陰睾(停留精巣、潜伏睾丸、潜在睾丸)
片側または両側の精巣が陰嚢内に下降していない場合を陰睾といいます。精巣が下降する時期は家畜の種類によって異なり、反芻動物では胎生期(牛では胎生3ヶ月)に下降する。
馬では生後約1週間の期間に下降するのがふつうですが、しかしなかにはこれが著しく遅延することがあり、生後2年までの間に自然の下降をみることがあるから、馬では早期に陰睾と断定することはかならずしも適切ではない。
豚では胎生期または生後間もなく下降する。
犬では出生直後には精巣はいまだ腹腔内の深部に位置しており、下降が完了する時期には品種および個体によって差があるが、いずれにしても生後かなり日時がたってからです。
そのため成犬になるまで陰睾に気付かずに過ごす例が珍しくない。
陰嚢内に下降しない精巣は腹腔内にとどまることがあり(腹腔陰睾abdominal cryptorchidism)また鼠径管内に位置することもある(鼠径陰睾inguinal cryptorchidism)。
いずれも精子形成は行われませんが、雄性ホルモンは生産される。これは陰嚢内よりも温度が高い場所にあるためと考えられています。
陰睾馬はしばしば神経質で興奮しやすく性欲はむしろ増進していることがあります。これは下降していない精巣における雄性ホルモン分泌の亢進によると考えられます。
犬ではしばしば陰嚢の前方で陰筒の傍らの皮下に位置していることがあり、また馬におけるように興奮しやすい性質になることはほとんどない。
陰睾は犬、馬、豚、羊において観察され、牛と山羊では稀です。主として先天的に生ずるもので、遺伝的な要因によると考えられているから、片側陰睾の場合でも繁殖に供してはならない。
鼠径陰睾の場合には、性腺刺激ホルモン(PMSとHCGの合剤あるいはFSHとLHの合剤)の反復投与によって精巣が陰嚢内に下降してくることがあるが、性成熟後にはその効果がなく、また腹腔陰睾の場合にも無効です。
犬の鼠径陰睾では手術によって精巣を陰嚢まで引き下げ得ることがありますが、これも精索あるいは精巣間膜mesorchiumが短い場合には成功しない。
性質の不良な陰睾馬に対しては、いわゆる陰睾手術(去勢手術)を行って精巣を摘出する。
陰睾の精巣には奇形腫、皮様嚢腫、毛球嚢腫、精上皮腫などの腫瘍の発生を見ることが少なくない。