小動物
犬では、しばしば脊椎の骨折が突発します。交通事故、墜落、闘争が主な原因です。
ただちに予後を判定して、治療するか、安楽死かを決定しなければなりません。胸-腰部または腰部に多発します。椎体の骨折がもっとも多い。
軟部組織の損傷と出血が併発して脊髄、神経根を圧迫するため、重篤な合併症が発生します。
椎体には圧迫骨折または横骨折が発生します。
圧迫骨折は、頭部または後軀に加えられた強い衝撃によるもので、椎体の短縮がおこります。脊髄は若干圧迫されますが、その損傷は重度ではないのがふつうで、予後は比較的良好です。
犬が尾を振り、四肢の機能が維持されているならば、それは脊髄の断裂がない徴候で、予後は良好です。
横骨折は患部への直撃によるもので、脊髄が強く圧迫され、予後に注意を要します。
棘突起と横突起の骨折の場合には、脊髄に直接損傷が生じることは少なく、ほかに合併症がなければ予後は良好ですが、脊髄振盪のため一時的にその徴候が現れます。
また関節突起の骨折では、ふつう椎弓板(lamina arcus vertebrae)の若干の転位を伴うため、予後には注意する必要があります。
犬、ことに小型犬の軸椎の椎頭前端に突出する歯突起(dens)は、先天性に欠如する例がありますが、また外傷性に軸椎の椎体から分離することがあります。
その結果、環軸関節の亜脱臼が起って頸髄が圧迫され、疼痛、前肢のナックリング(knuckling)、四肢の運動異常などの徴候が現れます。
カラーの装着による頸の外固定によって治癒する例が多い。
最も重篤な全身障害が発生します。
横隔神経麻痺または延髄の呼吸中枢の抑制による呼吸麻痺のため、しばしば致命的です。四肢が脱力します。
治癒の可能性がない。
脊髄ショック(spinal shock)が発生し、完全な弛緩性麻痺、知覚喪失、患部より尾側の反射の消失、糞・尿の停滞がおこります。
しかし、ふつう上診時にはショックからある程度回復しており、後肢の脱力と、前肢の伸展硬直(Schiff-Sherrington 現象)を呈しています。
そして1~数日後には、後肢の反射が現れ、またしばしば反射異常亢進(hyperreflexia)になります。前肢の伸展硬直は数日後には減退します。
しかし、このような経過をたどる症例は、一般に治癒の見込みがない。
頸椎~腰椎の椎骨骨折のうち、次のような症例は治療可能とされています。
①不全麻痺で、骨格筋の緊張と伸縮および患部より尾側の反射活動がなお残存しており、肢の伸展硬直はときどき、または刺激を加えた時にだけ発生するもの。
②受傷直後で、X線検査の結果、椎骨の転位が脊柱管の径の1/3以下のもの。
これらの症例には、糞・尿の排泄障害と尾の運動の障害が発生しますが、全身的な運動には著変がない。
脊椎の骨折のために、ショック、出血、虚脱あるいはチアノーゼを呈している患畜には、酸素吸入、補液、輸血、強心薬・昇圧薬の投与などの応急処置を急いでほどこす。
神経組織の出血、浮腫その他の病変に対する止血薬、高張液の使用も必要です。
神経系の損傷が重度でない時には、保存的治療によって良い結果が得られることがあります。ことに第Ⅵ腰椎またはそれより尾側の椎骨の骨折では、疼痛が著しく、排糞・排尿の障害があり、尾が随意的に動かない例でも、ケージに閉じ込めておくだけでなおるものがあります。
また頸椎~腰椎の骨折でも、損傷が軽度ならば、ギプス包帯または副子で体の一部または全身の不動化をはかることによって、なおることがあります。
副子の材料としては合板、プラスチック製の板、アルミニウム板などが使われます。
手術の際の接近法は、椎間板ヘルニアの手術と同様です。すなわち、背線からメスを入れ、半側椎弓切除術または背側椎弓切除術を行って脊髄の圧迫を除去し、そのあとさまざまの方法で椎骨を固定します。
たとえばステンレススチール製の2枚の骨プレートで棘突起のなるべく基部を左右から挟み、あらかじめ棘突起にあけた孔にボルトを通し、ナットとワッシャーで締める。
プラスチック製の2枚のプレートを使う時には、棘間隙にボルトを通して締める。また椎体に骨プレートを装着し、または2本のピンを互いに反対方向に椎体に刺入して固定する方法もあり、これらは棘突起や椎弓に損傷がある時に応用されます。
プレートの椎体装着は、固定が確実で他の外固定法を併用する必要がないとされていますが、胸椎と第Ⅶ腰椎-仙骨間には適用困難です。
また体重が7kg以下の小型犬では、数個の棘突起の両側を、二重に折り曲げたKirschnerワイヤーで挟み、これを棘突起に固定する方法もあります。
なお、これらの手術法が適用できない場合に、最後の手段として、損傷をうけて破壊された椎骨を除去し、その間隙を人工椎骨で繋ぐ方法も検討されています。
第Ⅶ腰椎と仙骨の骨折は、脊髄を圧迫している骨(片)を除去するだけでよく、別に固定法を講ずる必要がない。
また第Ⅶ腰椎-仙骨間の骨折脱臼または仙腸関節の離開がある時には、整復した後、腸骨翼からSteinmannピンまたは海綿質用ネジを刺入して固定します。
尾椎の骨折の場合は、転位した椎骨を整復し、ワイヤーで横突起と関節突起を固定するか、あるいは小さいピンか骨ネジで固定します。
神経または神経根が断裂している時には、尾を切断する。
尾が屈曲した犬の場合には、しばしば椎骨の変形があるので、X線検査(2方向)によって確認し、可能ならば小さい骨プレートを使って固定します。
猫では尾椎の骨折がしばしば発生します。
また膀胱と結腸の麻痺が合併し、それらが長く治癒しないことがあります。
椎骨の転位が軽度ならば大多数は尾の機能が回復しますが、転位が顕著で尾の神経、筋の機能が脱落している時には、骨(片)を整復し、ワイヤーを使って、背側の突起を固定すると良い結果が得られる。しかし尾の麻痺が長く続き、壊死が発生した時には、尾根(肛門のレベル)で断尾します。
脊髄の浮腫、腫脹、出血壊死を抑えるため、高張液(25%マンニトール液)、グルココルチコイドが投与されます。
また抗炎、利尿、細胞保護の目的でDMSO(ジメチルスルフォキサイド)、また出血壊死にセロトニン、レボドーパが使用されます。
手術中は術部の軟組織を保護するため、常温または低温の等張液を灌注します。酸素吸入が必要です。
術後は排糞の維持、広域抗生物質あるいは尿路消毒薬の使用を含む泌尿器の管理、褥瘡の防止、栄養価の高い飼料の給与につとめます。
看護には時間と労力と、患畜に対する愛情が不可欠です。