外見上の異常の発見
すでに視診の項に述べられた注意事項はもちろんのこと、外科的神経疾患には、とくに特異な外見上の所見を示すものがあるので、見のがすことのないように注意深く観察します。
意識の異常:
意識の異常には興奮、沈衰、注意力の低下、虚脱などがあって、耳や眼の動きや、畜主や飼料の見分けなどの様子の異常として現れます。
これらの異常な意識は、感染病(流行性脳炎、ジステンパーなど)と非感染病(中毒、疝痛など)を問わず内科疾患に見られることも少なくないが、外科的疾患においても中枢神経の外傷、外科的感染病のほか出血や疼痛、手術などによる外科的ショックにもとづいて見られることがある。
これらの外科的原因にもとづく虚脱では、眼瞼、口唇、鼻翼などの脱力による顔貌の変化、外的刺激に対する耳、眼などの反応性の低下、瞳孔の対光反射の消失、眼球震盪をはじめ、知覚障害や末梢血管運動神経の麻痺による症状など、各種の麻痺症状が現れる。
中枢の損傷にともなって沈衰や虚脱をおこす前には、時として早期に興奮症状を示すことがあります。
体形・肢勢:
外科的神経疾患の場合に頭部の下垂、頭部の傾斜、斜頸、反弓緊張opist hotonus、脊椎後彎kyphosisなどの異常な体形を示したり、一肢の挙上または下垂、両側肢の交叉などの特異な肢勢を取ることがあります。
また神経性の原因で肢を前後に開張してはげしく努責することもある(牛の狂犬病など)。
運動性:
動物を歩かせたり走らせると、四肢の動きの強拘、旋回、蹉跌、不確定な歩様などが見られ、これらの異常も外見の検査の際に見逃してはなりません。
触診
疾病によっては稟告や外見だけから、その病気の種類や部位を簡単に診断できる場合があるため、局所をすぐに触診して、診断を下してしまうことがあります。
しかし神経疾患の診断では、原因の存在する部位と症状の現れる部位が離れていることが少なくないから、まず全身の触診を行った上で局所の触診を行うように努めなければなりません。
たとえば乳腺の腫瘍が中枢に転移して中枢神経性の症状をおこす場合などでは、慎重な触診で原発腫瘍を発見し、病変の推定に努める。
全身の触診:
上述の理由にもとづいて触診はできるだけ慎重に行い、まず頭部からはじまって、尾と四肢に至る全身を一通り触診して、変形、冷温、知覚過敏の有無、各部の左右対称性などを調べる。
局所の触診:
ついで異常が外部から触れる場合には、その部と周囲をできるだけ広い範囲にわたって慎重に触診する。
これによって病変の程度、病変の存在した期間、病変の性質などを推定できることがあります。また、病変部が外部から触れない場合にも、原発病変がおよぼしている局所的影響を知り、他の疾病と鑑別するため、慎重に局所の触診を行う。
特殊検査
以上の一般的所見のほか、血液、尿、糞便などを形のごとく検査するのはもちろんのこと、視覚、嗅覚、聴覚などをはじめ、知覚と各種反射をしらべ、必要に応じてX線診断(単純撮影、脳の血管や脳室撮影、コンピューター断層写真撮影など)、筋電図、脳波などを用いてはじめて診断が確定する場合が少なくない。
すなわち、X線では神経機能異常の元となった原発的病変(たとえば脳の腫瘍、出血、水腫や神経管狭窄、骨の突出、脱臼など)を証明することができる。
また筋電図では生体の中枢と末梢とにおける運動神経-筋系の異常の部位とその性質をほぼ知ることによって診断を下す上の手掛りが得られる。
このほか筋電図によって求心性神経の異常を知り得る場合もあり、また筋自体の病変(たとえば筋の廃用萎縮、進行性筋萎縮など)でも特異な異常筋電図を示すことがあるから、この方法は外科的疾患において神経機能を検査し、他と類症鑑別する上に有力な手掛かりを与える。
たとえば頸部の強直や緊張について化骨性の硬脳膜炎、頸椎骨折、脱臼、椎間板ヘルニア、変形性椎体症、腫瘍、脳膜炎などを鑑別するためには触診だけでは不確実で、X線やその他の特殊診断によってはじめてその病変が明らかになるわけです。