2-pyridine aldoxime methiodideの略で、コリンエステラーゼChEを復活して遮断された自律神経を恢復させるもの、特にパラチオン系の農薬中毒に対し、アトロピンよりも遥かに優れ、また副作用も少ない。
PAMの性状
PAMは次の構造式を示し、純粋物は淡黄色、稜柱状の結晶で、融点219°(分解)、水に対して夏期室温で5%溶解しますが、アルコールは難溶です。
KewitzおよびWilson等の報告によると次の通りです。
ハツカネズミ
腹腔内注射
最小LD₅₀約100mg/kg
LD₅₀約136±6mg/kg : 静注140 : 腹腔内209 : 皮下注290
100%LD₅₀約180~200mg/kg
ハツカネズミに毎日5~30mg/kgを23日間、皮下注射したものでは寧ろ体重が増加したという。
解毒作用機転
アトロピンや自律神経遮断剤などは、神経末梢に直接作用するのに反し、PAMは一度ChEを復活して後に神経作用を恢復させますが、この発現効果は寧ろアトロピンに比し極めて急速です。
しかし、これ自身にはアセチルコリンを分解する作用はないものです。
一体ChEには特異性(血球)と非特異性(血清)とがあり、PAMは特異性ChEが主であり、非特異性ChEは従ですが、神経系のChEは特異性であるために、有機燐剤の中毒に対して著効を現すものと解せられています。
PAMの奏功機構は有機燐剤の燐酸成分と結合して分解させ、パラニトフェノールを排出するからです。
すなわち、パラチオンは生体に入ってパラオキソンとなり、そのうちの燐酸部分がPAMと結合し、一方パラニトロフェノールが排泄されます。
PAMの効果が急速に効くのはPと結合したChEは直ちに処理されて、血液から消失するかあるいは急速に非活性化されるからです。
また、PAMは一旦ChEを復活して後に神経に作用するものであるから、パラチオン剤が生体内に入ってChEと結合した場合に効果が多く、パラチオンの侵入前に予防的に用いても効が少ない。
Wilson氏等は試験管内実験でTEPPやDFPで阻害されたChEがPAMによって復活することを見出し、生体実験ではParaoxonの100%致死量を与えられたハツカネズミ10匹が、PAMの75mg/kgで全部救い得ると報じ、またハツカネズミにPAMとメチルパラチオンとを与え、両者の比が1:1のとき最も解毒効果が著明で、メチルパラチオン単独20mg/kgの毒性が7倍位弱められるという。
PAMの治験例
家兎にエチル・パラチンLD₅₀量としての10mg/kgを皮下注射し、症状が発現してからPAMの静注を行った試験によれば、30分毎にPAM25mg/kgを注射すると急速に筋繊維性攣縮、流涎、喘鳴が消失し、全身症状の好転を示しましたが、24時間後斃死しました。
この場合血液のChEはPAMによって著明に恢復しますが、一過性で再び低下します。
次いで15mg/kgの連続注射では、ChEの持続的恢復を見、且つ、投与を中止してもその低下は極めて軽度であるという。
一般にPAMを充分注射すれば中毒症状は極めて短時間に恢復し、早いものは注射瞬時で奏功して感覚あるいは運動不全麻痺の著減、呼吸状態の恢復、筋繊維性攣縮の消失などが現れます。
またPAMはアトロピンや自律神経遮断剤などとことなり症状が一様の歩調で消退することが特徴です。
家畜に対する注射量は未だ明確ではありませんが、PAMの毒性は非常に低いので、中毒家畜に対しては安心して応用できるから、アトロピンの場合と同様、なるべく初期に連続注射してChEを恢復させるべきです。
多くの実験からみると大動物では最初に5~10g前後の静脈内注射を試み、一般症状特に呼吸状態や筋繊維性攣縮の恢復を目標として、必要ならばさらに追加するのがよい。
もちろんPAMも経口、皮下注射いずれにも応用できますが、有機燐中毒に対しては緊急を要する場合がおおいので静注を原則とすべきです。
中毒動物の栄養保持の見地から往々消化酵素剤を使用する傾向があります。
然しながら中毒の結果、胃腸炎が高度に達した場合、例えば馬鈴薯中毒、黒斑病甘藷中毒、トウゴマ中毒などで腸粘膜の糜爛壊死した場合に消化剤殊に消化酵素剤を処方すると腸の自家消化を促進し、その生産により二次的中毒症状を呈し致命的となることが少なくないから注意すべきで又、蛋白質の濃厚な飼料も慎むべきです。