輸血
出血のため大量の血液喪失があった場合、あるいはショックや低蛋白血症、二次的貧血などの際に、新鮮な健康血液を補給して失われた生体の機能を回復し、生命を取り止めるためには、輸血はきわめて有効であるとされています。
古くから血液中には何かきわめて高貴薬的なものが存在し、治病的にも、また強壮剤としても効果があるものと信じられ、動物の血液を人が飲用することが少なくなりました。
しかし現行の術式に近い方法で輸血が行われるようになったのは、William Harver(1616)の血液循環に関する発見があって以来のことです。
ヒトに世界で初めて輸血を実施したのはJear Baptiste Demis(1767)であって、子羊の血液を患者の静脈内に注入しました。人間の血液を用いたヒトの輸血はJames Blundell(1818)によってはじめて行われました。
しかし、輸血が今日にように実際に用いられるにいたったのは、血液型の発見(Karl Landsteiner,1901)と抗凝固剤の導入(Hustin,Agote,Lewi sohn,1919.クエン酸ソーダの応用)によるものです。
これによって輸血の際の副作用として発現する悪感戦慄、呼吸困難、意識喪失、血尿などは避けられ、輸血の実用価値が認められてきましたが、第二次世界大戦の貴重な経験にもとづいて人医界では、その効果が一層確認されるにいたりました。
獣医学の分野における動物の輸血は、人と異なって血球の凝集性が弱く、また血清の凝集価が低いため、一般に同種血球凝集反応によって血液型を明確に分類することが困難であるため、間接輸血法による輸血の実施は、いまだ人の場合のように必ずしも定常的には行い得ない状況にありました。
しかし近年、犬、猫の血液型については赤血球型を中心に、獣医療や医用実験動物としての輸血や移植の適合標識として評価され、その重要性は急速に見直されています。
それに伴い、判定用抗体や検査法の標準化なども急がれている。
輸血療法は従来、不足した循環血液量を補うためや貧血に対する治療法として全血輸血を主流としてきましたが、最近は赤血球、白血球、血小板、血漿などを分離して血液を有効に利用する血液成分療法へと切り替わりつつあります。
血液の適合性(blood compatibility)
人の輸血が血液型の研究成果によって安全に実施されるようになったのに反し、動物では人と異なって血球、血清の凝集性が弱く、一般には同種血球凝集反応による血液型の分類は困難であったため、輸血実施に際しては格別の考慮を払わなくても差し支えないという考え方もありました。
しかしこのことは極めて危険であり、人の場合と同様に輸血実施にあたっては、受血動物と供血動物間の血液型の適合、輸血回数などについて十分考慮を払う必要があります。