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頭部の骨折(fractures of the skull and mandible) ~ 大動物・小動物

頭部の骨折 骨折

 
 

頭蓋と顔面の骨折(大動物)

 
 
自動車事故、衝突、蹴傷、牛の闘争などが原因となります。
 
 
牛では前頭骨の角突起の骨折がしばしば発生し、馬では顔面骨の骨折が多い。可能なかぎりX線検査を行う。
 
 

頭蓋骨の骨折

軽度ならば脳が損傷をうけることなく自然に治癒しますが、重度の骨折では急死することがあります。稀には脳に中等度の損傷が生じて、沈うつ、意識喪失、盲目などの徴候が現れます。
 
前頭骨の骨折では、骨片が前頭洞内に落下し、開放骨折であれば、腐骨形成または副鼻腔炎が継発して、創液の排出が持続します。
 
脳震盪ないし脳浮腫に対する治療の処置としては、抗炎症薬、利尿薬、高張液、酵素類の投与が行われます。
 
複雑骨折では腐骨片を摘出し、二次性の副鼻腔炎に対しては円鋸術をほどこして排膿をはかる必要があります。
 
脳の損傷がある場合の予後は、治療に対する反応の良否によって判断します。

 
 

顔面骨の骨折

顔面骨の骨折では、骨片の転位によって鼻道に損傷が生じ、呼吸が乱れて、呼吸性雑音を発し、また鼻出血、鼻漏を呈することが多い。
 
鼻骨の骨折では、骨片が鼻腔内に落下することがあります。切歯骨と上顎骨の骨折は馬に発生しますが、牛ではほとんど例がない。
 
顔面骨の骨折は、軽症ならば、顔面の変形はのこるが、自然治癒が得られることがあります。切歯骨と上顎骨の槽間縁に生じた骨折は、髄内釘を応用して固定します。
 
鼻骨の骨折では、呼吸障害を救うため、外科的に骨片を挙上させます。また上顎洞を形成する骨の骨折では、副鼻腔炎が継発するので、円鋸術、抜歯などの外科的処置が必要になります。腐骨片は摘出します。
 
顔面の骨折は、処置が適切であれば、一般に予後良好です。

 
 

小動物

 
 

頭蓋骨の骨折

外力の強さと骨の厚さに左右されますが、ほぼ一定のパターンをとり、骨片転位のない骨亀裂、陥没骨折または骨片遊離を伴う骨折が発生します。
 
臨床症状は脳の損傷の程度に比例します。昏睡が進行性に深くなり、嘔吐があり、瞳孔が拡大し、脈拍と呼吸が遅くなるのは、脳内圧の上昇を示唆する。
 
また、意識があり元気もあるが、末梢性の循環不全を呈している時は、頭部の損傷が原因ではなく、ほかのどこかに出血があることを示します。
 
眼球振盪は小脳または脳幹の損傷の際に生じやすい。X線検査が必要です。
 
主に、(a)陥没した骨片の挙上、(b)開放骨折の辺縁切除と、遊離骨片や異物の摘出、(c)脳内の血液凝塊の除去、を目標に手術を行って治療します。

 
 

顔面骨の骨折

犬、猫など小動物の顔面骨が損傷をうけることは、比較的少ない。
 
鼻骨の骨折では、骨膜起子または歯科用起子を鼻腔に挿入して、内側から骨片を整復します。視診と触診によって整復の成否をたしかめる。ふつうは固定を必要としない。
 
切歯骨と上顎骨の骨折では、歯根またはその周囲の骨にワイヤーを通して固定します。硬口蓋が裂けた時には、軟部組織の下にワイヤーを横に通し、左右両側の歯に縛定します。
 
治癒は比較的速いが、鼻腔が一部または完全に閉塞されることがあります。

 
 

下顎骨の骨折(大動物)

 
 
牛、馬では、頭部の骨折のうち、もっとも発生が多い。
 
 
蹴傷、転倒、衝突、開口器の装着失宜などに基因します。放線菌病(牛)、歯根膜炎(馬)は、しばしば素因になります。
 
 
また抜歯と歯切断の時に、操作の失宜 によって医原性に発生することがあります。馬では切歯の歯根部の骨折、槽間縁(一側または両側)の横骨折、粉砕骨折などがおこります。
 
