皮膚の損傷(injuries of the skin)
頸部の皮膚および皮下織の創傷および挫傷は、ことに馬と犬にしばしば発生する。創傷では咬創、刺創、切創、銃創などがおこります。犬では頸環・ゴム環の絞扼によって頸のまわりに輪状の創が発生することがある。
また皮下注射、刺絡、気管切開、食道切開などの外科的操作が原因となります。これらはしばしば創傷感染を招いて、フレグモーネ、膿瘍形成、膿沈下、瘻管形成、皮膚の壊死がおこる。
一般の創傷療法にしたがって治療しますが、特に滲出物が皮下織を伝って沈下することを防ぐように努める必要があります。
斜頸(torticollis)
先天的または後天的に、頭部が種々な程度に一側に傾斜し、あるいは回転したものを総称して斜頸という。
原因:先天性のものは、主として子宮内における異常姿勢にもとづくものと考えられ、主に胸鎖乳突筋の拘縮による筋性斜頸です。
後天性のものは(1)頸椎の椎体あるいは関節突起の骨折、一側の頸筋の麻痺あるいは拘縮、頸筋の外傷などより発する。(2)中枢神経系の疾患に継発する。(3)リウマチ性疾患に発する。
症状:頭頸部を種々な程度または状態で一側に屈曲あるいは傾斜させており、手で矯正しようと試みても決して正常位に復させない。
患畜は多くは横臥し、重症では独力で起立することができない。歩行させると真直ぐに歩くことができず、円周を描く。
治療法:原因が明らかなものはその除去につとめる。一般に脱臼、骨折によるものは予後不良です。全身性疾患、中枢性神経疾患によるものは、それに対する処置を続ければ自然に回復することがあります。
頸筋の損傷(injuries of the cervical musculature)
頸の筋肉には創傷、挫傷、血液浸潤、血腫、筋の断裂、炎症などが発生する。またフレグモーネ、嫌気性菌感染が生じ、膿瘍、瘻管が形成される。
上腕頭筋に挫傷、炎症、膿瘍などの発生が多い。病変に応じてマッサージ、罨法、電気刺激療法、超音波療法、切開、異物摘出、ハリ治療などをほどこす。
齰癖(crib-biting, wind sucking, air sucking, aerophagia)を有する馬では胸骨下顎筋の肥大がおこる。齰癖は、固定された物体(例えば厩栓棒)を馬が上顎の切歯で噛んで、これを支点として頭頸部をほぼ直角にまげ(頭部が垂直に近くなる)、空気をのみこむ悪癖で、しばしば疝痛の原因になるといわれている。
空気をのみこむ際に主として下顎と舌骨を後・腹方へ引く作用のある筋のうち、最も強力な胸骨下顎筋の肥大が目立つ。この癖を有する馬の上顎の切歯には異常な磨滅がみられる。
近隣の馬房の馬の癖を真似て覚えるとされ、またその素質が遺伝するという説もある。軽種馬には少なくない。
矯正法としては、顎を後・腹方へ強く引いて頸をまげる動作をおさえる抑制器具が考案されている。またその時に働く4種の筋(胸骨下顎筋M.sternomandibularis, 胸骨舌骨筋M.ste-rnohyoideus, 肩甲舌骨筋M.omohyoideus, 胸骨甲状筋M.sternothyroideus)の切除術myectomyが行われ、その有効率は80%といわれています。
血管の損傷(injuries of the blood vessels)
頸動脈の刺創はしばしば出血死を招く。頸静脈は静脈内注射・刺絡・手術の失宣によって損傷をうけ、著しい出血や血栓静脈炎thrombophlebitis,血腫の形成を招き、また感染をきたしやすい。
出血多量の時は危険に陥ることがある。
刺絡の後には瘻管を形成することがある。静脈内注射の際に、抱水クロラール、塩化カルシウム、砒素剤、バルビツール酸剤などの溶液が血管外に漏れると、静脈周囲炎periphlebitisがおこって頸静脈およびその周囲が太く索状に腫脹し、時には頸の全長にわたって腫脹がひろがり、また長く腫脹と硬結が残って、以後の静脈内注射が困難になることがある。
潰瘍が形成されて、あとに大きな瘢痕が残ることもある。症状に応じて止血法を講じ、罨法法、巴布、水銀軟膏、ヒルドイド軟膏の塗擦を行い、またマイクロウェーブ照射、超音波療法を実施する。
バルビツール酸剤漏出の時は、ただちにほぼ同量の1%プロカイン液を局所に注入する。その他稀には、頸動脈と並んで走る迷走神経、反回神経、交感神経などに損傷が生ずることがあります。
