ベンジルペニシリンは天然物であり、その量は生物活性単位で表現されますが、国際基準品では1国際単位(ISU)=0.6㎍です。
その他のペニシリンは半合成品であり、力価で表現されます。
抗菌作用
抗菌域から3種類に分類される。
グラム陽性菌だけに有効ですが、ペニシリナーゼ生産株には無効
グラム陽性菌だけに有効。メチシリンが代表薬
グラム陽性菌に対するMICの10倍程度で一部の陰性菌に有効。アンピリシンが代表薬。ペニシリナーゼ感受性で、β-ラクタマーゼ阻害薬の配合対象になる。
また、ペニシリンは感受性菌に対して静菌作用を示す濃度の数倍の濃度で殺菌作用を示す。
耐性菌
ペニシリンの耐性菌はブドウ球菌などに生じやすいが、アミノ配糖体に比べると緩徐に発生する。耐性菌の殆どはペニシリナーゼ生産株になった菌株です。
MRSA:MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と呼ばれる耐性菌は、元来すべてのβ-ラクタマーゼに抵抗性を持つはずのメチシリンに耐性になった菌株です。
この種の耐性菌は全てのβ-ラクタムに対しても耐性になっています。
MRSAによる感染症はヒトの院内感染だけに限られており、獣医畜産領域では殆ど発生していない。
体内動態
多くのペニシリン水溶液は筋注、皮下注後に急速に吸収されます。酸安定性のペニシリンは経口投与後に腸管から促通拡散系によって吸収される。
体内のpHでは解離度が高くなるので生体膜通過が困難です。したがって主として血漿と組織間液に分布し、組織中濃度は血漿中濃度の1/10~1/3になる。
脳には殆ど分布しない。
主として腎から排泄される。
腎の近位尿細管の能動輸送系によって分泌され、水溶性が高いので再吸収率は低い。どの薬物でも血中濃度の半減期は30分程度です。
ペニシリンは血漿中濃度が感受性菌のMIC以上なら生体内で有効に働く。しかし、高い濃度をなるべく長く維持するほど有効性は高くなる。
したがって1日投与量を頻回に分けて投与するほど有効性が確保できる。最低でも1日2回の投与が必要。
副作用
ペニシリンは極めて毒性の低い薬物で、副作用の頻度も低い。
ヒトで0.1%近く発生するといわれている過敏症反応は家畜では稀にみられるだけです。
個々の薬物
天然ペニシリンで各種の塩の製K塩は水溶性で静注、筋注に用いる。筋注で用いた時、Na塩より吸収が遅い。
プロカイン塩は水に不溶性で、混濁剤か油剤の製剤が筋注に用いられます。注射部位からの吸収が遅くなるために体内消失時間がK塩の約2倍になる。
ベンザチン塩は水に不溶性で、混濁剤が乾乳期乳房注入に用いられる。吸収性が極めて悪いので、注射で用いても血中濃度が高くならない。
アミノメトミジン塩は耐酸性であるから経口投与が可能です。ベンジルペニシリン以外のペニシリンでは、Na塩か遊離型で用いられることが多い。
ペニシリナーゼ抵抗性であるので、PCG耐性の菌にも有効です。抗菌スペクトルはPCGと同様。ナトリウム塩が治療用の乳房注入剤として用いられる。
ベンザンチン塩は乾乳期用の乳房炎予防薬として用いる。同効薬にジクロキサシリン(dicloxacillin)、ナフシリン(nafcillin)がある。
抗菌域拡張性ペニシリンで、グラム陽性菌のほか、高用量で大腸菌、サルモネラ、プロテウス属に有効です。経口投与での吸収性も優れており、注射・経口の両方に用いられる。
体内消失時間はPCGより遅い。
獣医領域では注射剤、経口剤が尿路、呼吸器、消化器の感染に用いられています。同効薬にアモキシシリン(amoxicillin)があります。
抗菌スペクトルが広く、高用量では緑膿菌にも有効です。
ペニシリン結合性蛋白2Bだけに特異的に結合する。この結合性蛋白はグラム陰性菌だけが持つので、このペニシリンは陰性菌だけに働く。