全身に甚大な影響を与えないような出血は自然止血の原理により処理されるのであまり支障をきたしませんが、大量の出血になるとショック状態の招来、感染などの危険もあるので、止血法を行わなければなりません。
また創傷における局所的出血でもその処置に必要なときは止血はすみやかに行わなけれなならない。
止血法
主として器械的操作によって止血する方法で、次の数種の方法があります。
圧迫法およびタンポン法(compression and tamponade)
出血部をガーゼで圧抵したり、創腔内にガーゼを充填したりする。出血点が不明であったり、実質性出血の場合に有効です。
挿入ガーゼにアドレナリンその他の止血薬を浸ませるとさらに効果がある。止血を一層確実にするためにはその上に圧迫包帯を行う。
比較的太い血管の損傷のような緊急時には、動脈ならば損傷個所よりも中心側、静脈出血では反対に末梢側の血管幹を手指で強く圧迫する。
これには血管の走行、位置を知っていれば容易に実施できるが、しかし本法は一時的のものです。
主として四肢の出血の際に応用されるもので、Esmarchの駆血帯や弾力性のあるバンド状のもので主要な血管幹部を強く緊縛する。
しかし本法はあくまで応急的な方法であって、長時間そのまま放置すると末梢の循環障害をおこし、壊死に陥る危険があるから、おおむね3時間以上続けてはならない。
結紮法は止血中もっとも確実な方法であって、血管の周囲に糸を回らし、これを結んで血管の損傷部位を閉鎖する。手術の際に認められる小さな出血は、止血鉗子で血管の方向に沿って捕捉し、絹糸で結紮する。
血管の結紮法は、損傷をうけた血管の状態あるいは手術中における出血の状況などによって、血管断端結紮、連続血管結紮、括約結紮、liga-tion by transfixion、集束結紮ligation en masseなど各種の方法が用いられます。
実質性出血に対する処置としては、電気メス、パクランpaquelinの焼灼器、烙鉄などによって止血を行ったり、創縁を密に縫合し、その圧迫によって止血する方法があり、実質臓器や粘膜の損傷に適用される。
薬物による止血(科学的止血法)
実質出血や毛細管出血oozingの際には、器械的止血法の補助、手術時の出血予防、後出血の処置、または内出血の治療用として各種の薬物が使用されてきました。
近時血液凝固の機序に関する研究が進み、止血薬の有効な使用法が実施されつつあります。現在これらの止血薬は、その薬効からみて局所的止血薬と全身的止血薬とに大別されます。
主として出血部位における血液の凝固を促進するために使用されるもので、物理的な止血作用を考えて、ゼラチン製剤をスポンジに浸したもの、あるいは酸化セルローズやアルギン酸ナトリウムのスポンジなどで圧抵する。
また凝固促進薬として種々開発されていますが、トロンビン製剤、フィブリンスポンジ、腐蝕収斂薬としてタンニン酸製剤、オキシドール、酢酸鉛、Bi化合物、ミョウバン、塩化第二鉄、Zn化合物など、その他Caイオン補給のためのカルシウム剤などもあり、また血管収縮薬としてアドレナリンも有効です。
これには次の2通りに区分される。
イ)間接止血薬
モルヒネ(胃腸出血)、コデイン(喀血)、ロートエキス(腸出血)、血圧降下薬(脳出血)などがあります。
ロ)直接止血薬
出血時間を短縮するものとしてカルシウム製剤の10%CaCl₂の静注、高張塩静注として10%NaCl、10%チトラーと、40%ブドウ糖、刺激体として輸血、自家血筋注、異種蛋白、類脂体などの投与が行われる。
また、凝固促進剤として肺、脾、脳脊髄よりのトロンボプラスチン製剤、ビタミン類(V.K、V.Cなど)、フィブリノーゲン製剤、10%ゼラチンの注射(皮下、静注)、色素剤のコンゴーレッド静注、ナフチオンニン静注、tolonium chlorideなど、その他フェノール化合物(イルメリン、ニアネシン)も有効です。
血管収縮薬としては、麦角製剤、スパルチン製剤、コルタニン製剤、脳下垂体後葉ホルモンなどが使用されます。また、血管強化剤としては、ルチン、V.P剤のようなビタミン剤も有効であり、カルシウム剤、カルバゾクロム(アドレノクロウム類)もいずれも血管強化薬として使用される。