双翅目(Diptera) ~ 蚊(mosquitoes)・形態・発育および習性・害・防除

5



双翅目に属する昆虫類は、家畜害虫として重要な種類を多数ふくんでいます。


たとえば、蚊、ヌカカ、ブユ、アブ、サシバエのように家畜をおそい吸血するものや、vectorとなって各種の病原体や寄生虫を媒介したり、中間宿主intermediate hostとなるものが多い。


また、ウシバエ、ウマバエ、ヒツジバエのように幼虫が宿主の体内に寄生して、ハエ幼虫症myiasisをおこすものや、畜産公害として問題となるイエバエ類などがあります。


昆虫の原形は4枚(2対)の翅をもっていますが、双翅目とはその名のとおり2枚(1対)の翅しかないので、これらの仲間は一見してわかります。


たとえば、アブはハチに非常に似ていて野外では間違うことが多いですが、この区別も翅の数をみれば容易です。


双翅目の後翅は退化して平均棍halterとなっています。


発育は卵 → 幼虫 → 蛹 → 成虫というように完全変態をします。家畜害虫としての双翅目の大きさ、形、色は種々です。


たとえばヌカカのように蚊帳の網目より小さなものから、翅を広げると数cmもあるアブのような大型のものがあります。


また、体形は細長いものやずんぐりしたものがあります。色は金属色に輝くもの、暗褐色あるいは黒色などさまざまです。


頭部は一般に球形に近い、頭部の表面のうち大きな割合をしめるのは複眼です。また、多くのものは単眼をもっています。


触角は数節に分れ、各節は同じような形をしているものや3節で第3節には端刺aristaをもっているものなど、種類により独特な形をしていて分類に役立っています。


口器は一般に液体を摂取するに適した構造になっているものがあります。


脚は3対あり、その形、色はさまざまです。また脚は基節、転節、腿節、𦙾節、跗節の5節よりなります。跗節の末端には1対の爪と2つの爪間体があります。


さらに、双翅目を長角亜目Nematoceraと短角亜目Brachyceraに分けています。


長角亜目の成虫は2枚の翅をもっています。触角は頭部より長くて同じような節からなっています。触角には端刺aristaはない。


ひげpalpusは一般にぶら下がっていて、4~5節からできています。翅の形や翅脈は短角亜目のものと違っています。


幼虫の頭部は良く発達し、伸縮自在ではありません。


短角亜目はかなり大きく、頑丈な2枚の翅をもっています。触角は短く、種類によってさまざまな形をしています。


一般に触角は3節よりなり、第3節は延長して環状になっているか、ハエの端刺に似ている剛毛が生えています。


ひげは2節で前方に突出しています。翅は多くの脈があり翅脈は長角亜目よりも一定しています。種類によっては鱗弁squamaがよく発達していますが、小さいかあるいはないものもあります。


これらの亜目に属する害虫は次のようです。

長角亜目‥蚊、ブユ、ヌカカ

短角亜目‥アブ、ハエ、ウマバエ、ウシバエ、ヒツジバエ


蚊(mosquitoes)



蚊はハエとともに人畜に身近かな害虫で、環境衛生の発達しなかった戦前あるいは戦後においても、夏季、蚊帳は欠かすことのできない生活用具でした。


これは蚊から身体をまもるためです。蚊には多数の種類があり、夜間になるとおびただしい蚊が吸血のため人畜を襲います。


このため睡眠の妨害となるばかりでなく、蚊はマラリヤ、フィラリア、日本脳炎など各種の疾病のvectorあるいは中間宿主となっているので、人畜の害虫のうちもっともきらわれている害虫の一つです。


