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アブ(horse flies, deer flies) ~ 形態・発育と習性・害・防除

アブ 家畜害虫

 
 
高原における牛、馬の放牧風景は、牧歌的でロマンチックに見えます。しかし、これらの牛、馬は、たえずアブの来襲をうけ、頸を振ったり尾をはげしく動かしてアブを追い払うため努力しています。
 
 
よく見るとアブ多発地帯の放牧牛馬はろくに草をたべることができないほどです。
 
 
このようにアブは人畜にとって恐ろしい害虫ですが、この防除対策は他の害虫に比べると非常におくれています。
 
 

家畜を襲うおもな種類ならびに分類上の位置

 
 
双翅目:Diptera
短角亜目:Brachycera
アブ科:Tabanidae
ヒメアブ属:Silrius
 
メクラアブ属:Chrysops
●ヨスジメクラアブ:C.van-der-wulpi
●クロメクラアブ:C.japonicus
●メクラアブ:C.suavis
 
キボシアブ属:Hybomitra
●ジャーシーアブ:H.jersey
 
キイロアブ属:Atylotus
●キイロアブ(ホルバートアブ)A.horvathi
 
アブ属:Tabanus
●アカウシアブ:T.chrysurus
●アカアブ:T.sapporoenus
●ヤマトアブ:T.rufidens
●ウシアブ:T.trigonus
●イヨシロオビアブ:T.iyoensis
●アオコアブ:T.humilis
●キスジアブ:T.fulvimedioides
●シロフアブ:T.trigeminus
●ニッポンシロアブ:T.nipponicus
●キンイロアブ:T.sapporoensis
 
ヒゲナガサシアブ属:Ishhikia
 
ゴマフアブ属:Haematopota
●ゴマフアブ:H.tristis
 
 

アブの形態

 
 
アブ成虫は蜂に似ていますが、蜂の翅は2対あるのにアブは1対(2枚)しかないので容易に区別できます。
 
 

アブの成虫

 

大きさはまちまちで体長は7~30mmあります。
 
体は頑丈で強力な翅と大きな複眼をもっています。体色は黄褐色、黒色など種類によってそれぞれ違っています。
 
体は頭、胸、腹の3部よりなり、剛毛はありませんが、細毛が生えています。頭部には複眼、単眼、触角、口器があり、胸部には1対の翅と3対の脚があります。
 
また腹部には生殖器と肛門があります。
 
頭部は大きく半球形で幅は広く、胸の幅と同じくらいかやや広い。複眼は大きく、生きている時には緑、青、褐色などの色をしているものが多いが、死んだものは黒褐色を呈します。
 
雌の複眼は互いに離れていて眼間区があり、その中に額瘤といわれているこぶがあります。額瘤の形は種類によって違い種類の同定に役立っています。
 
しかし、雄の左右の複眼は接していて合眼的です。
 
触角は頭の前方に突出し、基節、柄節、鞭節の3部よりなり、鞭節はさらに数節に分れています。触角は一般に太いが、メクラアブ属のものは細長く、その形は属によって違っています。
 
口器は液体を吸収するのに適した構造をしています。
 
とくに雌の口器はよく発達していて、皮膚に切り傷を与え流血を吸いとるように、1つの上唇、1対の大あごと小あご、1つの舌状体および下唇よりなっていて、唾液管は舌状体の中を通っています。
 
上唇、大あご、舌状体は剣状となり、小あごはやすり状になっています。口器の脇には1対のひげがあります。
 
胸部は背面に楯板と小楯板があります。翅は頑強な構造で蚊のように鱗片や毛を生ずることはなく、翅膜は透明です。
 
しかし、種類によっては黒帯斑があるものもあります。また、翅脈もよく発達しています。腹部は一般に太く8節よりなっていて、末端には肛門と生殖器があります。

 
 

アブの卵

 

大きさは1.1~2.7 x 0.2~0.5mmの錘軸形か円筒形をしていて、色は淡白色あるいは淡帯褐色です。しかし日数の経過にともなって、褐色または光沢ある黒色になります。
 
