局所的影響
腫瘍それ自体には疼痛はないが、腫瘍の発育に伴う機械的影響によって疼痛を生ずることがあります。体表において大きな腫瘤を形成するときは、皮膚が緊張して皮下組織を圧迫または牽引し、皮下組織や体腔内においては、周囲組織や臓器が圧迫・牽引され、あるいは内腔の閉塞によって、いずれも多少の鈍痛や血行障害などを招くものです。
また腫瘍が組織内を広範囲に浸潤したり、その増殖により、臓器組織が破壊されることがあると、局所的機能障害の結果、全身的な影響が現れる。
発生部位によっては、高度の機能障害によって重大な結果を招くとこがあります。たとえば良性腫瘍であっても、脳や胸腔、腹腔内臓器に発生する時は、周囲の重要な臓器組織を圧迫して、神経障害および呼吸・循環・消化・排泄の障害を招き、また消化管や気道のそれは内腔を塞いで生命を危うくすることがある。
悪性腫瘍においては、局所の浸潤性増殖あるいは転移などにより、神経や血管が侵されて、激痛や大出血を招きやすく、また臓器穿孔による胸膜炎や肺炎・腹膜炎などを継発し、さらに腫瘍表面からの細菌侵入による感染症も考慮しなければなりません。
全身的影響
主として重要な臓器が局所的に侵され、それが間接的に全身に影響をおよぼすものです。たとえば、脳脊髄・肝・脾・肺・心・血管・リンパ節および内分泌系統に腫瘍が発生すれば、それぞれの機能が侵され、それにもとづいた特徴的な全身症状を現すものです。
また腫瘍組織の代謝産物や局所組織の変性破壊物質などの有害物質が吸収されて、全身的に代謝が著しく損なわれる。とくに重要なものは悪性腫瘍にみられる悪液質(cachexia)です。
これは癌腫・肉腫などの末期にみられるもので、共通的な臨床症状としては、元気食欲不振、脱力、削痩・貧血・低蛋白血症・脱水・被毛粗剛・皮膚乾燥・全身臓器の萎縮など特異な栄養障害の症状を現します。
その結果、死の転帰をとるものを腫瘍死(death caused by tumor)という。
家畜における腫瘍の発生状況
どのような家畜に、どんな種類の腫瘍が、どこに好発するかを十分に理解しておくことは、腫瘍の診断・治療・予後の判定上きわめて重要です。
動物体表に現れた一腫瘤が類症鑑別によって腫瘍らしいと思われた場合、動物の種類・年齢・性・発生部位およびその性状などの資料を得ただけで、およそどのような種類の腫瘍であるのか見当がつけられる場合があります。
しかしながら、この知識や多くの経験が先入観となって、かえってほかの原因による腫瘤を腫瘍と誤診することがあるので、腫瘍の発生状況の知識は、あくまでも診断時における参考資料にとどめておくべきです。
動物において、臨床上比較的しばしば遭遇する腫瘍は次のようです。
●黒色腫
皮膚、葦毛馬に多い。
●線維腫
亀頭、外陰部、四肢、胸前、歯肉
●癌腫
口蓋、眼瞼、亀頭
●乳頭腫
皮膚(幼齢)、膀胱粘膜(壮齢・血尿症)
●癌腫
口腔、眼窩、瞬膜、眼瞼、膀胱(壮齢・血尿症)、肝臓、骨髄など)
●白血病・混合腫瘍
皮膚(壮齢)
●白血病
●皮様嚢腫
角膜および結膜(先天性)
●乳頭腫
皮膚、口腔、眼瞼、陰茎、包皮、膣、肛門、膀胱
●黒色腫
皮膚(壮齢)
●脂肪腫
皮下織(壮老齢)
●肉腫および線維腫
鼻腔、頭顎洞、口腔、歯肉、陰茎、膣、外陰部、皮下織
●腺腫
乳腺、子宮
●平滑筋腫
子宮
●リンパ肉腫
全身リンパ節、白血病
●癌腫
乳腺、肝臓、肺臓、膣、膀胱、皮膚
●肥満細胞腫・混合腫瘍
線維肉腫、骨肉腫など
乳頭腫・肉腫・腺腫・癌腫・白血病・リンパ肉腫が多く、おおむね犬に類似している。
白血病、マレック病
備考
a)緬山羊においては、腫瘍に遭遇する機会が比較的少ない。
b)人で先天性に発生しやすい血管腫・リンパ管腫・粘液腫・軟骨腫・骨腫は、動物では少ない。
c)一般に乳頭腫、肉腫は若齢に、線維腫、癌腫は壮老齢のものに多い。
d)犬の乳腺癌、骨肉腫では、肺転移をみるものが少なくない。
e)馬の蹄癌は、蹄叉の乳嘴体の異常増殖によるもので、真の癌腫ではない。
また、動物において腫瘍と間違えられやすいその他の疾患をあげると次のようです。
ブドウ状菌腫・顆粒性皮膚炎・骨瘤・粉瘤
放線菌腫・バルトリン腺嚢腫・ゲルトネル腺嚢腫
甲状腺腫
線維性睾丸炎・歯肉腫・角膜ブドウ腫・乳腺症・甲状腺腫・前立腺肥大・ガマ腫
黄色脂肪症
膿瘍・贅性肉芽・ケロイド・線維腫様腫瘤(血腫・粘液嚢炎)・ヘルニア嚢・貯留嚢腫など。
