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細菌感染症の化学療法(chemotherapy of the microbial diseases) ~ 抗菌スペクトル・耐性

細菌感染症の化学療法 化学療法および理学療法

 
 

抗菌スペクトル

 
 
各種の被検菌に対する化学療法薬の最小阻止濃度(MIC)の分布系列を、抗菌スペクトル(antibacterial spectrum)という。したがって抗菌スペクトルは、病原微生物に対する化学療法薬の有効範囲(作用域)を示すものであって、薬によってそれぞれ異なっている。
 
 
化学療法薬をその化学構造によって分類し、それぞれの抗菌スペクトルを一括して提示することはかなり困難です。
 
 
抗生物質のうち、クロラムフェニコールおよびテトラサイクリン系の抗菌スペクトルは特に範囲が広いので、広域抗生物質(broad spectrum antibiotics)と呼ばれる。
 
 
またマクロライド系は中域抗生物質(medium-spectrum antibiotics)と呼ばれることがある。なお、たとえばペニシリン系に属する抗生物質にも、酸に対しあるいはペニシリナーゼに対して安定で破壊されない誘導体が合成されて、PC-Gとは著しく異なる抗菌スペクトルを呈するものがあり、また同じアミノグリコシド系抗生物質にも、緑膿菌に対して有効なゲンタマイシンと無効なストレプトマイシンなどが含まれています。
 
 

耐性

 
 
薬剤によって増殖を阻止され、または殺滅される細菌を薬剤感受性菌(drug-sensi-tive bacteria)と呼び、このような作用を受けない細菌を薬剤耐性菌(drug-resistant bacteria)という。
 
 
耐性(抵抗性)には、感受性菌が変異あるいは遺伝子伝達によって獲得する獲得耐性(acquired resistance)と、本来の性質として耐性を示す自然耐性(natural resistance)とがあります。
 
 
緑膿菌は自然耐性菌の好例で、化学療法薬の発見以前に分離された保存菌株も多くの化学療法薬に耐性を示す。獲得耐性は多くの微生物において、また多数の化学療法薬についてみられるようになり、多剤耐性菌も出現して、治療上重大な問題となっている。
 
 
現在、とくに病原ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌、赤痢菌、結核菌の化学療法薬に対する耐性獲得が顕著です。細菌が化学療法薬に耐性になるのは、ふつうは遺伝子の自然的突然変異(spontaneous muta-tion)によるもので、これはそれぞれの菌において一定の確率(変異率)でおこるとされている。
 
 
ストレプトマイシン耐性の変異率は大腸菌で1×10⁻¹⁰、結核菌では1×10⁻⁸といわれています。このような耐性菌は、化学療法薬の作用をうけても生きのこり(選択作用)、これが繰り返されるうちにその菌全体として耐性となると考えられる(突然変異選択説)。
 
 
これに対して、紫外線、X線、ナイトロジェンマスタードなどの作用による場合と同様に、薬が変異誘起剤として作用して耐性への変異をおこす結果、遺伝的な耐性獲得がおこるとする誘導説(induction theory)、また感受性から耐性への変異を酵素的適応で説明する適応説(adaptation theory)もある。
 
 
しかし、他の細菌との相互作用なしでおこる耐性化の原因を、このようにして生じた突然変異だけと考えるには、まだ多くの異論がある。
 
 
次に、耐性化はまた他の耐性菌との相互作用によっても生じる。これは耐性菌から耐性遺伝子が伝達されることによっておこるもので、遺伝子伝達(genetic transfer)といわれる。
 
 
その1は遺伝子の接合または組み替え(conjugation or genetic recombination)によるもので、これには、接合によって大腸菌のオスからメスに遺伝物質が一方的に移行して、遺伝子の組み替えがおこる例のように染色体遺伝子が関係する場合と、大腸菌と赤痢菌、あるいは赤痢菌同士の間で移行するR因子のように、細胞質遺伝因子によって耐性菌から感受性菌に移行する場合とがある。
 
 
R因子の伝達は各種の腸内細菌の間で認められる。その2は、ブドウ球菌のファージが耐性菌の耐性遺伝子を感受性菌にもちこんでその菌を耐性化する例のような、導入(形質導入transduc-tion)による伝達で、ペニシリナーゼプラスミッドはこれによって伝達される。
 
 
なお、R因子は導入によっても伝達される。
 
 
感受性菌、耐性菌といっても、その区別は相対的なものです。同じ種類の細菌でも、菌株によって異なり、in vitroで示す感受性または耐性が臨床の実際と合致しないこともしばしばおこる。また病巣の種類や場所によって薬の効果がちがうこともあります。
 
 
つまり、この区別には、細菌学的な分け方と臨床的な分け方があって、両者を厳密に使い分けることはかならずしも必要でない場合が多い。臨床的には、一般に血液内の薬の有効濃度を基準として区別している。
 
 
化学療法を実施している際に問題となる獲得耐性には、だた1回の接触によって、急速に耐性が発展するストレプトマイシン型と、段階的にゆるやかに耐性が上昇するペニシリン型とがあります。
 
 
ストレプトマイシン型には、ストレプトマイシン、エリスロマイシン、オレアンドマイシン、ノボビオシン、フシジン酸、ナリジキシン酸が、またペニシリン型には、ペニシリン、クロラムフェニコール、ポリミキシンB、サルファ剤、ニトロフランが属します。
 
 
カナマイシン、フラジオマイシン、テトラサイクリンは両者の中間の型を示す。
 
 
化学療法薬について、耐性発現の難易をin vitroで調べると次のようです。
 
 

(ⅰ)もっとも耐性を生じやすい薬
ストレプトマイシン、カナマイシン、ノボビオシン

(ⅱ)比較的耐性を生じやすい薬

サルファ剤、ペニシリンG、マクロライド系

(ⅲ)比較的耐性を生じにくい薬

テトラサイクリン系、クロラムフェニコール、合成セファロスポリンC系、リンコマイシン、フラジオマイシン、コリスチン、ポリミキシンB、ラミシジンJ。

(ⅳ)非常に耐性を生じにくい薬

バンコマイシン、リストセチン。

 
 
また、これを菌種についてみると、次のようです。
 
 

(ⅰ)耐性を獲得しやすい菌

ブドウ球菌、大腸菌、赤痢菌、変形菌、緑膿菌、結核菌

(ⅱ)耐性を獲得しにくい菌

レンサ球菌、淋菌、肺炎球菌、髄膜炎菌

 
 
化学的に、または作用機序の上で関連のある化学療法薬の間では、病原菌に対して部分的、または完全な交叉耐性が進展することがあります。完全交叉耐性はテトラサイクリン系の相互間、ポリミキシン群の相互間およびサルファ剤相互間に認められる。
 
 
マクロライド系抗生物質相互の間では、in vitroで人為的に耐性となった菌株に対しては、完全交叉耐性を示しますが、臨床分離菌株では必ずしも交叉しない。
 
 
抗生物質とサルファ剤の間およびニトロフラン誘導体と他の化学療法薬の間の交叉耐性は認められていない。
 
 
外部から汚染されやすい病巣、たとえば開放創、下腿潰瘍、熱傷、挫傷などの治療に抗生物質を使用すると、耐性菌が発生しやすいことが知られています。

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