砒素中毒・療法
急性中毒にはまず胃洗滌を行い、次で砒石解毒薬を内用して不溶性の砒素化合物を形成せしめるのです。即ち解毒薬は次のように水に溶解せる水酸化鉄であり、Fe₂(SO₄)₃(硫酸第二鉄)+ 3Mg O + 3H₂O(酸化マグネシウム)= Fe₂(OH)₆ + 3MgSO₄(水酸化鉄)
砒石に遇い水に不溶解の亜砒酸鉄の沈澱を生ずる。この製法は硫酸第二鉄液100分を蒸溜水250分に溶解したものと、別に蒸溜水250分と酸化マグネシウム15分を密に研和したものを作り、これを加え全部が糜粥となるまで注意して振盪し製します。
而して本剤は用に臨み新たに調製することを要します。
用量は毎4時間に馬、牛250~1000cc、犬1食匙宛の範囲です。この他場合によっては鉄粉あるいは他の鉄剤例えば過硫酸鉄、含糖酸化鉄のようなものも解毒薬として用い得られます。
また単に酸化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムも有効な解毒薬で、これは不溶解性の亜砒酸マグネシウムを形成するからでその用量は毎4時間に馬、牛、10.0~20.0、犬0.5~1.0です。
BALは砒素中毒の解毒薬として登場した優秀なものですが、一般の毒性金属は生体に入るとSH系酵素と結合し、その機能を阻止するため中毒が起きるというSH反応学説に基いて創製されたものです。
したがって中毒の際にSH剤を投与すると毒性金属はこれと結合し、また既に体内でSH基と結合したものをも奪取して酵素の機能を回復し、不溶解性の化合物として体外に排泄します。
胃腸粘膜に対する包摂薬として卵白および粘滑剤を用います。その他は対症療法であって麻痺にはエーテル酒精、葡萄酒、炭酸アンモニウム、カフェイン等の刺激剤、心臓衰弱には強心剤を用いる。
但し、アルカリ剤は砒素に対し禁忌で、これを用いるときは可溶性の亜砒酸アルカリを生じ吸収を速かならしめるものです。
慢性中毒の場合は更に利尿剤を用いて、その排泄を促すことも試むべきです。
砒素中毒にメチオニン、ビタミンKの応用は効果が少ないが尿所見のうち蛋白、ビリルビンに、血液所見では白血球数および百分率、肝機能検査から見ると多少効果があります。