
中共及び南方諸地域に分布している牛の総称であって、1つの品種名とはいえないかも知れません。これらは同じ真正家牛亜属のうちでも普通の家畜牛(Bos taurus)とは、種の異なる(Bos indicus)に属します。
用途は主として役用ですが、肉も利用されています。起源はインド犎牛(ほうぎゆう:Indian Zebu)で、肩峰(Hump)をもっているところは、良く似ている。
普通世界各国でZebuと単にいっているのは、Indian Zebuのことで、この黄牛の意ではありません。インド犎牛に近いだけにその歴史が古いことは間違いありません。
飼育場所によって違いますが、各種のインド犎牛を種雄牛として導入し、改良が試みられました。それ以外の外国種の血液を入れて改良したという史実はどこにもありません。
近年、フィリピンの1部などでは、アメリカのSanta Gertrudis(テキサスのキング牧場で作出された暑熱に強い肉牛、インド犎牛の血液が入っている)を試験的に交配したり、タイの1部でもそのような試験成績があります。
黄牛の外観
毛色はふつう黄褐色ですが、淡褐色、スダレ毛など種々雑多です。なかには全黒もあります。体型上、めだつのは肩峰と胸垂の大きいことです。
ただし、肩峰と胸垂の状態は場所により異なり、南のものほど著しく、北にゆくにつれ小さくなっています。例えばおなじ中共でも華南のものは肩峰と胸垂がかなり著しいが、華中、華北にゆくにつれてこれが小さくなります。
ことにこれは雌において判然としています。台湾の黄牛も雌にはほとんど肩峰が目立ちません。
総じて体型は前軀の発達が著しく、前がち体型で、役用タイプです。しかも胸深浅く長脚ですが、四肢は細くしっかりしています。
後軀が短く、その側望、後望の傾斜は甚だしい。また、腿の充実を欠いている。
全体に体幅に乏しく、体積は十分ではありません。体格も場所により異なり、大型小型があります。もとの山東牛(もとの山東省の牛の名称)は大型の方で、雌の体高、119cm、体重約340kgでした。
台湾黄牛は小型で、体高、雌110cm、雄120cm、体重、雌250kg、雄280kgです。このように牛としては全般に小型ですが、近年はいくらか大きくなっていることでしょう。
能力
役用能力は優れ、ことに小農の耕牛としては高く評価されています。濃厚飼料を与えて十分に肥育したものは、肉質もそう悪くはありません。
戦前、山東肉と称して山東省の牛肉が本邦にかなり輸入されていましたが、その評判は悪くはありませんでした。1日増体量、全体の肉量などにおいては問題があるでしょうが、肉質ことに筋肉内に脂肪の交雑しうる能力は相当にあるものと思われます。
気候風土に対する順応性が高く、熱帯から寒帯近くまで分布しています。また体質強健で粗放な飼養管理に耐えます。暑熱に対する抵抗性が強く、熱帯によくあるピロプラズマ病(ダニが媒介する病気)に対する抵抗力が強い。
一般に晩熟で、初産分娩月令は30~32か月のようです。
分布
ビルマ、タイ、ラオス、東インド、フィリピン、中共、台湾に分布しています。
蒙古と満州との牛は、おのおの蒙古牛(Mongolian Cattle)、満州牛(Manch-urian Cattle)と称され、一応黄牛とは別個のものとされています。
外観においても、これらは雌雄とも肩峰をもっていない。むしろ前述の韓牛に似ています。