多くのアブの卵は種類によっていろいろな形の卵塊を形成します。

 
 

アブの幼虫

 

孵化当時の幼虫は小さく透明で水中に浮かびますが、成熟した幼虫は体長15~45mmで細長く円筒形で両端はやや細まっています。
 
体色は白色のものが多いですが黒褐色、赤色のものもあります。体の表面は一般に細い縦条があります。頭部は小さく第1胸節の中に出入りします。
 
また頭部には触角、口器、ひげなどをそなえています。
 
また、口器の大あごは鋸の歯のようになっていて、咬みつくように強靭にできています。
 
胸部は3節よりなり腹部は8節からできていて、腹部の各節には末節を除いて擬足があります。

 
 

アブの蛹

 

大きさは13~35mmでキチン質の硬い外皮でおおわれています。
 
色は淡黄ないし濃褐色のものが多く裸蛹で、ほぼ円筒形をしています。腹部はやや太く、末端は細くなっていて8節よりなります。
 
頭部と胸部は融合し、頭部前端には1対のいぼ状の額瘤があり、腹面にやや湾曲するものが多い。なお、胸部の腹面には翅および脚の原基があります。

 
 

アブの発育と習性

 
 

アブの発育

 

アブは完全変態をして、卵、幼虫、蛹、成虫の4ステージは明瞭に分かれています。
 
蛹から羽化した成虫は交尾した後、吸血性のアブ雌は宿主を求めて飛来し吸血します。吸血後産卵し、その後吸血、産卵を繰り返します。
 
1匹の雌アブの産卵回数は1~3回がおおい。
 
卵から孵化した幼虫は水中で生活するものもありますが、多くは土中で生活をして脱皮をしながら成長します。
 
幼虫時期は非常に長く数ヶ月くらいのものもありますが、多くのものは1~3年で、ニッポンシロフアブ、メクラアブで約1年、ジャーシィーアブで約3年といわれています。
 
その間に9回あるいはそれ以上脱皮をして成熟幼虫となります。成熟幼虫はやがて蛹になり、その後、蛹の背面に縦の割目ができ、そこから成虫は羽化します。
 
アブの発育日数は幼虫期間が長いということが特徴です。
 
一世代の発育日数は自然環境によって違いますが、本邦の家畜害虫としてのアブのおよその発育日数は次のようです。
 

卵(5~10日)→幼虫(9回脱皮:1~3年)→蛹(7~15日)→成虫

 
成虫の生存期間は約3週間で、羽化後3~5日たって吸血を始め、じゅうぶん吸血するとその後3~5日で産卵します。

 
 

アブの吸血

 

アブの口器は吸血に適するような構造で、劔状になっています。また、小あごはやすり状になっていて、この口器で宿主の皮膚を傷つけ流れ出る血液を唇弁でなめてアブ体内にとりこみます。
 
吸血量(体内摂取量)はアブ体重の1~1.5倍、その量は60~500mgです。また吸血時間は2~8分です。
 
牛馬を襲うアブは種類によって寄生部位がかなり異なっています。背部に寄生するものはアカウシアブ、アカアブ、顔面にはクロメクラアブ、尻にはキンイロアブが多く、下腹部や四肢に多く寄生するものはシロアブ、ウシアブ、キスジアブ、キイロアブ、メクラアブなどです。
 
アブの雌は草木の幹や枝、葉などにとまっていることがおおいですが、吸血するときは一直線に飛んで温血動物に集まります。
 
また、牛馬に飛来するアブの吸血活動は一般に夏の昼間に多く、宿主の周囲を飛翔して吸血部位をさし、吸血が始まると動作はゆっくりとなり、さわがない。
 
アブの吸血後、傷口から流れ出る少量の血液を非吸血性のハエがなめに飛来してきます。多くのアブは羽化し交尾した後、吸血、休息、産卵を繰返しますが、イヨシロオビアブ、キンイロアブ、ヤマトアブなどのように、第1回目の産卵には血液を必要としない無吸血産卵をする種類もあります。
 