夏季、畜舎や鶏舎を夜間訪れると牛、豚、鶏などは、がさがさと落ち着きがなく、動いていて安眠がさまたげられている状態がわかります。


夏の暑さというストレスとともに、蚊のため安眠ができなければ、泌乳、増体、産卵などという家畜の生産性は減退することは明らかです。


蚊やハエやアブとともに双翅目に属していて、完全変態をします。


一般に卵、幼虫、蛹は水棲ですが、成虫は飛翔し、草木の樹液、花の蜜などを吸っていて、雌はさらに産卵のため吸血します。

おもな種類ならびに分類上の位置


双翅目:Diptera
長角亜目:Nematocera
蚊科:Culicidae
ハマダラカ亜科:Anophelinae
シナハマダラカ:Anopheles sinensis
ナミカ亜科:Culicinae
イエカ属:Culex
アカイエカ:Culex pipiens pallens
コガタ(アカ)イエカ:C.tritaeniorhynchus summorosus
クロヤブカ属:Armigeres
オオクロヤブカ:Armigeres subalbatus
ヤブカ属:Aedes
ヒトスジシマカ:Aedes albopictus
トウゴウヤブカ:A.togoi
キンイロヤブカ:A.vexans nipponii
ネッタイシマカ:A.aegypti


蚊の形態


成虫

蚊の成虫は、体が細長くて小さく、頭部は球形をなし、長い脚と幅のせまい2枚の翅をもっています。また、体、脚および翅の翅脈と翅縁には鱗毛があり、口器は針のような吻proboscisになっています。

成虫の大きさは体長4.5mmくらいのものから10mmをこすような大型のものまであります。体は頭部、胸部および腹部の3部よりなっています。


蚊の頭部

頭部には大きな複眼、長い触角および細長い口器mouth partsがあります。

複眼は大きくて頭部の大部分をしめていますが、単眼はありません。触角は14~15節よりなり、第1節は小さく、第2節は球状になっています。

第3節以下は同じ形をしていて細い毛が輪状に生えています。触角は雄、雌で違った様相をなし、雄の触角の毛は長くて密生し、ふさふさした羽毛状ですが、雌の触角の毛は粗で短く貧弱です。

触角を調べると蚊の雄、雌は容易に区別できます。

口器は宿主の皮膚を刺して吸血に適するように、細長い吻が前方に伸びています。吻はしなやかで樋のような形の下唇labium(下唇の先端には唇弁labellumがある)、および下唇より硬い構造をした束があります。

この束は上唇labrum、舌状体hypopharynx、1対の小あごmaxillaおよび1対の大あごmandiblesからなっています。普通吸血しない時は、これらの束は下唇の溝の中にあって、吻は下唇だけしかわかりません。

口器は雄、雌とも外観は似ていますが、大あご、小あごは雌だけがもっていて、宿主の皮膚を刺して吸血するのに適しています。

コガタアカイエカの吻は中央の部分が黄白色になっています。また、1対の小あごひげmaxillary palpusは3~5節よりなり、吻の基部から突出しています。

小あごひげはハマダラカでは雄、雌とも同じ長さをしていますが、ナミカの多くの雌の小あごひげは短く、吻の数分の1の長さにすぎない。

また、ナミカのうちヤブカの小あごひげは雄、雌とも短い。


蚊の胸部

蚊の胸は頑丈でやや背部が丸く、卵円形で、横からみると楔形です。

前胸、中胸、後胸に分れていて剛毛が生えています。翅は細長い形をしていて、特有な翅脈があります。翅脈のうち第3脈は直線をなし、第2脈、第4脈(ともに脈の先端はホーク状に分れている)の間にあります。

また翅脈には鱗毛が生えています。

翅脈の形および鱗毛の色は種類の鑑別に役立っています。ハマダラカの翅は鱗毛によって黒白の斑状になっています。

脚は長くすらっとしていて3対あり、各脚は基部、転節、腿節、𦙾節、跗節の5節よりなっています。跗節はさらに数節に分れ末端には1対の爪と1対の肉盤および1つの爪間盤があります。


