静脈炎(phlebitis)
家畜に多発する静脈炎には、外傷性静脈炎・化学的静脈炎・化膿性静脈炎などがあります。静脈壁の損傷、炎症、変性などの結果、血栓が形成された場合は、これを血栓性静脈炎thrombophle-bitisといい、静脈血栓症(血液の変化とうっ血が主因)と区別されています。
外傷性静脈炎(traumatic phlebitis):静脈の損傷または馬・牛の頸静脈における刺絡術phlebotomy or venesectionあるいは同一部位における静脈内注射の反復時に発生する。
科学的静脈炎(chemical phlebitis):刺激性薬物、たとえば塩化カルシウム・抱水クロラール・砒素剤・アンチモン剤などの静脈内注射時に、またはこれらの薬液が血管外に漏れた場合に発生します。
後者の場合は、まず静脈周囲炎periphlebitisをおこし、次いで限局性の静脈炎とhyalin化血栓ができる。
化膿性静脈炎(suppurative phlebitis):静脈内注射や刺絡術の際に術野および注射器や刺絡針の消毒が不完全な場合、あるいは静脈周囲の化膿巣から静脈壁が感染しておこります。
静脈は血流が弱く、また静脈弁があるために、細菌の停滞をきたしやすい。
刺絡部が化膿して瘻孔を形成した場合は、これを刺絡瘻といいます。このほか家畜では、初生児の臍静脈炎omphalophlebitisがしばしば発生します。
臍帯が染毒すると細菌は臍帯の動静脈に侵入して血管炎をおこす。臍帯断端では、一般に動脈は臍輪に固着するか、あるいは腹腔内に退縮するが、静脈の一部は残存するため、静脈における変化が顕著です。
臍静脈炎は馬・牛に多発し、その特徴は静脈が索状に硬結し、内部に血栓を認め、これを強く圧するときは膿汁を排出する。化膿性炎症が周囲に波及して経過が長引くものは、しばしば化膿性瘻孔を形成し、また膿毒症や敗血症をひこおこせば予後不良です。
静脈瘤(varicose vein or varix)
静脈瘤とは、静脈の局所的な病変あるいは静脈血の還流障害により、静脈内腔が異常に拡張した状態をいい、静脈拡張症phlebectasisの一つです。
四肢の静脈血が起立歩行時に右心室の方向へ還流できるのは、主として筋収縮と静脈弁の閉鎖ならびに吸息時の胸腔内陰圧との作用によるといわれ、こられが障害を受けた場合、あるいはこれとは別に局所的に静脈血の還流が妨げられた場合に、静脈瘤を発生するものです。
静脈拡張部は一般に拡張、延長と迂曲がおこり、部分的に紡錘状または嚢状を呈することが多い。静脈壁は軽度の慢性炎症を伴い、結節状の増殖と結合織の肥厚がおこり、硬化・石灰沈着・血栓形成などが見られることがあります。
家畜に多発する静脈瘤には次のようなものがあります。
乳静脈瘤(mammary varix):乳房の発育の良い老齢乳牛にみられ、外観上限局性の顕著な拡張と迂曲がみられる(難治)。
幼駒のいわゆる蟇種(lampas)放牧幼駒に、初秋から晩秋にかけて多発する。口内炎のあるものあるいは切歯の脱換期に粗剛な草を多く採食すると、硬口蓋の静脈叢に著しいうっ血をきたし該部に著明な腫脹を呈して咀嚼障害をおこし栄養不良に陥る。
治療法は、まず原因を除去し、硬口蓋第3~5皺襞の隆起部の中央にメスをいれて瀉血するか、または焼烙する方法が行われる。ただし、瀉血の際に左右の周縁に近く切ると、口蓋動脈を損傷する恐れがある。
なお、犬の舌下面に発生するがま腫ranulaは唾管の貯留嚢腫であり、本症とは異なる。
飛節静脈瘤(blood spavin):激労に服する老馬のサフェナ静脈にみられる(難治)。
精系静脈瘤(varicocele):雄馬とくに老齢の種雄馬の精系静脈(蔓状叢)にみられる(難治)。
腟静脈瘤(vaginal varix):老齢雌馬の腟弁付近の静脈拡張症で、該部は暗赤色あるいは暗紫色を呈し、交配時または妊娠時に原因不明で出血することがあります(難治)。

