燐中毒・証明法
燐の証明法には燐その物の形でする場合と、蒸気にするときと燐酸の形でする方法の3種があります。
検体より燐を析出するには蒸溜法がよいですが、なるべき速かにしなければ、燐は酸化して次亜燐酸、亜燐酸または燐酸に変じます。
燐酸は本来生物の常在成分ですから、燐を証明し得ざるときは次亜燐酸、亜燐酸の検出を要することがあります。
(1)シェーレル Scheerer法
本法は燐蒸気が硝酸銀を還元して銀および燐化銀を生成して黒変する性質を応用したもので、先ず検体を細砕し、水を加えて攪拌し粥状としたものを硝子壜に取り、少量の酒石酸を溶解して酸性とし、コルク栓には予め硝酸銀溶液と醋酸鉛溶液とを潤した2片の小濾紙を懸垂しおき、これを壜中に入れて緩く栓をします。
次で暗室内あるいは全部を黒紙で包み、重盪煎上で弱く20~30分間加温して試験紙を観察します。
1)硝酸銀試験紙のみが黒変したときは、燐の存在を示す。
2)両紙とも黒変すれば燐および硫化水素の存在を示す。
3)両紙白色のときは燐の存在を否定する。
1)、2)の場合は、更に次の方法によつて試験しなければなりません。
(2)ミッチェルリッヒ Mitscherlich法
本法は燐蒸気は空気に触れて酸化する際発する燐光を観察する方法で次の装置を用い暗室で行う。
(a)のコルベンに硫酸酸性とした稀粥状の検体を入れ、重盪煎上で熱し乍らこれに(b)の水蒸気発生壜より水蒸気を導入して蒸溜を行い、溜出管(c)を注意して視る。
燐が存在すれば(c)下部に燐光を発し漸次上方に移り(d)の冷却器に達する。本邦によれば1mgの燐を20万倍に稀釈したときも明かに燐光を呈する。
蒸溜受器(e)中には通常亜燐酸が含まれ、検体中に多量の燐が含有すれば燐そのままを認めることがあります。
本法で燐光を認めれば燐の存在が確実ですが、陰性の場合は直ちに否定できない。それは検体中にアルコール、テレビン油、硫化水素、石炭酸、昇汞などが含有すれば、燐光を阻止するからで、この場合は更に(e)中の溜液に就て亜燐酸あるいは遊離燐の存在を検査しなければなりません。
ミッチェルリッヒ Mitscherlich法
次亜燐酸・亜燐酸の証明には、発生機の水素を用い、遊離燐の証明には水素ガスを用い、次のデュサール・ブロンドロー法を行います。
(3)デュサール・ブロンドロー Dusart-Blondlot法
本法は燐を水素ガスまたは発生機水素により燐化水素とし、これを水素ガスと共に燃焼させると、緑色焰を放つことを利用したものです。
この実施には下記の装置を用います。
デュサール・ブロンドロー Dusart-Blondlot法
すなわち先ず漏斗(a)より水を注入しその下端を水中に在るようにし、次で水素ガスを全装置内に導入して全く空気を排除した後、ガス放出口(f)に点火し、次で稀硫酸酸性の粥状とした検体(叉はミッチェルリッヒ法の溜液)を漏斗より注入し、時々壜(c)を動揺しつつ火焰が緑色となるか否かを検します。
この際磁皿の底面を火焰上に圧下すれば緑焰が明瞭となります。緑焰があれば検体に遊離燐の存在を示します。
而してガスを一度途中で洗い硫化水素を除くためにU字管(e)中には浮石末と加里滷汁を入れ、また燃焼しつつあるガラス管中のナトリウムが少しでも燃焼すると黄色となる恐れがあるから、放出口の尖端に白金嘴を用いることが良い。