蚊の腹部

未吸血の蚊の腹部は細長い形をしていますが、飽血、または卵巣が発達している雌の腹部は膨脹して卵円形になります。

腹部の末端には外部生殖器があり、雄、雌で形を異にしていて、雄の外部生殖器は種類の鑑別に役立っています。


蚊の卵

卵は長い楕円形をしていますが、ハマダラカの卵の両側には浮袋floatがついています。

イエカの卵は塊すなわち卵舟egg raftを形成しますが、ハマダラカ、ヤブカは1コずつバラバラになっています。


蚊の幼虫

蚊の幼虫を俗にボーフラといっています。

卵から孵化したばかりの幼虫を1齢幼虫といい、その後脱皮、発育をくり返して、2齢、3齢、4齢幼虫になります。

幼虫は頭部、胸部、腹部の3部よりなり、頭部には触角antenna、眼、口器があります。口器は大あご、小あご、下唇、舌状体よりなり、また、食物をくだいたり、とらえたりする食刷毛feeding brushがあります。胸部はもっとも幅が広い。

ナミカの尾部には呼吸管siphon、尾葉などをそなえています(ハマダラカには呼吸管はない)。

呼吸管の形は種類によってかなり違っていて、呼吸管の長さが幅の約8倍もあるのがコガタアカイエカで、アカイエカは約5倍、キンイロヤブカ、ヒトスジシマカなどは2~3倍しかない。


蚊の蛹

俗にオニボーフラといい、頭胸部は融合して倒卵形をしています。

腹部はエビのように折れ曲がって、コンマ状(,)を呈しています。口はなく、頭胸部の背面にはラッパ状の呼吸角trumoetが1対生じています。

この呼吸角の形も種類によって違っています。

尾部には1対の遊泳片paddleがあります。


蚊の発育および習性


蚊の発育

蚊は完全変態する昆虫で、卵、幼虫、蛹、成虫の4期よりなります。

成虫は羽化後交尾をなし、その後雌は宿主を襲って吸血した後産卵します。成虫は陸棲ですが、多くの卵、幼虫、蛹は水中で生活し、卵から孵化した幼虫は1~4齢を経て蛹になります。

幼虫は空中の酸素または水中の溶存酸素を呼吸するとともに水中の有機物を食べます。ハマダラカは水面で、イエカは水面・水中で、ヤブカは水底で採食します。

オオクロヤブカ、トラフカクイカなどは肉食で他の蚊幼虫をも食べます。

昆虫の蛹は一般に餌をとらないで静止状態をしていますが、蚊の蛹はややおもむきが違っていて、餌はとらないでも水中で運動しています。

蚊の各発育段階別の日数は種類や気温、水温、食物などの外界の条件によって差はありますが、夏季ではおおむね卵から成虫になるまで10~20日かかります。

しかしながら、気温の低いときとか栄養が悪いときなどではこれより日数が延びることがあります。成虫の寿命は1~2ヶ月です。

●アカイエカ
吸血・産卵:2~4日
卵:1~3
幼虫:10
蛹:2~3
●シナハマダラカ
吸血・産卵:3日
卵:3
幼虫:14
蛹:2~3


蚊の越冬



蚊の越冬はじゅうぶんわかっていませんが、種類や環境によって成虫、卵あるいは幼虫で越冬することがおおい。


アカイエカ、コガタアカイエカ、シナハマダラカは成虫で越冬し、畜舎内や倉庫、藁たば、ほら穴の中など、あまり温度変化のないところにいます。


また、アカイエカは地下室などでも越冬します。


冬季、ビル内で蚊に刺されることがありますが、これはアカイエカの近縁の種類であるチカイエカで、冬でも繁殖するといわれています。


コガタアカイエカは九州、四国のような西南暖地では越冬しますが、関東地方などでは越冬しないといわれています。


コガタアカイエカが夏に関東地方にいるのは、西南地方から順次北上してきた蚊の集団でしょう。ヤブカの卵は概して乾燥に強く、ごみの中、草、水草、土の中などで越冬します。