雄は吸血しないで樹液や花の蜜を摂取しています。
 
雌の吸血は卵巣の発育を促し産卵するためで、体の維持には血液をとくに必要としなく、雄と同様に樹液や花の蜜を摂取しています。

 
 

アブの産卵

 

産卵場所は幼虫の生息する場所の近くで、種類によって湿地、草地、樹林地、川の流れの近くなどさまざまです。
 
このような場所に生えている草の葉の裏面、苔、樹木の孔の中などに産卵します。卵はイヨシロオビアブのように1個ずつ産卵され卵塊を作らないものもありますが、一般に500~800個、少なくとも約100個を卵塊として産みつけます。
 
卵塊は1~数層の扁平あるいはピラミッド状をしていますが、この形は種類によって違っています。

 
 

アブの幼虫の生息場所

 

幼虫は土中にいますが、そのほか苔や朽木の中にいることもあります。また、これら幼虫は肉食で土中の昆虫類の幼虫やミミズなどを捕食し、共喰いもするので、一か所に群れをなし生息することはない。
 
アブ発生地の水田の泥中に素足で入るとアブ幼虫に咬まれることがあります。
 
アブの幼虫は湿地帯の土中にいるといわれていましたが、最近の研究では湿地帯ばかりではなく、草地、林地など種類によって広汎な地帯に生息していることがわかっています。
 
アブ幼虫の生息場所はこちら‥
 

●有機質の多い湿地の泥中
 
アカアブ、カトウアカアブ
 
●水田の畦畔
 
キノシタシロフアブ、シロフアブ、ギシロフアブ
 
●山林内の渓流沿いの砂泥中
 
アカウシアブ、ニセアカウシアブ、シロスネアブ
 
●溜池の水中か水辺の泥中
 
メクラアブ、クロメクラアブ、ヨスジメクラアブ
 
●滝沿いの湿った苔中
 
キンイロアブ、オオツルアブ
 
●森林の土中
 
ヤマトアブ、アオコアブ、ジャーシィーアブ、ゴマフアブ
 
●森林内の朽木や苔中
 
イヨシロオビアブ
 
●開けた草地の土中
 
ニッポンシロフアブ、ホルバートアブ

幼虫の発育期間は長く、越冬は幼虫でします。
 
 

本邦におけるアブの分布

 

アブは日本全土に分布していますが、種類によって北方に多いもの、西南地方に多いものがあります。
 
夏季アブ多発地帯の放牧地に行くと多数の種類のアブが飛翔しています。その種類は10~20種類もいることがあります。

 
 

アブの害

 
 

成虫の害

 

アブの来襲を受けた牛、馬はその翅音に驚き、アブの寄生および吸血からのがれようと盛んに尾を振ってアブをはらいのけようとし、また、頭を左右に動かしたり四肢で自身の体をけり上げています。
 
このようにアブによるannoyanceからのがれようとする行為は牛馬の採食行動に影響をおよぼします。また、牛馬は不安になり、気が荒くなり、時には狂奔して思わぬ事故にもつながります。
 
次にアブの吸血によって宿主は多量の血液を失い貧血します。
 
1日中多数のアブに襲われると1日に100~300㎖も失血するといわれています。また、吸血の際の傷から少量の血液が流れ出し、そこに非吸血性のハエが血液をなめにやってきます。
 
その結果、宿主は皮膚炎を起こしたり、二次的細菌感染をうけることもあります。
 
アブ成虫の第3の害は病原体の伝搬、すなわちvectorとしての害です。Krinsky(1976)の論文によると、アブのvectorとしての役割は非常に多く、ウイルス、細菌、原生動物、線虫にまでおよんでいます。
 
自然界でアブによって伝搬するといわれている病気は、馬伝染性貧血、水疱性口内炎、豚コレラ、牛疫、脳炎、アナプラズマ症、炭疽、野兎病、トリパノゾーマ症、ロア糸状虫症などで、ことにトリパノゾーマ症、ロア糸状虫はアブが中間宿主となっています。
 
