外科的感染症と化学療法
著しく進歩、発達した化学療法といえども、しかし決して万能ではないことを銘記しなければなりません。びまん性蜂窩織炎の形をとる感染症の場合には化学療法が主要な役割を演じますが、膿瘍に対しては手術による排液法が第一であり、また腐骨や異物が残留している複雑創に対して直接的かつもっとも有効な手段は、局所に徹底的な清掃手術をほどこすことです。
化学療法は、これらの場合には側面的援護の役割をはたす補助的手段にとどまる。さらに、無差別、盲目的な化学療法薬の使用は、重感染、過敏性反応、耐性菌の転移増殖などの原因となり、あるいは病変の臨床徴候をおおい隠して、診断を困難にする。
外科手術の基本原則は、あくまでも無菌操作を励行することです。化学療法薬の予防的、全身的投与がこれにとってかわることはできない。
清浄手術のあとで感染がおこった時には、無菌的操作の誤りや、抽劣な手術手技が原因としてつきとめられるのがふつうです。
しかし臨床的な状況によっては、たとえば細菌汚染の明らかな損傷、組織の汚染や損傷の著しい偶発的創傷、十分な辺縁切除術が行えない汚染したまたは挫滅された損傷、中空の腹腔内臓器の穿通性損傷などの治療、あるいは肺や脳の手術には、化学療法薬の全身的、予防的投与が必要となります。
これらの場合には、手術開始時にすでにその薬の有効血中濃度が達成されているように、予め数時間前(薬および投与法によって区々)に投与しておく。
静菌作用と殺菌作用
細菌に対する抗生物質およびサルファ剤の抑制作用は、酸化や菌蛋白の変性などによる消毒薬の作用機序とは異なり、濃度によって、無作用(無効)、刺激作用、菌の増殖を阻止する静菌作用(bacteriostatic action)または殺菌作用(bactericidal action)などが現れる。
臨床的用量を投与した場合に得られる血中濃度または臓器内濃度のレベルでは、2~3の抗生物質を除いて主に静菌的に作用しますが、尿中にかなりの高濃度で排泄される抗生物質は、殺菌的である場合も多い。
たとえば、ペニシリンはごくうすい濃度の時はかえって菌の発育を刺激しますが、それ以上の濃度では静菌的に、濃度がさらに増すと殺菌的にはたらき、ついには溶菌(bacteriolysis)をおこす。
このように、静菌、殺菌両作用の相違は多くの抗生物質では量的ですが、殺菌作用が比較的強いものとしては、ペニシリン系、合成セファロスポリンC系、アミノグリコシド系、ポリペプチド系抗生物質などがあり、一方、クロラムフェニコール、テトラサイクリン系、マクロライド系、リンコマイシンおよびニトロフラン誘導体は、静菌作用が主です。
サルファ剤にはまったく殺菌作用がなく、静菌作用だけです。
静菌作用によって発育・増殖が停止した病原菌の処理は、食菌現象、補体など生体固有の防衛機構が担当する。
作用機序
細菌の細胞壁の合成を阻害するため、菌は細胞壁を失って破壊死滅する。
菌の増殖期のみに作用する(ペニシリン系、合成セファロスポリンC系、ノボビオシン、バシトラシン、サイクロセリン)。
細菌の細胞質膜の透過性を障害するため、細胞成分の漏出により、菌体内に異常な変化が生じる(ポリミキシンB、コリスチン、グラミシジン)。
細菌の蛋白合成を阻害する。蛋白合成機構は複雑で多くの段階があり、薬によって作用点はことなる(クロラムフェニコール、テトラサイクリン、エリスロマイシン、ストレプトマイシン、カナマイシン、リンコマイシン)。
細菌の成長増殖に必須の栄養素である葉酸の前駆物質パラアミノ安息香酸(PABA)と競合拮抗して、葉酸の合成を妨げる(サルファ剤)