キンイロヤブカは水田の土の中にも卵がいるといわれています。

蚊の吸血



蚊は宿主の上に飛んでくると、2~3秒皮膚上を動きまわって吸血に適した場所をさがしもとめます。大あごと小あごで皮膚を刺し、さらに上唇および舌状体を通す。


このとき下唇はこれらの刺針を支えるため吸血時には弓なりになります。


舌状体からは唾液を分泌し、刺針は管腔を形成して血液を吸引します。蚊の吸血は雌だけで雄は吸血しません。


蚊の吸血あるいは静止時の体位は種類によって違っていて、ハマダラカは宿主の体表などに対して斜の位置になりますが、イエカ、ヤブカは平行です。


蚊は一般に夜間活動し、吸血するものと思われていますが、オオクロヤブカなどは薄暮や早朝に活動し、時には昼間でも活動しています。


アカイエカ、コガタアカイエカ、シナハマダラカなどは明らかに夜間活動性です。キンイロヤブカは夜間活動しますが日中でも活動します。


飽血した蚊は、2~4日間動かないで静かにしています。この間卵巣は発達してくる。


この休息場所は蚊によって種々で、屋内侵入性の強い蚊は屋内、畜舎内であり、屋外性の蚊は草むら、木の割目などのかくれやすいところです。


ハマダラカとナミカ(イエカ属、ヤブカ属)の形態ならびに習性の比較をすると下記のようになります。

●ハマダラカ



卵の側方に1対の浮袋をもち、1個ずつ産卵。

幼虫

呼吸管ない。腹部の背面に掌状毛あり。
水面に平行して静止する。
水面で採食する。



呼吸角は短く、先は広がっている。

成虫

雄、雌の小あごひげは吻と同長。
小楯板はゆるい弧をなす。
腹部を物体からはなして静止する。


●ナミカ



浮袋はなく、イエカは卵舟として卵塊形成をしますが、ヤブカは1個ずつ産卵。

幼虫

呼吸管発達する。腹部の背面に掌状毛なし。
頭部を水中にし、呼吸管を水面に出して斜めに静止する。
イエカ属は水面、水中で、ヤブカ属は水底で採食します。



呼吸角は長く、先はやや広がって円筒状です。

成虫

雌の小あごひげは吻より短い。
雄の小あごひげはイエカでは吻と同長ですが、ヤブカでは短い。


蚊の産卵



飽血し卵がじゅうぶん発育した雌は産卵場所を求める。


蚊の産卵は水面に卵を1個ずつ産むもの、卵塊として産むもの、あるいは草の葉などに産むものなどがあります。


ハマダラカの卵は紡錘形をしていて、卵の左右に浮袋をもち、水面にバラバラと産みつけられます。


イエカは褐色の卵をしていて、卵は縦に束になって細長い卵塊を形成し、舟のような形をして水面に浮いているので卵舟といっています。


ヤブカは黒い長卵形をした卵で湿地や水槽の縁などにバラバラと産みつけられます。


1匹の雌が産卵する卵の数は種類によって違っていますが、雌は吸血、産卵をくり返しその間に40~数百個産卵します。


1回に産卵する数は種類により、また個体により違いますが、一般に50~150個です。

畜舎内に侵入するおもな蚊



蚊が好んで吸血する宿主動物はかなり決っていますが、シラミのように厳密な宿主嗜好性はありません。


牛舎や豚舎に侵入して牛、豚を吸血するおもな蚊はアカイエカ、コガタアカイエカ、シナハマダラカ、キンイロヤブカであり、その他の蚊は少ない。


しかし、これらの蚊の飛来数は畜舎のおかれている環境によってかなり違っています。畑地帯ではアカイエカ、キンイロヤブカが多く、コガタアカイエカ、シナハマダラカは少ない。