その他、アブの組織から病原体を分離したり、実験的に伝搬を実証している病原体は数多くあります。山口県で採集したアブの消化管内に小型ピロプラズマ原虫をみています。
 
以上のように本牧中の牛、馬は酷暑のストレスに加えて、アブの襲来によるストレス、吸血による失血、皮膚炎、病気などによって、牛の泌乳量、増体量はきわめて減少したり、時には狂奔による事故死、あるいは病気による死亡という二次的災害をこうむることもあります。
 
アブ多発地帯の東北地方で牧場を開設し、牛の放牧を始めたところ、アブによる牛の生産性の減退がはなはだしくて、2~3年で牧場を閉鎖したという悲劇さえあります。

 
 

アブ幼虫の害

 

アブ幼虫は土中に生息していることが多く、肉食性のため、アブ発生地の水田に素足で入った時咬まれることがあります。
 
これをアブ幼虫刺咬症といって、人ではかなり多くの症例があります。

 
 

アブの防除

 

森林地帯で作業する人、山登りやキャンプをしている人、夏の暑さを避けて高原に涼を求めにゆく人は年々多くなっています。
 
また、本邦の畜産は外国から輸入されてくる飼料に依存しているため、畜産物のコストは高く、農家の収入は低くならざるをえない状態にあります。
 
畜産物による蛋白資源を確保するため草を利用する畜産が奨励され、野草地や原野を放牧地に転換して牛の飼育が盛んになってきました。
 
ところが、このような自然環境下では各種の家畜害虫が牛を襲って害虫防除対策を講じないでは牛の育成は困難です。
 
このように人畜を悩ますアブの防除はきわめて重要ですが、他の家畜害虫の防除より困難です。アブ防除は幼虫対策と成虫対策に分かれているので、いずれも省力的、経済的で、しかも放牧形態にマッチしたものはないといっても過言ではありません。

 
 

アブの幼虫対策

 

アブの幼虫は多く土中にいて、しかも広範囲の面積に点在して生息しています。
 
この対策として、アブ幼虫の生息しそうな場所の湿地を乾燥したり、草刈りをして産卵場所となるような生息環境を少なくすることが必要です。
 
しかし、湿地を乾燥して草地化しても他の種類のアブが発生するおそれがあり、アブ対策としては難しい問題です。また、アブ幼虫生息地に薬剤を散布するということについて成功例はほとんどありません。

 
 

アブの成虫対策

 

誘引による方法は8~10畳用の蚊帳を張り、一辺のすそをあけ、蚊帳の中にドライアイスを置く方法です。
 
アブの雌は炭酸ガスに誘引されるので蚊帳の中に多数侵入します。このアブを捕殺するか、殺虫剤によって殺します。
 
この方法に類似したものはアブトラップです。
 
傘形の円錘形のトラップの下にドライアイスを置き、トラップに入ってきたアブを捕虫籠に誘導してアブを捕獲します。
 
忌避剤を使用してアブの来襲を防ぐ方法があります。忌避剤を人の手足、あるいは牛体に散布します。忌避剤としてジメチル・フタレート、ジブチル・フタレートなどがありますが、数時間の忌避効果しかなく、家畜への応用は困難です。
 
殺虫剤による方法は、アブの成虫は木の幹や葉にとまって休んでいるので空中より薬剤散布したり、森林にいるアブに対して強力なダスターで地上薬剤散布をします。
 
牛体に飛来して寄生するアブを殺すためダストバッグ、バックラバー、オイラーなどを利用する方法、あるいは1頭1頭の牛に直接薬剤を散布する方法があります。
 
しかし、これらはいずれも適切な効果をあげておらず、器具、薬剤の改良など今後の研究におうことがおおきい。天敵を利用する方法も今後の問題でしょう。
 
以上のようにアブ幼虫対策、成虫対策とも適切な防除技術対策が確立されていないし、その結果は長期間みなければわかりません。

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