膿胸(pyothorax(empyema thoracis))
胸膜腔内に膿汁の貯留した疾患で、臨床的には、肺病巣や胸壁および縦隔など近接する器官の炎症性変化が胸膜に波及しておこる。
とくに猫および犬に多くみられ、気管支拡張症の穿孔波及や肺炎の経過中、あるいは経過後に発生するものが少なくない。
原因:本症発生の起因菌は、肺炎球菌、レンサ球菌、ブドウ球菌などの場合が多い。この他、大腸菌によることもあり、とくに人では結核菌との混合感染が重視されています。
症状:急性膿胸においては、体温が上昇し、呼吸は浅表となり増数する。血液像では、白血球増多を示す。胸膜炎による激しい胸痛と胸腔内の膿の貯留による周囲臓器の炎症性変化にともなう圧迫症状を特徴とし、元気食欲不振・廃絶などの全身症状を表す。
重篤の場合は、嗜眠状態に陥り、ショック死をみることがあります。本症が早期に適切な治療が行われないときは、慢性膿胸に移行するものが多く、その経過は1~数か月におよび予後不良に陥る。
診断は膿の貯留を明らかにすればよい。
起立位で、側面からX線撮影を行えば胸腔内にびまん性の陰影が認められる。また穿刺術により膿汁が排出されますが、この場合は排液について起因菌や耐性菌および膿の性状などについて検査する。
治療法:急性膿胸の治療は、早期に胸腔内の膿汁を排除し、周囲臓器への悪影響や敗血症の発生を防ぐ必要がある。排膿法としては套管針あるいはビニール管による閉鎖性ドレナージを用い、場合によっては、開胸術をほどこし、膿汁やフィブリン塊を排除して、胸腔内を十分に洗浄して閉胸する。
なお、この場合、肺などの病変部の摘出を必要とすることもあります。これらの外科的処置と相俟って、患畜に対しては、系統的な化学療法と栄養の補給を十分に行う。
注:血胸hemothoraxは胸腔内に血液の貯留した疾患で、損傷による胸部血管の破綻や肺実質からの出血の場合および稀に胸部臓器の手術後に認められます。
また気胸がこれに併発して血気胸hemo-pneumotho-raxを発することがある。治療法としては、ビニール管による閉鎖性ドレナージを用い、出血が大量の場合は直ちに開胸して止血する必要がある。
乳糜胸chylothoraxは胸管の損傷によりリンパ液が胸腔内に貯留した疾患で、この貯留液は乳白色を呈する。乳糜の排出が長時間に及ぶときは、大量のリンパ液喪失により、水分の不足と栄養の低下をきたし、予後不良に陥るので、開胸手術により胸管の損傷部を縫合結紮する必要があります。