家畜の不整脈で治療対象になるのは小動物と馬ですが、どちらの動物種でも迷走神経性の不整脈が生理的に発生する。
さらに成犬では呼吸性の不整脈が高頻度に現れ、連続的に数個の拍動が消失することもある。
病的な不整脈でも軽度の症例では一般に治療の対象にならない。
したがって抗不整脈薬はかなり重症な不整脈の治療に用いられる薬物です。
不整脈には頻脈性不整脈と徐脈性不整脈があります。薬理学で抗不整脈薬に分類している薬物はいずれも頻脈性不整脈に用いる薬物です。
頻脈性不整脈の原因としては心の興奮伝導系の一部が障害されて、その部位が異常興奮する病態が最も多い。
したがって抗不整脈薬は直接的・間接的に心に抑制作用を示す薬物です。
抗不整脈薬は4種類に大別される
キニジン、プロカインアミド、リドカイン
Ⅱ型:アドレナリン作動性β遮断薬
プロプラノロール
Ⅲ型:活動電位持続時間を延長する
ブレチリウム(本邦では用いていない)
Ⅳ型:カルシウムチャンネル遮断薬(遅反応性心筋細胞の興奮抑制)
ベラパミル
キニジン(quinidine)
キナ皮(cinchona)のアルカロイドで、マラリア治療薬キニーネの光学異性体にあたる。キニーネが左旋性、キニジンが右旋性です。
心筋に対して抑制的に作用し、その興奮性を弱め、不応期を延長し、興奮伝導速度を遅くする。馬の心房細動では有効率が高いが、犬では無効例が多い。
プロカインアミド(procainamide)
局所麻酔薬プロカインのエステル結合をアミド結合に変えた化合物で、心に対する抑制作用が強い。プロカインは中枢興奮作用が強く、また血清コリンエステラーゼによって急速に分解される。
プロカインアミドは中枢興奮作用が弱く、エステラーゼに抵抗性であるから心に対する抑制作用が特異的でかつ持続性です。
しかし他の薬物に比べると体内消失が速く、1日に6回以上の投与が必要です。
プロカインアミドの心筋に対する作用はキニジンに類似している。
犬の不整脈の治療ではキニジンより有効率が高い。
リドカイン
局麻薬のリドカインにも心抑制作用がある。
リドカインに特色は…
②静注後の作用発現が即時的であるが投与を中止すれば速やかに作用が消失する点にある。
犬では①全身麻酔中の心拍異常と②強心配糖体中毒による不整脈の治療に用いる。
毒性発現ぎりぎりの血中濃度が必要で、消失が速いので30~60分ごとの投与とか点滴注入が要求される。
緊急治療だけに用いる。
β遮断薬,プロプラノロール(propranolol)
プロプラノロールなどのβ遮断薬は、①低用量でカテコールアミン拮抗作用や交感神経遮断作用を示す。
②高用量では心筋に直接作用して細胞膜を安定させる。
この両方の作用によって心の興奮発生を抑制し、伝導速度を遅延させる。
犬における代謝速度はヒトより速くて半減期が1時間であり、有効血中濃度幅が狭い(20~80㎍/ml)ので、4時間以内での反復投与が必要です。
また経口投与では肝の初回通過効果を強く受けるので、注射の数十倍の用量が必要であるし、効果が不安定です。
カルシウムチャンネル遮断薬,ベラパミル(verapamil)
ベラパミルは細胞膜にあるCa²⁺チャンネルの一部のタイプの機能を特異的に阻害し、Ca²⁺の細胞内への取込みを抑制する。
したがってこの系統の薬物はカルシウムチャンネル遮断薬と呼ばれる。
阻害されるチャンネルは興奮性細胞にある電位感受性タイプの一部のサブタイプだけです。
ベラパミルの心に対する作用では房室結節での伝導速度を遅延させる作用が強い。ベラパミルは心筋細胞のうち遅延性活動電位を発生するCa²⁺依存性細胞を特異的に抑制する。
この種の細胞は房室結節に多いし、また異所刺激発生での一方向だけの伝導にも重要な役割を演ずる。犬の不整脈の治療に用いられている。
血管平滑筋はCa²⁺依存性で、Ca²⁺の細胞内流入によって収縮する。
ベラパミルはこの流入を阻害して弛緩させるので、犬の心不全における血管拡張薬としても用いられる。
ベラパミルは心組織と親和性を持ち、投与すると心に他の組織の数倍から十数倍の濃度に分布する。このため、全身投与でも循環系以外の組織には事実上作用しない。
抗不整脈薬の臨床応用
抗不整脈薬はいずれも高用量投与が必要であり、毒性発現ぎりぎりの用量が用いられるので、慎重な投与計画の立案が要求される。
血漿中有効濃度はヒトと類似するので、分析を外部に委託して薬物動態学的に計画を立ててもらう事は可能です。
別の方法では、心電図を観察しながら低濃度溶液を点滴静注するとか、基準用量を数回に分割して短時間間隔で反復投与するなどの方法で有効用量を決める。
犬の房細動・房粗動
プロプラノロール、ジゴキシン、プロカインアミドが用いられるが、前の二つの薬物の有効性が高く使用頻度が高い。
プロプラノロールは房の細動・粗動への抑制作用が弱く、心室拍動数の抑制作用が強い。
ジゴキシンは房の細動・粗動には殆ど影響せずに心室拍動数だけを下げる。しかし房細動・粗動では心室の頻脈が症状の原因であるから拍動数を下げるだけで症状が改善される。
プロプラノロールの欠点は作用時間が短くて頻回の投与(1日6~8回)が必要であることと、心不全とか心室ブロックが併発している場合には危険である点にある。
この点でジゴキシンは1日1回でよく、心不全が併発していてもよいので第一選択薬であると主張する意見が強い。
但し、致死的な毒性が発現する可能性はジゴキシンの方が高い。
欧米での最近の傾向では心への選択性が高いβ遮断薬で、犬猫に経口投与した後の利用率が高く、動態の個体差が小さく、消失時間の長い薬物の開発が試みられています。

