4回産卵します。1回の産卵数は100~200個です。
 
イエバエとサシバエの発育日数はほとんど同じですが、サシバエの産卵開始日数はイエバエより遅れています。

 
 

サシバエの分布と越冬

 

サシバエは血液を求めて、約3km飛翔するといわれています。
 
日本におけるサシバエ分布は、日本全土にいます。
 
サシバエの活動は春から晩秋までですが、とくに9~11月の秋に活動が盛んです。また、この越冬はおもに蛹の状態でします。

 
 

ノサシバエ(horn fly)

 
 
ノサシバエはサシバエと同様に世界中に分布し、雄・雌とも宿主依存性が高く、牛体に集まって寄生し、吸血します。
 
 
サシバエは吸血の時だけ宿主の上に寄生しますが、ノサシバエは昼夜をとわず牛の体表上に寄生し、あるいは牛の周囲を飛びまわり、産卵するときだけ牛体から離れます。
 
 
この寄生態度は、宿主依存性が高くて、しつこく、牛がこのハエを追い払うと一時的に逃げるが、すぐ牛体に寄ってきます。
 
 
牛体上に寄生しているときの姿勢は特徴があり、頭部を地表に向けて静止する習性があるので、他のハエとは容易に区別がつきます。
 
 
ノサシバエは高温、高湿を好み、盛夏の頃発生数が多い。
 
 
本邦では沖縄を除く全国、とくに東北、北海道の牧場、放牧地にきわめて多発します。また、西日本では高冷地におおい。
 
 
雌は昼夜をとわず、新しい牛糞をめがけて集り産卵をします。
 
 
産卵が終わったハエは再び牛体上に寄生します。交尾は牛体上で行なわれ、新しく羽化したノサシバエの雄は牛体に集まると数回交尾しますが、雌は1回しか交尾しない。
 
 
ノサシバエはサシバエと同様に完全変態をなし、卵は25~34℃、ほぼ100%R.Hで24時間以内に孵化します。幼虫は牛糞にいて13~36℃(適温約32℃)、湿度約100%で発育するといわれています。
 
 
幼虫は1齢から3齢まで発育し、蛹は牛糞の下の地表、あるいは地下5cmくらいのところにいます。ノサシバエの越冬は蛹でします。
 
 
ノサシバエは、水牛、牛、ロバ、馬に寄生し、仔羊には寄生しますが、毛の長い羊、山羊、ラクダには寄生しません。稀れに犬、人にも寄生することがあります。
 
 

サシバエとノサシバエのおもな違い

 

●サシバエ
 
大きさ:4~8mm
小あごひげ:口吻より短い
宿主依存性:弱い
寄生:吸血時のみ
活動:舎飼牛に多い
分布:日本全土
 
 
●ノサシバエ
 
大きさ:3~5mm
小あごひげ:口吻と同長
宿主依存性:強い
寄生:昼夜を問わない
活動:放牧牛に多い
分布:東北、北海道および沖縄以外の高冷地

 
 

サシバエ類の害

 
 
家畜、とくに牛、馬はサシバエ類の攻撃をうけそのirritationとannoyanceのため安心して採食ができません。
 
 
舎飼いの場合にはサシバエ、放牧の場合にはノサシバエが寄生し、牛は絶えず頸、尾、脚、皮筋などを動かしてこれらのハエを追い払おうと努力しています。
 
 
しかし追われたハエはたちまち再度集まってきます。サシバエ類の最盛期にはそのirritationとannoyanceはアブの害以上でしょう。
 
 
さらに、1頭の牛に数百、数千という数が寄生し、吸血するので、宿主の失血量ははなはだしく、その結果、牛は貧血および削痩し、時には死亡することもあります。
 
 
家畜の生産性への影響も大きく、乳牛では泌乳量の減少が10~20%、時には40~60%という報告さえあります。
 
 
また、体重も10~25%減少します。
 
 
放牧中の育成牛では増体量がきわめて悪くなることがあります。一方、搾乳中の管理人がサシバエに刺されたという報告はかなり多くあります。
 
 
サシバエ類のvectorとしての害は次のようにいわれています。サシバエS.calcitransは、馬の小口馬胃虫Habronema microstomaの中間宿主になっています。
 
 
また、Trypanosoma spp.、Leishmania tropica、炭疽菌Bacillus anthracis、Brucella spp.、Salmonella sp.および馬伝染性貧血infectious equine anaemiaのウイルスなどを機械的に伝搬します。
 
 
一方、ノサシバエH.irritansはStephanofilaria stilesiの中間宿主となり、炭疽菌を伝搬させ、育成牛で問題となっている未経産乳房炎にも関係しているといわれています。
 
 

サシバエ類の防除

 
 
畜舎周辺にいるサシバエと、野外の放牧地に多いノサシバエでは防除法が異なります。
 
 

サシバエ

 

サシバエの発生源はイエバエと同じとみて間違いない。この発生源対策は家畜の糞便処理です。家畜糞便を野積みにして、これにワラ、飼料の残物などが入っているとサシバエは大発生します。
 
糞便を必ず密閉した堆肥舎に入れたり、醗酵処理をして、糞便中のサシバエ幼虫を殺すことが必要です。
 
成虫対策もイエバエの成虫対策とほぼ同じです。
 
畜舎内に飛翔しているハエの数が少ない時には、ハエとりリボンや電撃殺虫器などによって効果をあげることができます。
 
しかし、飛翔数が多くなれば殺虫剤を牛体に噴霧して寄生するサシバエを殺す方法、ダストバッグを畜舎の出入口に吊るして牛が自由に殺虫剤(粉剤)を浴びる方法などがあります。
 
さらに、吸血後のサシバエが休息しやすい場所に薬剤散布を行うことも重要です。

 
 

ノサシバエ

 

この発生源対策は困難です。広大な牧野に点在する牛糞が、ノサシバエの発生源であるからです。
 
将来、ノサシバエの寄生虫、あるいは天敵の研究が進歩し、実用化が完成する日を待つ以外には発生源対策はむずかしい。
 
しかしながら、ノサシバエの成虫対策は、このハエが常に牛体上あるいは周辺にいるということから、かなり効果をあげています。
 
牛体に対して殺虫剤を噴霧したり、バックラバーを利用する方法もありますが、もっとも効果をあげているのはダストバッグ法です。
 
牛の飲水場の周囲に鉄線などを張りめぐらし、1ヶ所だけ牛が通れるよう門を設けます。この門に殺虫剤を入れたダストバッグを吊下げて、牛が水を飲んだり、餌を食べに集まってきたとき、この袋にふれて殺虫剤を全身に浴びさせるようにします。
 
または、牛が休息するために集まる場所にダストバッグを設置することもあります。
 
このようにして、毎日、牛が殺虫剤を浴びることによりノサシバエの防除に役立ちます。

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