小用量の投与によって動物の不安感を安らげ、その攻撃性と防御性を抑制する性格があります。いずれの薬物も用量を上げれば鎮静作用を示す。
精神安定薬には二つのグループがある。その一つはメジャートランキライザ(major tranquilizers)とか神経弛緩薬(neuroleptics)とか抗精神病薬(antipsychotics, ヒトの比較的重度の精神病の治療に用いる薬物)と呼ばれ、代表的薬物はクロルプロマジンです。
他のグループはマイナートランキライザ(minor tranquilizers)とか抗不安薬(antianxietics, ヒトの神経症の治療に用いる薬物)と呼ばれ、代表的薬物はジアゼパムです。
両グループの薬理作用を比較した場合、両者の間には著しい相違がみられ、別の薬効群と考える方が合理的です。
動物に対して精神安定作用を得る目的にはメジャートランキライザだけが用いられる。マイナーはこの目的を得るには作用が弱すぎるので主として鎮静催眠と抗痙攣の目的に用いる。
フェノチアジン誘導体(phenothiazine derivatives)
フェノチアジン誘導体系トランキライザの薬理作用や副作用はいずれも類似しているが、作用の強さや持続性が薬物によって異なる。
クロルプロマジン(chlorpromazine)
バリア通過性の良い薬物で、経口でも筋注でも吸収は速い(ウサギに筋注すると重度の筋炎が起こる)。犬での研究では消失が遅く、半減期が約6時間です。
尿中へは親化合物のままでは排泄されず、多数の代謝物になって排泄される。
尿中には投与後2~3日にわたって検出されます。
薬理作用
動物の自発運動には影響を与えない程度の小用量を動物に投与すると精神安定作用(tranquilizing action, 神経弛緩作用neuroleptic action)を示し、動物は攻撃性(凶暴性)が低下し、また外部からの攻撃に対して無関心になる。
この反応は実験動物における条件回避反応抑制とよく一致する。
飼育箱の床に金網を敷き、箱の中央に網を垂下げてマウスを箱に入れる。金網に電流を通ずるとマウスは網によじ上がって逃避する。
この反応は無条件回避反応です。ブザーを鳴らしてから数秒後に電流を通ずる操作でマウスを訓練すると、マウスはブザーを聞いただけで網をよじ上がる。
この反応は条件回避反応です。
小用量のクロルプロマジンを投与すると条件回避反応は抑制(逃避反応は抑制されない)され、無条件回避反応だけがみられるようになる。
この種の試験は数多く考案されていますが、どの試験でも精神安定薬は条件反射だけを強く抑制します。マイナートランキライザではこの作用は極めて弱く、バルビツレートのような鎮静薬の鎮静用量では抑制が認められない。
その他の中枢作用
中用量の投与によって①鎮静作用を示し、動物の自発運動は低下する。②麻酔薬など他の中枢神経抑制薬の効果を増強する。③体温調節機能を低下させ、低温環境下では体温が環境温度に近づく。④循環系を抑制し、血圧を降下させる。⑤アポモルヒネなどの催吐作用に拮抗するなどの作用がみられる。
①鎮静作用、②麻酔強化作用は中枢だけへの作用です。
③体温低下作用や④血圧降下作用は視床下部の交感神経中枢への抑制作用と末梢におけるα遮断作用の両方の作用によると思われます。
いずれの作用の貢献度が高いかは明らかではない。⑤制吐作用は第4脳室底にあるCTZに対する作用です。
高用量によっては①催眠作用が現れ、②筋緊張がたかまってカタレプシー状態になり、③下垂体前葉・後葉からホルモン分泌を抑制する。
末梢神経系への作用
アドレナリン作動性α遮断効果が強い。
このためエピネフリンによる血圧上昇反応は逆転して降下反応だけが認められるようになる。カテコールアミンによる心室細動誘起も抑制される。
また局所麻酔作用が認められる。
作用機序
クロルプロマジンなどの神経弛緩薬にはドパミン受容体拮抗作用があり、中枢神経系におけるドパミン作動性ニューロンの活性が遮断される。
中枢性ドパミン作動性線維の末端は線条体、扁桃核その他の大脳辺縁系、大脳皮質の一部に分布している。これらの部位は錘体外路系や本能行動を支配する部位ですが、ドパミン作動性ニューロンによって制御されている。
副作用
フェノチアジン系精神安定薬は一般に血圧降下作用が強い。
またエピネフリンを投与するとさらに低下するのでエピネフリンの併用は危険です。一部の馬にアレルギーが発生します。
多くの注射剤は局所刺激性が強いので皮下注射は避けること。
臨床応用
家畜における使用目的は、①麻酔強化②攻撃性の弱化と鎮静③嘔吐予防などです。
その他のフェノチアジン誘導体
クロルプロマジンと比べると作用がやや緩和で副作用が少ない。
全ての家畜に用いることができるが、主として馬に用いる。
犬猫、豚、牛に適しますが、牛には特に作用が強い。
馬では発揚が現れるので不適当です。
フェノチアジン誘導体のうちでは制吐作用が最も強いので、この目的に犬猫に用いる。
犬猫専用のトランキライザで、主として麻酔前投与薬として用いる。
馬では陰茎索引筋の麻痺を起こす。
