性状
モリブデンは、天然には主として輝水鉛鉱MoS₂、水鉛鉛鉱PbMoO₄および水鉛赭MoO₃などとして産し、本邦では専ら輝水鉛鉱で少量ながら諸所に産出します。
輝水鉛鉱中に含む硫化モリブデンMoS₂は普通数%以下です。
モリブデンは粉末では灰白色ですが、金属では銀白色で金属光沢を有し王水、常温では相当安定ですが、濃硝酸と濃硫酸、あるいは沸化水素酸との混合物および硝酸に溶けます。
モリブデン化合物で重要なものはモリブデン酸アンモニウムで燐酸肥料などの燐酸の検出に用いられます。
化合物はⅡ価からⅥ価までありますが、最も普通のものはⅥ価のMoS₂、Ⅵ価の酸化モリブデンMoO₃、モリブデン酸塩M₂MoO₄などです。
モリブデン青Molybdenum blueはモリブデン酸の溶液、モリブデン塩溶液を亜硫酸ガス、硫化水素、沃化水素、ヒドラジン、ブドウ糖亜鉛などで取扱うと深青色の溶液となり、蒸発すると深青色の粉末が得られる。
これをモリブデン青といい、繊維特に絹の染料とします。
原因
モリブデン鉱による家畜中毒は、最近島根県大原地方の比較的山間地帯の工業地に飼育される和牛に発生するというが、その真の原因、経路などは未だ明らかにされていません。
英国では合金工場付近の放牧牛が多年に亘り慢性中毒を起し、その原因が工場の煙からモリブデンが排出され、それが牧草に沈着し、その採草によつて招来することが判明しました。
症状
人畜共に侵される慢性疾患で、和牛における主徴は漸次元気がなくなり、被毛が光沢を失い粗剛となり甚だしいものは黒色が灰白色となり、著しい栄養障害と四肢関節の腫脹および下痢を伴い跛行し、この症状は仔牛に著明で妊牛は屢々不妊症に陥り、また軽い歯の損傷がみられます。
放牧後3週間で牛の血中モリブデン値は平均0.12ppmで正常値0.05ppmよりも高く、これと反対に、血中銅濃度は正常値0.1mgに比べ極めて低く100cc中0.01~0.07mgであつたという。
療法
硫酸銅の投与(成牛 日量2g)がよく、餌に混ぜて与える。
本剤の連続投与により血中銅濃度が上昇し、臨床症状も顕著に改善されます。また予防的にも使用されます。