輸血の目的である赤血球の補給、循環血量の維持、栄養学的価値、抗体補給、止血、造血機能に対する刺激などとあわせて緊急処置としての効果を期待するためには、給血動物から採取した新鮮な血液成分のすべてを余すところなく、そのまま輸注する全血輸血が望ましい。
この新鮮血輸血法は救急用としては速効的であり、動物の場合には、現在一般にこの方法が用いられています。
これに対して、供血動物から採血した血液を一定の期間容器にいれたままその性状が変わらないように保存し、必要に応じて輸血することは輸血実施上きわめて便利です。
人の場合は、すでに血液銀行制度、その他血液保存法について十分な処置が講ぜられて、その目的が達せられていますが、動物ではいまだ広く一般にはこのような設備がなく、研究者間において、それぞれ検討工夫されつつあります。
保存血液を確保する上でもっとも注意すべきことは、血液を無菌的に保存する必要性はいうまでもないが、さらに保存法によっては、赤血球の主成分であるカリウムやヘモグロビンが血漿中に漏出し、その副作用によって使用できなくなることを避けなければならない。
そのため、血液保存については各種の抗凝固液ないしは保存液が研究されています。
保存血液採取の際に用いる抗凝固液には、ACD 液、CPD 液、ACDL 液、Ed-Glugate Mg液、EDTA液などがあり、血液保存液として使用されています。
一般に広く使用されているACD(acid-citrate-dextrose)液の組成は、血清中のイオン化カルシウムと結合させて血液凝固を防止するためにクエン酸ソーダ0.8g、pH調整のためにクエン酸2.2g、赤血球をより長く生存させるためにブドウ糖2.45gに蒸留水100mlを加えたもので、これをACD液のA液という。
人では血液100mlに対しACD液15mlを加えたものが、保存血液として使用され、有効保存日数は4℃において21日間とされています。
なお、実験的に犬を用いて、ACD液50mlを犬血液200mlに加え、60時間室温(20℃以下)で保存した血液を使用した結果は、副作用も少なく十分使用に堪え得るとの報告があります。
なお犬の輸血の場合には新鮮血はもちろん保存血使用の場合にもミクロフィラリア(mf)陰性の血液を使用しなければならない。mfの生存率は保存4~6日までは100%、その後活性はしだいに減弱するが、12~18日後においても約50%を示す。
また21日後においてもなお約9%のmfは緩慢ではあるが活性が認められる。その他死滅したあるいは活性の減弱した虫体による末梢血管の閉塞や虫体感作による抗原抗体反応などの影響は十分に考えられるからです。
新鮮血および保存血(fresh blood and stored blood) ~ 犬の輸血の場合には新鮮血はもちろん保存血使用の場合にもミクロフィラリア(mf)陰性の血液を使用しなければならない
