家畜害虫を防除するということは、一般的に殺虫剤を害虫に散布すればこと終わりという考えです。
しかしながら、対象害虫の生理、習性、発生場所、生活史ならびに家畜への影響などを熟知し、それに適した各種の方法を講じなければ良好な防除効果をあげることはできません。
殺虫剤は害虫防除の有力な武器ですが、使用方法をあやまると、家畜および人にも悪影響をおよぼすことがあります。
また、殺虫剤の連用によって、害虫が薬剤に対して抵抗性が発達し、従来行なわれている普通の使用方法では死ななくなることもあります。
さらに、無計画な殺虫剤散布は有益な天敵を減少させることにもなります。
このように、殺虫剤を使用するに当たっては薬剤の特性を知り、対象害虫についてよく勉強して、適時適切な使用を実行する必要があります。
害虫防除には機械的、生物的、科学的防除があります。機械的防除とは器具、施設を使用することです。生物的防除とは家畜飼養環境の整備、天敵などによる方法で、科学的防除は殺虫剤などによる方法です。
これらの各種防除手段を組合わせて害虫の寄生場所、休息場所、発生源を少なくするようにします。
家畜飼養環境の整備
牛、豚、鶏などは畜舎、鶏舎などで多数飼育されている場合が多い。
この場合家畜の生産性をあげるため、数多くの家畜を省力的に飼育し、機械化できるところではできる限り機械化しています。
これは経済の原則にしたがって、畜産のように個々の家畜のもたらす純利益は少なくても、数多くの家畜を飼育して全体の利益をあげようとしているためです。
しかしながら、家畜が病気で死んだり、泌乳、産卵、増体などという家畜の能力がじゅうぶん発揮できなければ生産性向上ということにはなりません。
家畜飼養環境整備とは、畜舎内外の整理整頓、清掃、排水、除糞、通風、換気、採光、除草などです。たとえば畜舎構造は床はコンクリートとし、窓や換気扇を設け、給排水を完備して舎内は清潔に保つことが必要です。
また、飼料の貯蔵および給水器を備えることは当然必要欠くことはできません。畜舎内外は常に整頓して不要な器具を放置したり、こぼれた飼料や水、および糞尿などがちらかっていることのないように心掛けなければなりません。
これらのことは害虫の発生源を少なくするとともに、各種の疾病の予防にも役立ちます。
また、牧野に放牧されている牛馬は一日中各種の害虫の来襲をうけています。放牧地における環境整備とは、水路の改修、湿地帯の乾燥化、野草、または雑草地の牧草地化などです。
器具ならびに施設
これは一般に物理的防除法といっている方法です。単に器具ならびに施設を作って害虫の発生を防いだり、成虫を捕殺する方法と、殺虫剤との併用の方法のふたつがあります。
たとえば、畜舎内にハエや蚊が侵入しないように出入口や窓は網戸にします。また、家畜の糞尿は害虫の好適な発生源となるので、堆肥場を整備します。
牧野においては熱暑とアブ、サシバエの襲撃をさけるため庇蔭林を設置します。また、冬季のハエをとるためのハエたたきやハエとり瓶、ハエとりリボンなども使い方によっては非常に効果をあげることができます。
おもな器具、施設をあげると次のようです。
堆肥の醗酵促進と堆肥中の害虫を殺す目的の堆肥舎です。床はコンクリートにして水を4~5cmの深さに満たします。
天井および周囲の壁はブロックで作り、堆肥舎の出入口は密閉した扉とします。また、簀子を作って、その上に堆肥をのせて簀子とともに堆肥舎に入れます。
密閉式堆肥舎を簡便にしたものです。
床はコンクリートにして、その周囲に溝を設け水を入れます。堆肥は必ず溝の内側に積み上げビニール布で覆います。
ビニール布の裾は溝の中に入れておきます。
蛍光灯で誘引した害虫を感電死させるものです。