一方、水田地帯にある畜舎ではコガタアカイエカ、シナハマダラカが多くアカイエカ、キンイロヤブカは少ない。


また、コガタアカイエカは日本では南方地方に多く、シナハマダラカは概して北方におおい。鶏舎ではアカイエカが多く採集され、コガタアカイエカ、シナハマダラカは少ない。


ちなみにアカイエカの宿主嗜好性をみると、鶏をもっとも好み、次いで人、牛、馬ですが、コガタアカイエカは牛をもっとも好み、次いで人、鶏の順になります。


犬舎においてはアカイエカ、ヒトスジシマカが多い。さらに、オオクロヤブカは畜舎の周囲がきわめて汚染されているところとか、浄化槽の機能が円滑に行われず汚泥がたくさんたまっているようなところから発生して、畜舎内に侵入します。


トウゴウヤブカは海水のような塩分を含んでいる水からも発生するので海岸に近い畜舎に多い。

蚊の発生源



蚊の幼虫や蛹のいる場所、つまり発生源は種類によってかなり違っています。


割合広い地域で有機物が少ないところから発生する蚊とか、狭い水域から発生するもの、あるいは有機物の多い汚水、塩分のある水から発生するものなどさまざまです。


コガタアカイエカやシナハマダラカは広い水域で、水田、灌漑水路、排水溝、池沼、凹地の水溜まりなどから発生するといわれています。


また、アカイエカは畜舎や鶏舎周辺の排水溝、マンホール、水槽などで、かなり有機物があるような小さな水域でも幼虫は多数生息しています。


キンイロヤブカは川の岸辺や凹地で水が溜ったり、なくなったりするところに産卵し、雨が降ったりして水が卵を覆うと孵化します。


この卵や幼虫は湿りけがあれば生息できます。


ヒトスジシマカは竹切株、墓石、花立、金魚鉢、プラスチック容器、空罐のような小さな水域から発生します。オオクロヤブカは前述のように、糞尿が溜っているような有機物が多く、きたない場所から発生します。


したがって、アカイエカが多い場所では、その近くにきたない水溜りがあるのではないかということがわかり、オオクロヤブカが飛翔していれば、さらにきたない場所があるのではないかということが想像できます。

蚊の習性



蚊の発生源は種類によって違っているので、発生源の近くに吸血源がなければ、かなり遠くまで飛びます。たとえば、コガタアカイエカ、シナハマダラカなどは水田から発生することが多く、1日に3~8kmも飛ぶといわれています。


風などの影響でさらに行動範囲をのばすこともあります。


しかし、アカイエカなどは畜舎、鶏舎の近くの汚水から発生することが多く、吸血源も近くに存在するので、あまり遠くへは飛翔しません。


発生源で羽化した成虫は、交尾後雌だけが吸血活動にはいります。飽血したアカイエカの雌は畜舎や鶏舎などの物かげで休み、3~4日たつと付近の排水溝、水槽などで産卵します。


一方、コガタアカイエカやシナハマダラカは一般に発生源と吸血源が離れていて、飽血した雌は一時的に畜舎内で休むが、その晩のうちに畜舎内から脱出して発生源の近くの草の葉などにとまって休んでいます。


蚊の出現は一般に気温上昇の早い南方では早く、北にゆくにしたがって遅くなります。たとえば、九州、四国では3月下旬から発生がみられ、10月上旬まで飛翔していますが、東北、北海道では6月下旬から出現するといわれています。


種類別に出現状況をみると、アカイエカ、シナハマダラカは春早くから秋遅くまで長期間におよんでいますが、盛夏のころには一時的に減少します。


コガタアカイエカは7~8月に急激に数を増し、その後急激に減少します。


また、キンイロヤブカは春、秋に多く出現しますが、時には異常発生することもあります。

蚊の害



蚊の害は牛、馬、豚あるいは鶏に対する直接的なものとして、吸血したり、皮膚炎をおこしたり、安眠をさまたげたりして家畜生産性を減退させることです。


また間接的な害としては、各種の伝染病や寄生虫病を媒介(vector)して時には家畜を殺すこともあります。


一晩のうちに家畜が数百、数千の蚊に刺されると、その失血量ははなはだしく、体力は消耗します。とくに夏季では暑さによるストレスに加えて、蚊などの吸血による失血があれば体力の消耗はいちじるしい。


