症状
醋酸CH₃COOHは脂肪酸の代表者でアルコールの酸敗によって生ずることは古くから知られ、エステルとして動植物に産します。
醸造酒を空気中に放置すると酸味を帯びて来ますが、それは酒精が空気中に存在する醋酸菌Mycoderma acetiの作用によって空気中の酸素から酸化されて醋酸を生ずることによるものです。
この醋酸醱酵は醋酸菌中の酵素Alcoholoxydaseの作用によるのですが、酒精の含量の多いものは醋酸菌の生活を許さず、また純アルコールでは栄養分がないので醋酸菌が繁殖出来ず、何れも醋酸醱酵を起さない。
しかし、酒精粕や腐敗した清酒などでは醱酵して醋酸を生じます。醋酸菌の繁殖は35℃が最も盛んです。
家畜における中毒は酒精ならびに澱粉工場の残渣を用うるときに多く、これは粕中の酒精分が醋酸を生じたためです。
また、エンシレージ中の酸は主として乳酸ですが、醋酸ならびに酪酸の類を含み、酪酸は不良なもの程多量です。
良好なエンシレージの有機酸全量は2%以下で、乳酸は0.7~1.5%、醋酸は0.3~0.5%、酪酸0%の程度で全酸量では次の通りです。
乳酸50~75%、醋酸25~30%、酪酸0%
而して醋酸、酪酸の如きものは生体に対し何れも酸としての有害作用を及ぼすから、給与に当たっては注意を要し、酸度の著しく多いものは石灰其他で中和することが肝要です。
性状
醋酸中毒は胃腸炎および麻痺を来すもので、先ず食欲の不振、反芻の減弱を以て始まり、次で疝痛、下痢、蹌踉、脈搏の細数、呼吸の促拍があり、重症では昏睡のために斃れるものです。
山羊に就ての実験中毒では20kgのものに5%の醋酸510gを与えると24時間で斃死し、その症状は内服後1時間で劇しい呼吸困難ならびに肺水腫があり、後体特に腎臓部の圧痛、血尿、流涎、鼻漏を見、6時間で衰弱し終に麻痺状態となりました。
剖見
上記の山羊は肺水腫、肺充血ならびに胃腸粘膜の炎症即ち第四胃の発赤、小腸および大腸粘膜の著しい発赤、腫脹、豌豆大の溢血、バイエル氏腺の腫脹があり、他に腎、肝の実質炎があります。
治療
他の酸中毒と同じで、稀薄なアルカリ例えば石鹸水、ナトリウム液のような科学的解毒剤の内用および浣腸やカルシウムの静脈内注射を行い、次で粘滑剤を与えて胃腸粘膜を保護し、麻痺に対しては興奮剤を与える。
証明
醋酸は先ずその特異な臭気と酸性反応によって判別しますが、著明でないときは検体を蒸餾するかあるいは酒精で分離し抽出した水溶液に塩化鉄を加え、血赤色を生ずれば醋酸が存在します。而してこの色は1~2滴のアンモニアを加えると濃厚となります。
其他醋酸は苛性ソーダで中和し蒸発乾燥させるか若しくは砒石の一小塊を加えて熱し乾燥させると、特異なカコジルKakodyl臭を放つ。
あるいは酒精と硫酸とを加えて熱すれば醋酸エーテルの特臭を放つ。