第四胃拡張
左方または右方への変位を伴わない第四胃の病的な拡張状態で、これには第四胃の食滞を伴う場合と伴わない場合とがあり、3型が区別される。
(ⅱ)幽門の機械的閉塞によるもので、食滞が合併する。
(ⅲ)胃腸内細菌叢の異常に基因して、特に子牛に発生するもので、食滞は合併しないが、ときどき鼓脹症が発生する。
第1の型(機能的幽門狭窄)は、迷走神経性消化不良の一つで、第四胃に分布する迷走神経の分枝の傷害のために幽門が持続性に狭窄して、通過障害が生じ、その結果、第四胃に(しばしば第三胃にも)よく消化されていない粗大な食塊が充満して(食滞)、固くつまり(梗塞)、著しい拡張がおこる。
病状が進行すると、第一胃と第二胃もまた二次的に拡張し、内容物が過度につまっている。ただし、それらの内容物は機能的前方胃狭窄の例よりはやや稠密です。
患畜は食欲が減退し、元気なく、時に腹痛を訴える。多くは右側の下腹部が膨隆し、硬い触感がある。排糞量が減少し、末期には糞が暗色化して悪臭があり、乾燥し、また粘液に包まれる。徐拍を呈することがある。
直腸検査の際に腹底を持ち上げて探ると、腹腔底の右前方において、食物が詰まってかなり硬い第四胃にかろうじて触れることがある。X線検査が役立つことがある。
しかし幽門狭窄は、それが原因となって、遡行性に第一胃の拡張、あるいはさらに機能的前方胃狭窄が発生した段階で、はじめて認識される例が大多数で、診断には困難が多い。
したがって、疑わしい症例では、試験的に第一胃切開を行って、第四胃(および第三胃)を触診し、食滞(梗塞)の状況を調べ、また他の疾患との類症鑑別に役立てることが必要になります。迷走神経麻痺による幽門の完全狭窄は不治であるから即座に屠場に送る。
第2の型は、鈍性の異物(毛球、石、胎盤の一部、紐、縄など)、不消化なもつれた粗飼料、ミルクの凝固したカード、腫瘍(多くは白血病性)、あるいは腹膜炎性の癒着によって、第四胃の出口に部分的または完全な機械的閉塞がおこり、それに起因して生じた食滞による第四胃の拡張です。
臨床症状は機能性の幽門狭窄の場合と同様で、しばしば二次的に前胃に逆行性の食滞が発生した後にはじめて明瞭な症候が現れるという点でもよく似ている。
したがって、診断の要点も第1の型について述べた所と同様であって、試験的第一胃切開術を必要とする。
機械的な完全閉塞の症例は、時機を逸することなく外科手術を行わなければ、短時間内に死亡する。一方、部分的な閉塞があっても過食を伴わない第四胃拡張の場合には、比較的長い経過をたどりますが、適切な治療によって、時には全治することがあります。
すなわち、飼料の給与量を減らし、人工的に第一胃瘻を設置して、下剤の投与と健康牛の第一胃液の反復投与を試み、補液を十分に行い、また抗交感神経緊張薬とビタミンB複合剤を注射する。
また、これらの処置が無効な時にも、まだ第四胃が極端な拡張に陥っていない場合には、第四胃を切開し内容物をとりだして空にするか、または第一胃から第二胃・三胃口を経て流動パラフィン1lを注入したのち、第四胃を根気よくマッサージするか、または微温湯で徹底的に洗浄すれば、なおる見込みがあります。
内容物が多量につまっている時に、患畜が滑走あるいは転倒すると、第四胃が破裂することがあります。
第3の型は、管理の良好な生後4~8週の子牛に特にしばしば発生するもので、抗菌薬(抗生物質、サルファ剤)の不適当なまたは過度に長期の経口投与、あるいは不適当な飼料の給与に起因する胃腸内細菌叢の異常が原因となって発するもので、食物の過剰な貯留はおこらないが、時時鼓脹を伴う型の第四胃拡張です。
この場合には、初徴が一定せずまた特異な点は少ないが、子牛は発育が不十分になり、削痩し、全身的に脱水症状を呈し、また軽度の下痢が続く。
症状が顕著な例では、胴体が緊張を失って緩み、右下腹部が側方へふくれ出し、その部位の深部触診を行うと一種の硬い抵抗感がある。
早期であれば、保存的治療法によって治癒することがあります。抗生物質またはサルファ剤を投与している時はただちに中止し、良質の牧草を含む飼料の給与を規則正しく行い、緩下剤を投与し、健康牛の第一胃液または反芻された食塊を数回内服させる。
そのあとでも、第四胃の拡張が続いていても、まだ不可逆的と判定されないならば、第四胃を切開して内容を空にするのがよい。