さらに、蚊に刺されると激しい痒みがあり、刺された部位は発赤、腫脹を起こしますが、これらは1、2日で消失します。


牛、豚などは痒みをやわらげるため側壁や柱などに体をこすりつけるので、膿痂疹を起こすこともあります。


このような蚊による直接的な害は泌乳量、増体量、産卵量などに影響して家畜の生産性はいちじるしく低下します。


次に、家畜の疾病の病原ウイルス、細菌、寄生虫などのvectorあるいは中間宿主としての害は非常に大きい。


人類に大恐怖をもたらしたマラリヤは蚊がvectorになっていることは衆知のことで、malaria controlということは現在でもWHO(国連、保健機関)の大きな課題です。


本邦の家畜の病気とこれを媒介するおもな蚊を示すと次のようです。

●日本脳炎

コガタアカイエカ、アカイエカ、シナハマダラカ、ヒトスジシマカ

●牛の異常産

キンイロヤブカ

●犬糸状虫症

アカイエカ、コガタアカイエカ、ヒトスジシマカ、トウゴウヤブカ

●セタリア症

トウゴウヤブカ、シナハマダラカ、オオクロヤブカ

●鶏痘

ネッタイイエカ

●豚コレラ

ネッタイシマカ

●馬伝染性貧血

アカイエカ


蚊の防除



蚊の幼虫、蛹はおもに水中にいるので、これらのいわゆる発生源対策と、成虫に対する対策を総合して実施しなければなりません。

蚊の発生源対策



まず蚊の発生源となる水溜りを少なくするという環境整備が重要です。


不要な水溜りを作らないことはもちろん必要ですが、排水溝や川などはごみで川の流れをとめてしまうことがあるので、計画的にごみ除去を行うようにします。


浄化槽はオオクロヤブカの発生源になりやすいので、定期的に清掃をします。地域の問題としては、曲っている川の流れを直線的にするという治水工事も重要でしょう。


次に水槽などにメダカ、金魚、グッピーなどを放養すると蚊の幼虫を捕食するのでこれらの天敵を利用します。


蚊の幼虫に作用する殺虫剤は数多くでているので、発生源に殺虫剤を散布します。


水田から発生するコガタアカイエカの防除に農作業を考慮して殺虫剤散布時期を決定した総合防除を実施しているところもあります。

蚊の成虫対策



吸血のため来襲する蚊、ならびに休息している蚊を防除するということが重要でしょう。


まず、吸血のため来襲する蚊に対しては、忌避剤を利用して蚊を寄せつけないようにすることは、適切な薬剤がないということも手伝って、あまり実用化されていません。


畜舎の出入口、窓などに蚊帳を吊るということも、蚊の侵入をおさえるという点で好ましい方法ですが、畜舎内の換気、気温上昇などという点からあまり実用化されていません。


ライトトラップを畜舎内に設置して蚊を誘引捕虫すると一晩で数千の蚊がとれることもあります。これは非常にいい方法ですが、ライトトラップの蛍光管によっては集まりやすい蚊と集まりにくい蚊があります。


次に蚊に対する殺虫剤の使用は、畜・鶏体上に薬剤散布をして吸血時に蚊を殺すということもありますが、現在では休息時の蚊を殺すということが主体です。


したがって、畜舎・鶏舎内外の残留噴霧ならびに余分な草むらをなくして、殺虫剤散布を実施しています。

キジと水鳥 仲田幸男
キジと水鳥 仲田幸男 昭和46年12月20日 ASIN: B000JA2ICE 泰文館 (1971)
スポンサーリンク
336×280
スポンサーリンク
336×280