乳腺から分泌されたミルクが集まって流れてくる乳頭の外面および内腔には、しばしば損傷をはじめ種々の外科疾患が発生して、搾乳が困難ないし不可能になり、乳牛の価値が著しく損なわれる。
またそれらにはしばしば急性の重篤な乳房炎が合併する。
原因
踏創:tread injuries
牛が起臥する際に自分の後肢で乳頭を踏みつけることが主な原因です。そのなかには削蹄不足による過長蹄に基因するものが少なくない。
特に分娩直後の牛は、乳房が浮腫性で下垂しており、またミネラルの欠乏などのために起臥の際によろめくことが多いので、その危険が大きい。
舎飼の場合には隣の牛に乳頭を踏まれることもめずらしくない。
不適当な乳頭内操作
導乳管の粗暴な挿入や拙劣な乳房内薬物注入は、乳頭管や乳頭内腔の上皮を傷つけて、乳頭管の狭窄あるいは乳頭壁の結合織増殖の原因になる。
また乳の出のしぶい牛hard-milking cowの乳頭口から、畜主が針金、藁茎などを挿入して内腔の上皮を傷つけることも少なくない。
器械搾乳の失宣
拍動数、直空度などが適正でない搾乳器の使用をつづけると、乳頭管、乳管洞乳頭部の上皮および上皮下の組織がくりかえし刺激を受けて、肥大、増殖をおこす。
乳頭カップ内のゴムが軟らかすぎる時には、乳頭が強く吸いこまれて同様な刺激をひきおこす。これらの刺激の反復によっておこる病変には、次のようなものがあります。
乳頭括約筋の過度の緊張または弛緩、フェルステンベルグ・ロゼットFürstenberg’s rosetteの弁形成、副乳腺組織の肥大spider、輪状ひだannular foldの肥大。
症状および診断
乳頭の損傷および乳頭括約筋の弛緩は視診によって明らかに診断されますが、乳頭内腔の病変では、搾乳の困難が主要な徴候です。
また副乳腺組織あるいは輪状ひだの肥大は触診によって判明する。
なお副乳腺組織の肥大の場合には、細胞数の増加、CMTの陽性など、乳質の異常が検出されることがあります。
これらの病変は時には互いに合併し、あるいは乳房炎と併発することが少なくないので、診断はかならずしも容易ではありませんが、一般には下記の原則にしたがって判定されます。
乳頭管開口部、乳頭の付着と変形
触診
乳頭、乳管洞の増生組織の位置・大きさ・硬度
乳管洞乳頭部へのミルクの下降(let-down)の状況
●導乳管の挿入
挿入不可:先天性または外傷による乳頭口の閉鎖または乳頭管の強度の狭窄
挿入可能
a.はいるが強い抵抗がある:乳頭管の強度の狭窄、顕著なロゼットの弁形成
b.深くははいらない:副乳腺組織の肥大、乳頭内の腫瘍
c.容易にはいる
(ⅰ)乳管洞乳頭部にはいれば搾乳容易:乳頭管の狭窄、ロゼットの弁形成
(ⅱ)乳管洞乳腺部にはいらなければ搾乳困難:輪状ひだの肥大
(ⅲ)どこまで入れても乳が出ない:乳腺の萎縮、さらに上部における乳管系の閉塞