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乳房炎の防遏(prevention of mastitis)


乳房炎の防遏



乳牛の乳房炎の大多数は細菌感染に基因して発生するので、今日の進歩した微生物学その他の専門的知識を駆使することによって、乳房炎の完全な制圧を期待することは可能だと考えられます。


それにもかかわらず、乳房炎の発生は依然として跡を絶たず、症例数はあまり減少してはいません。


乳牛の飼育と搾乳の現場には、乳房の不潔、感染、またミルクの汚染をひきおこす要因が数多く存在します。


また複雑・高度な作用を営む乳牛の乳腺はデリケートな組織で傷つきやすく、それはまた乳牛自体のもつ資質とも関係しており、搾乳器械の使用は、さらに新しい要因を加えている。


したがって、理想的な衛生環境における飼育と搾乳を実現するための条件を整えることは、無菌手術の遂行以上に複雑かつ困難です。


獣医学、生物学、薬物学の知識がさらに進展し、また酪農、搾乳に従事する人々が本病の重要性と制圧の困難とを深く認識して、経費を投じてたゆまず努力するのでなければ、乳房炎の完全な防遏は容易に実現しないでしょう。


元来、乳房におこる新しい感染をそのたびごとに制圧することができれば、乳房炎の発生は減少の途をたどるはずです。


しかし、乳房炎の治療ひとつをとってみても、感染した菌が異なれば病性は同一ではなく、薬に対する菌の耐性獲得があり、また不顕性の非臨床型乳房炎の問題もあって、治療の成果には限界があることが指摘されています。


今日、乳房炎に対する根本的な対策として、次のような事項があげられます。

(ⅰ)育種による牛の改良。乳房炎をしばしば反復する牛を淘汰し、耐病性の系統をつくる。


(ⅱ)菌の増殖と代謝の阻止。


(ⅲ)生体の防衛機構の強化。食作用の促進、lactoferrinの適用などによって、細菌感染に対する牛自体の防衛力を高める。


(ⅳ)ワクチンの開発。


(ⅴ)治療薬、消毒薬の開発。



しかし、これらの方策が実際に成果を収めるまでには、今後なお多くの年月と強力な研究が必要であって、今日ただいまの要求に応えるまでには至っていません。


現在可能と考えられる対策の目標は、新しい感染の抑制と炎症の持続期間の短縮におかれて、次のような手段が推進されています。


(ⅰ)乳房炎の摘発と隔離


ストリップカップ法、CTMなどの検査法を励行して、臨床型乳房炎を早期に発見し、またバルクミルクの細胞数算定によって、非臨床型乳房炎を摘発して、牛を隔離する。


菌検索、薬剤感受性試験によって、適切な治療薬を選び、臨床型乳房炎には獣医師の指導のもとに乳房内注入療法を行う。


(ⅱ)搾乳衛生


搾乳の際に可能なかぎり、衛生的手段を実行する。たとえば、搾乳のたびごとにストリップカップ法を励行する。


清潔な乳房洗滌用バケツと洗滌用水の使用。


牛1頭ごとに乳房清拭用の布の交換、または紙タオルの使用。


搾乳者が1頭ごとに手を消毒する。手袋を使用し、たびたび交換する。


搾乳器、特にティートカップを1頭ごとに消毒する。


搾乳後に毎回、乳頭を消毒薬液に浸漬する-乳頭浸漬teat dipping。


これらの方策はいずれも乳房炎の発生を防ぐうえに非常に有効です。


そのうち乳頭浸漬(ディッピング)は、搾乳後、毎回乳頭を消毒薬液(次亜塩素酸ソーダ、クロールヘキシジン、ヨードホールなど)に1分間浸漬して、乳頭を消毒するもので、感染防止の効果が著しいと報告されています。


ただし、本法は主として接触伝染性のレンサ球菌、ブドウ球菌の集団的感染の防止に役立つもので、その他の大腸菌群などについては有効ではない。


(ⅲ)乾乳期の治療


乾乳した牛の全例に対して、早期に乳房炎治療薬を乳房内に注入する。


抗生物質のミルク混入がさけられるから、非臨床型および慢性の乳房炎はこの時期に治療します。治療には、長時間作用型の抗生物質(ベンザチンクロキサシリン、ベンザチンペニシリンGなど)が使用される。


ただしこれに対しては、病原菌と非病原菌との間の干渉効果を打ち消すおそれがあるという批判もある。


以上の方策を徹底的に採用した場合においても、乳房炎の発病率の低下(50% → 10%)、ミルク中細胞数の減少、泌乳量の増加など、改善の成果が明らかになるまでには6~18ヶ月かかるので、獣医師と酪農家が辛抱強く密接に協力することが不可欠の要件です。

キジと水鳥 仲田幸男
キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
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