消化性潰瘍の予防治療薬 ~ 豚・牛・鶏・犬猫



胃や上部小腸の粘膜は消化液の消化力に対して強い抵抗性を示すが、もし局所的に消化されて脱落すると消化性潰瘍(peptic ulcer)になる。


この病変の原因としては、①胃酸やペプシンの異常な分泌亢進、②粘膜の防御機構の弱化、③局所的貧血などが挙げられています。


ヒトの胃潰瘍では重要な病因としてHelicobacter pyloriの感染が主張されているが、家畜では確認されていない。

制酸薬(antacids)



胃腺は0.1Nの塩酸を分泌するので分泌直後の胃液のpHは1に近い。


胃液は潰瘍の攻撃因子でもあるから、損傷組織を保護する目的にアルカリ性の制酸薬が用いられる。汎用のアルカリ化薬は重曹(炭酸水素ナトリウム)ですが、経口投与すると胃酸を中和してpHを中性に近づけるために幽門部粘膜からのガストリン分泌系を亢めて反動的に胃酸分泌過多を起こす。


従って制酸薬として用いる薬物には、①中和力が弱くてpHを4.2以上には上げない、②中和容量が大きい、③中和後の生成物が非吸収性であるなどの条件を備えた薬物が用いられる。


代表的な化合物は水酸化アルミニウムケイ酸マグネシウムですが、経口投与後の有効時間が1~2時間程度でしかないので家畜への応用は困難です。

鎮痙薬(spasmolytics)と特異的コリン拮抗薬



鎮痙薬とは平滑筋の痙攣性収縮を抑制する薬物です。主として吸収性の低いアトロピン系薬物を用いる。この系の薬物は低用量で鎮痙作用を、高用量で胃酸分泌抑制作用を示す。


しかし胃酸分泌を抑制する用量では副作用が強く現れるので、専ら鎮痙用量を用いて胃の鎮痛を期待する。

プロパンテリン(propantheline)

四級アンモニウムを持つアトロピン系薬物。

経口投与後の吸収率が低く、また吸収されても中枢神経には入らない。

牛の第四胃潰瘍に60mg(人体用の2錠)を経口投与すると臨床症状が劇的に緩解するといわれている。但し、原因治療にはならない。

パパべリン(papaverine)

イソキノリン系のあへんアルカロイドで、オピオイド作動性はない。

殆ど全ての平滑筋に非特異的弛緩作用を示す。

人体用医薬品としては冠動脈拡張薬、気管支拡張薬、消化器鎮痙薬として用いられているが、有用性が低いので使用頻度は低下している。

ピレンゼピン(pirenzepine)

特異的M₁拮抗薬ですが、経口投与後の吸収率は低く、また中枢神経系には分布しない。

経口投与では胃酸分泌抑制作用が強く、胃平滑筋には殆ど作用しない。

胃腺を支配する内在神経叢の節後線維の細胞体にはM₁受容体があり、このニューロン活性を維持しているが、ピレンゼピンによって拮抗されるために分泌が抑制されると説明されている。

胃十二指腸潰瘍の治療に用いる。


その他の薬物


シメチジン

H₂拮抗薬は胃酸分泌抑制作用があるので潰瘍の治療薬として用いられる。

オメプラゾール(omeprazole)

胃腺の細胞壁ではH⁺K⁺ATPaseがH⁺とK⁺とを対向輸送させて胃酸を分泌する。

オメプラゾールはこの酵素を阻害して酸分泌を抑制する。pKa=4の弱塩基であるので経口投与後に十二指腸から吸収されて細胞壁の酸分画(分泌微細管内,pH=1)にイオン捕捉され、活性のあるイオン型に変わって作用する。

この様な性格のために体内の他の部位の同一酵素には作用しない。

犬猫では1日1回の投与で良く、2日目から作用が強く現れる。


薬物による消化性潰瘍の予防治療


肥育豚に胃食道部潰瘍が発生するが、飼料の粒度が細かすぎることが原因であるらしい。粘着性の強いポリアクリル酸ナトリウムを飼料に添加して予防している。

また子豚の輸送や飼育場所変更の時に胃腺部潰瘍が発生するが、ストレスが原因であるからアザペロンなどの精神安定薬を投与して予防する。

第四胃潰瘍が乳牛の育成期や出産後一か月以内に発生する。

診断されるとプロパンテリンを投与し、貧血が認められれば輸血する。輸血赤血球の半減期は約24時間であるから2日程度の効果しか期待できない。

この疾病は原因が明らかでないので予防法が確立していない。

雛に筋胃糜爛が発生するが潰瘍にまでは進行しない。

この筋胃糜爛の原因は栄養性であるらしく、最近の配合飼料給餌では発生していない。

犬猫

自然発生潰瘍は稀ですが、全身麻酔時の胃液逆流とか、NSAIDや皮質ホルモンの副作用によって食道や胃の糜爛・潰瘍が発生する。

この糜爛・潰瘍は、シメチジンやピレンゼピンで治療しますが、これらの薬物が無効の例にもオメプラゾールは有効であると報告されている。

キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
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