 
牛では、下顎結合の離開がしばしば発生します。
 
 
咬筋と翼突筋で保護されている部分の骨折は少ないが、特に強い外力が作用した時に発生することがあり、臼歯の歯折を伴います。
 
 
下顎前部の骨折の症状としては、切歯の咬合不良、歯の弛緩・折損・脱落が生じ、患畜は検査をいやがる。舌が麻痺することがある。
 
 
破傷風またはその他の中枢神経系の疾患との鑑別診断が必要です。
 
 
槽間縁の骨折は、髄内釘を刺入して固定する(幼牛馬では歯根を損傷しないように注意する)。骨プレートを使用することもあります。
 
 
下顎結合の分離はワイヤーで歯を縛定して固定します。開放骨折にも内固定法が応用されます。その際には感染によって骨髄炎がおこることがありますが、排膿口を設置すれば多くは一過性にとどまり、骨の治癒を妨げることは少ない。
 
 
腐骨片は掻爬して除去する。歯根膜炎が合併した時には抜歯します。
 
 
術後は軟質の飼料を与え、あるいは液状の飼料を飲ませる。また馬では、経鼻的に胃カテーテルを挿入して、鼻翼に縫合固定し、これを通して給餌することが可能です(ただし2週間が限度)。
 
 
厚い咬筋と翼突筋に被われた個所の骨折は、骨片の転位が少なく、採食の介助と抗炎症の処置によって、自然治癒をみることが多い。
 
 
治癒後に歯根膜炎、歯の弛緩あるいは咬合不正がおこることがあるので、臼歯の異常についてたびたび検査する必要があります。
 
 
下顎骨骨折のあとで、二次性に顎関節の退行変性がおこると予後は不良ですが、それがなければ比較的簡易な治療法によってもよく治癒し、また開放骨折、粉砕骨折もかならずしも治癒を妨げない。
 
 

小動物

 
 
犬では下顎骨の骨折が、顔面骨の骨折よりも発生が多い。強制的な開口、抜歯、闘争などに基因します。一側性または両側性、単発性または多発性におこります。
 
 
下顎の腫脹、変形、激痛、血の混じった唾液が現れ、また顎が一側にずれて咬合不正になっていることがあります。
 
 
時に捻髪音を発し、また採食不能に陥る。触診とX線検査を行います。
 
 
転位のない骨膜下骨折は治療の必要がない。
 
 
その他の場合は、整復と固定によって正常の咬合を回復させる。固定操作の最後の段階は、口を閉じ、歯を正しく咬合させた上で行います。
 
 
骨折部の歯肉の裂創は、食物などの侵入を防ぎまた骨片を安定させるため、縫合閉鎖します。症例の大多数は複雑骨折で、患部の汚染があるので、局所的および全身的に化学療法を行います。
 
 

下顎結合の固定

第Ⅲ切歯と犬歯の間にワイヤーを通し、左右の切歯の歯頸を堅く縛る。
 
必要ならば歯間にワイヤーを通す小孔を開けます。それでも固定が不十分な時には、犬歯の尾側で、左右の下顎骨を貫いてKirschnerワイヤー、Steinmannピンまたは海綿質用骨ネジを挿入します。

 
 

下顎体と下顎枝の固定

この部分の骨折にはさまざまのタイプがあるから、それぞれについて固定法を工夫する必要があります。
 
歯頸の周囲または歯根の間隙にワイヤーを通して縫合することがあります。また下顎の腹側から接近し、下顎骨に単一のワイヤー縫合をほどこせば十分なこともあります。
 
屈橈性のあるKirschnerワイヤーまたはSteinmannピンによる髄内固定法に、歯頸のワイヤー縫合を併用することもあります。
 
また挿入したKirschnerワイヤーを、締結の原理にしたがって、ワイヤーで圧迫固定することがあります。血管と神経の損傷を最小にするため、下顎骨のなるべく腹側縁の近くを骨プレートで固定することもある。
 
なお、癒合欠如、整復不良、両側性または多発性の骨折または骨片の欠損の場合には、特にKirschner副子による固定が推奨されています。
 
術後は麻酔から醒めるまで、テープを巻いて口を不動化します。ただし、その間嘔吐には注意しなければなりません。
 
あとは軟らかい食物を給与することが必要です。
 
4~5週間で骨が癒合したならば、骨プレート以外の固定装置は除去して差し支えない。骨プレートは数か月残置します。
 
猫の頭部の骨折のうちでは、下顎結合の分離がもっとも多い。
 
犬歯の尾側をワイヤーで縛って固定します。ワイヤーは4週間後に除去します。下顎体の骨折は、細いピンの骨内挿入とワイヤー縫合の併用によって骨片を圧迫固定します。

 
 

舌骨の骨折(小動物)

犬では稀れに舌骨の骨折がおこることがあります。
 
局所の疼痛、嚥下困難、呼吸困難などの徴候があります。自然治癒を待ちますが、その間食物と水の嚥下および気道の確保に注意します。

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