蛍光灯で誘引した害虫を捕虫網の中に扇風機によって強制的に送り込みます。
牛、羊などの体表に寄生しているダニ類を殺す目的で、動物が入る容積の浴槽を作ります。この浴槽には殺虫剤と水を入れ、動物が浴槽内を通過する間に薬剤が全身に付着するしくみです。
麻布製の袋の中に殺虫剤(粉剤)を入れてその下を動物がくぐって袋の下端が体にふれる高さに吊るしておきます。
麻ひもまたはチェーンを懸垂し、それに殺虫剤が常に浸みこんでいるか、少量ずつ流れているようにします。動物はこの麻ひもあるいはチェーンに体をこすりつけて薬剤にふれるようにしてあります。
布あるいは縄などに殺虫剤を浸みこませ、それを畜舎の出入口に吊下げる。
殺虫剤を含有している合成樹脂のバンドで、犬などの首輪のように動物に装備します。
科学的防除
化学的防除とは殺虫剤、忌避剤、誘引剤、不妊剤など化学物質によって害虫を殺したり、害虫から家畜を防護する方法です。
殺虫剤はダニや昆虫の成虫、幼虫あるいは卵などを死滅させる化合物で、これら対象害虫には毒性が強く、人畜あるいは有益なダニや昆虫には毒性の弱いものが研究開発され実用化されています。
殺虫剤としては古くから硫黄やニコチン砒素あるいは除虫菊製剤などが使われていました。第二次大戦後DDT、BHCなどの有機塩素化合物が出現し、広く全世界で使用されてきました。
ダニやハエ、蚊の防除には必須の薬剤であり、発疹チフスのvectorであるシラミ駆除に大いに活躍をしました。当時を経験したものにとっては、頭や衣類が真白くなるほどDDTやBHCの粉剤をあびたことを記憶しているものと思います。
しかし今日では有機塩素化合物は人畜の害虫駆除には使用が禁示されています。その理由は、これらの殺虫剤は一般的に残効性が非常に長くて分解しにくいこと(自然環境保護の問題)、人畜あるいは魚類の体内の組織中に蓄積されやすいこと(人畜に対する安全性の問題)、およびDDTやBHCに対して抵抗性をもった害虫が出現して殺虫効果が減少した(薬剤に対する抵抗性の問題)などのためです。
その後出現した殺虫剤は有機燐化合物です。有機燐系殺虫剤は有機塩素系殺虫剤に比べて残効性は短いですが、体内にほとんど残留しないという利点があって、現在市販にでている殺虫剤は有機燐系殺虫剤がほとんどです。
しかし最近では、有機燐抵抗性の害虫(ことにハエ)が増加しはじめています。有機燐系殺虫剤のほかにカーバメイト系、ピレスロイド系などの殺虫剤があり、多様化をきわめています。
これらの殺虫剤は水和剤、乳剤、油剤、粉剤、微粒剤など使用目的によって各種の剤型があります。また、噴霧、薬浴、ダストバッグ、バックラバー、ヘリコプターによる散布、pour-on、spot-onなどいろいろな方法で家畜害虫防除に使用しています。
しかしながら、殺虫剤は他の医薬品と同様に有効性と安全性が保証されていなければなりません。有効性とは対象とする害虫を殺すことができる数多くの実験を積みかさねてはじめて使用許可になります。
また、安全性とは人畜に対して安全な薬剤でなければなりません。
これらの薬剤は単に害虫を殺すというのではなく、他の有益昆虫に影響を与えなく、自然環境も破壊されないので理想に近い薬剤ではありますが、研究段階のものが多く家畜害虫防除に使用されていないものが多い。
その他昆虫ホルモンの利用、天敵の応用なども研究されているが実用化するまでには程遠い現状です。
以上のように各種の害虫防除手段がありますが、防除に当たっては一種類の方法だけをするのではなく、家畜および害虫の状況からいかなる防除方法を組合わせるかを考え、他の畜産農家と協力しあうのはもちろん必要なことではありますが、時には耕種農家、非農家の人々とも共同して作業する必要があります。

