輸血に使用される供血動物は、健康で栄養状態が良好で、異常を認めないものを選択しますが、特に病原性微生物や寄生虫などに感染しあるいはそれらを保有するものは、第一義的に避けなければいけません。
このため臨床諸検査を厳密に行い、その恐れのないことを確認する必要があります。
交差試験は、輸血の際に血液型を考慮することなく供血者と受血者の血液の適合性を直接検査する方法であって、一つは供血動物の血球と受血動物の血清、二つは受血動物の血球と供血動物の血清をそれぞれ交差させて、その時の反応の有無、強弱の程度によって輸血の可否を決定します。それらは主試験と副試験に分けられますが、そのうち、とくに主試験に重点を置いて判定する。
主試験とは受血動物の血清と供血動物の血球との反応、副試験とは受血動物の血球と供血動物の血清との反応をいい、主試験で凝集がみられたときは不適合であるから輸血は行わない。
副試験が陽性の場合は、その反応が強くなければ輸血が許される場合もある。
ようするに受血動物と供血動物の間で輸血によって抗体が生ずると推定されるときでも、第1回の輸血で受血動物の血清中に供血動物の血球と反応する抗体が存在しなければ主試験は陰性であるから輸血は差し支えない。
しかし、輸血によって受血動物の血清中に抗体が産生された場合は、主試験は陽性となるので、第2回以降の輸血は危険となります。
したがって、第2回以降の輸血には供血動物の変更が必要になります。
犬・猫の選択例について
輸血療法において第一義的に考慮されるのは、供血側および受血側の血液の適合性です。犬はDEA1(-)型を、猫はCa型を準備すればよいことになる。
さらに、そのような動物の血清中には異型輸血副作用発現の潜在因子としての自然抗体はあってはならない。猫や犬の供血動物としての条件は下記に示す通リです。
これらの条件の中で、輸血による疾病の水平感染にはとくに注意しなければなりません。
犬ではDEA1(-)型、猫はCa型であり、血清中には、抗体を有しないこと。
雄では体格は大きく、短毛、健康で性質は温和、雌であれば妊娠歴はないこと。
年齢は1歳以上であること。
輸血された経験はないこと。
血液学的、血清学的検査値は正常であること。
血液の原虫、吸血寄生虫(腸内寄生虫、ノミ、ダニなど)は、陰性であること。
ワクチネーションは受けていること。
犬は、ブルセラカニス抗体陰性、ミクロフィラリア陰性であること。
猫は、FeLV、FIP陰性であること。
供血動物からの採血は、20ml/kgの採血量であれば2~3週の間隔で行うことができる。短期間に頻回に採血することは避けるべきです。
採取した全血の中から、赤血球、白血球、血小板、血漿など必要な成分のみを輸血に使用し、残りの成分を供血側に返す場合は短期間の反復採血も可能となり、2~3日間連続して行うこともできる。
猫の循環血液量を60ml/kg、犬のそれを90ml/kgとすると、体重4kgの猫は240ml、体重10kgの犬であれば900mlの循環血液量を有することになる。
出血性ショックは循環血液量の約1/3量を失ったころから発現するので、安全限界量を1/4量とする。多量に採血した場合は、乳酸化リンゲル液などを用いて不足した循環血液量やサードスペースへの喪失分の補填を行うべきです。