薬理作用
水銀の生体に対する有害作用はHgであり、水銀化合物で不溶解性のものでも組織液には多少溶解して水銀イオンを遊離して作用をおよぼし、甚しい場合には局所および吸収作用を起すのです。
水銀化合物は蛋白質と化合すること及び類脂肪に溶解する性質があり、更に蛋白質との化合物は蛋白質の過剰と食塩に溶解するため組織液に溶解して被膜を形成せず、腐蝕作用が深部に達し、且つ水銀の毒性は組織を刺戟し炎症壊死を招きます。
また強力な酸と結合した可溶性塩はこの作用が強く、したがって塩酸との化合物である昇汞HgCl₂は、その作用が最も大きく水に不溶解性です。
甘汞Hg₂Cl₂は徐々に溶解し軽度に水銀イオンの作用を現すに過ぎず、局所作用として小腸の蠕動と分泌を亢進し下痢を発しますが、吸収作用を現すことは稀です。
したがって少量は医薬として利用されるのです。
故に水銀化合物の局所作用は、その溶液中の水銀イオンの濃度に正比例し、塩の解離性の大きい程作用は甚しいことになります。
昇汞のように大量の可溶性水銀塩を内用せるために起る急性胃腸炎は局所の腐蝕作用によるものです。
水銀塩類は蛋白質若しくは含窒素物と化合し可溶性の形態となつて生体内に吸収されます。
また水銀は粘膜、皮膚からも吸収されるため軟膏として適用し、あるいは常温において既に揮散する性質があり、体温によつて温められると揮散性を増して呼吸器粘膜より容易に吸収されます。
すなわち微細な水銀滴は毛嚢、汗腺、皮脂腺の導管内に入り、脂肪酸に溶解して漸次局所より吸収せられます。
少量の水銀剤を持続して用いると、体細胞に軽微の栄養刺戟を与え、同化作用を亢進するため赤血球の増加、体重の増量などを来すが、水銀量の多いときは異化作用を亢進して慢性水銀中毒を起します。
吸収された水銀は極めて徐々に、大部分は腸粘膜より排泄されますが、一部は尿、唾液に混ざって排泄され、少量は乳汁、汗、胃液、胆汁などにも証明されます。