血栓症(血塞)thrombosis
血栓症とは、動物体の血管系統内で血液が凝固し、血管腔狭窄または閉塞を生ずる場合をいい、この凝固したものを血栓thrombusと呼びます。
血栓症は動脈より静脈において多発し、これを静脈血栓症phlebothrombosisという。
血栓形成の原因には、血液凝固性の促進、たとえば脱水、ショック、熱傷などにより、血液の濃縮や粘稠度の増大をきたした場合と、骨折や腫瘍による静脈中枢部の局所的圧迫などがあげられます。
このほか静脈が損傷を受けて、内皮の剥離切断によりその部に血栓を生じ、また静脈炎や静脈瘤の場合にもおこりやすい。治療法としては凝固阻止剤の投与法や血栓部切開による血栓の吸引摘出法などがあります。
塞栓症(embolism)
塞栓とは血液に溶解しない物質、たとえば血栓、気泡、液体、固形物などが血液とともに移動し、小血管に定着して血管腔を閉鎖する機転をいい、この定着したものを栓子または塞栓子embolusと呼びます。
(ⅰ)静脈塞栓:血液の性状の変化、血流のうっ滞、静脈内皮の変化により静脈内に形成された血栓は、静脈壁に癒着することなく、右心房室から肺動脈の末梢に進み、肺塞栓症pulmonary embolismを形成する。
これが広範囲におよぶときは、肺循環が極度に阻害され、ガス代謝が低下して危険に陥る。頚静脈損傷(馬・牛の刺絡術phlebotomy)の場合に静脈内が陰圧のため、空気が静脈内に吸引されて空気塞栓air embolismをひきおこすことがある(難治)。
(ⅱ)動脈塞栓:馬の前腸間膜動脈血栓症(Strongylus vulgarisの寄生による)においては、血栓の一部が崩壊して、下結腸動脈を閉塞し、血栓性疝痛をひきおこし、また同じく大腿動脈の塞栓をきたすときは、後肢の間歇性跛行を呈する。
動脈損傷部においてときに血栓を生じ、それが小血管を栓塞して末梢の血行障害を招き、その分布領域の知覚および皮温の低下や運動障害を招くことがあります。
肺静脈・左心房室で形成された血栓は、心冠動脈あるいは脳・腎・肝・腸の末梢動脈に移動して、動脈性塞栓をおこす。また骨髄や皮下組織の脂肪が静脈から動脈にはいり、脂肪塞栓症fat embolismをおこすことがあり、臨床上、骨折時におこりやすく、脂肪滴は肺・脳・心冠動脈・腎に移行してしばしば危険を伴う。
以上の疾患はいずれも難治です。
そのほか犬糸状虫症において、多数の寄生糸状虫や砒素剤による殺滅死虫が右心房室や肺動脈の塞栓と重度の肺循環障害をおこして、失神発作やショック死を招くことがあります。
また犬糸状虫による腹大動脈の塞栓のため後肢の飛節以下が脱落した例があります。寄生虫の塞栓にもとづく血行障害の治療には、犬糸状虫症の外科的療法があります。
卵円孔や動脈管開存および心室中隔欠損などの先天性心疾患をもつ犬では、感染した糸状虫が動脈系に移行寄生し、腹大動脈塞栓症や腸間膜動脈塞栓症はときどき見られ、いずれも外科手術の対象となります。
これら血行動態の診断には動脈撮影arteriographyが必要です。
(ⅲ)その他:以上のほか、細胞や組織片(胎盤細胞・骨髄巨細胞・腫瘍細胞など)、寄生虫、虫卵、細菌塊などがそれぞれ、血中にはいって塞栓ををおこし、種々の病変を発することがあります。
一般に塞栓に対しては、それぞれの原因の除去および種々の対症療法がほどこされますが、重度のものでは難治です。

